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マトリックスレザレクションズの感想 飲んだのは青いピルか赤いピルか

filmarksではボロクソ書いてしまいましたが、鑑賞後一晩明けて少し冷静になってきたので、頭の中を整理しようと思います。

以下ネタバレありです。

公開時から、賛否両論になるだろうと言われていた作品なので、自分はどっちになるだろうと戦々恐々だったが、案の定今作は受け入れ難い作品だった。
映画としてあまりにアラが多いし、よくわからない。
がっかりしてレビューには低い評価をつけてしまった。
だが、何となくもやもやしたものがずっと頭の中に残っていて、ダメな続編として切り捨ててしまっていいものか、と思い直してこのもやもやを言語化してみようと思う。

そもそも「マトリックス」が何故人を惹きつけるのか。
ビジュアルがスタイリッシュ。漫画的なアクション。バレットタイム。CG。
それはもちろん「マトリックス」の構成要素の1つではあるが、何よりも設定と世界観が秀逸だったというのが大きい。
自らの価値観そのものが揺らぐ作品というのは、そうそう多くない。
「マトリックス」はそういう作品だった。

この世界がコンピュータによって想像されたプログラム、シミュレーションの世界にすぎないという設定は、シミュレーション仮説といって大真面目に議論されている仮説でもある。

当時はSFでしかなかったが、実際この20年のIT技術の進歩やCGグラフィックの技術革新をみていると、あながち突拍子も無い話ではないのではないかと思えてくる。
シミュレーション仮説によると、この宇宙はすでに神=超文明人の箱庭で、我々の生きるこのシミュレーション世界もさらに発展していけば、その中で新たなシミュレーション=宇宙を生み出すことができる。
だが、このシミュレーション内のルール=物理法則を破ることはできないため、基本的にはシミュレーション内に生きる人々は、外側の世界=現実を認識することはできない。

まぁそれ以上考えると思考のドツボに嵌るのでそれくらいにしておくが、ここで「マトリックス」シリーズを見た後に1つの疑問が生まれる。
果たして、ネオが目覚めた世界、機械と人間が戦争し、わずかな人類が地下に暮らしている世界というのは本当に「現実」なのか?と。

メタ的に言うならこの疑問に対する答えは至極単純で、「現実」では無い、だ。
つまり我々のように、映画の外からフィクションとして「マトリックス」の世界を楽しむ眼が存在する。
「マトリックス」とはつまるところ、仮想現実から目覚めて現実の世界に復活する男、という設定のフィクションにすぎない。

そんなの当たり前じゃん、と思うかもしれない。
映画はどこまでいっても映画でしかないし、そこに語られる物語はどこまでいってもフィクションでしかない。
だが、その物語を観ている我々は?
どこか外の世界から、映画を見ている我々を見ているまた別の存在がいないとどうして言いきれるのか?

今作「マトリックス レザレクションズ」のマトリックス内の描写がマトリックスぽく無いという意見がある。
マトリックスといえば、緑と黒、数字と文字列、公衆電話にスーツとサングラスだと。
マトリックス内に囚われている人々は歯車のようにNPCのようになんの疑問も抱かず怠惰に日々を過ごしている存在だと。

ところが本作のマトリックスは明るい。
昼の描写が多いし、人々は冗談を言い合い、まるで現実だ。
もちろんこれは意図的な演出で、ネオを取り込んだマトリックスがアップデートを繰り返して進化しているということだ。
現実に限りなく近づいているのだから、ある意味マトリックスぽくないのは当たり前である。

そこでマトリックストリロジーのエピソードがゲーム作品として認知されているのも面白い。
メタい台詞や自己言及的な演出が多いのも、現実との同調を目指している。
そのうち「デッドプール」のようにキアヌがスクリーンに向かって語りかけてくるのでは無いかとびくびくした。
そのうち自分が「マトリックス」という作品を見ているのか、「マトリックス」という作品がある現実をスクリーンを通して見ているのかわからなくなった。
キアヌの髪型がジョン・ウィック にしか見えないのも意図的だろう。
自分が見ているのはネオなのか、キアヌ ・リーブスなのか、観客を揺さぶる意図があったのだと思われる。

というわけで、「マトリックス レザレクション」の前半は、自分が生きている世界の価値観を根底から揺らしてくるという意味で、マトリックスぽくは無いが間違い無くマトリックスだった。

ただ、そこから「フリーガイ」や「スターオーシャン」のように創造主に抗うのかと思いきや、ネオが「現実」に目覚めてからの本作は、トリニティを愛の力で救うという、至極単純なストーリーに終始する。
マトリックス内の方がリアリティが強く、現実世界の方がよっぽどフィクション的というのはある意味原点回帰とも言えるが、今まで散々小難しい哲学を盛り込んできたマトリックスシリーズがここにきて子供騙しのようなストーリーに終息していくのは、見ていてちょっと、いやかなり違和感があった。

それこそ、最後にこの話は全部ゲームの中の話ですよ、と言われても違和感がないほどに…。

実は、赤いピルだと思って飲んだ薬の中身は青いピルだったのではないか?
本当にネオは現実に目覚めたのか?
うーん、わからない。

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