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2022: Album Of The Year

2022: Album Of The Year

💫対象💫
2021年1月~2021年11月までにリリースされたアルバム、EPのうち、最低1回は聴き通したもの。

💫基準💫
1. 作品として優れていると感じること
2. 大きな影響力を持っている/持つべき作品であること
3. 純粋に自分がその作品を好きだということ

10.いよわ / わたしのヘリテージ

整頓された混沌
 2018年頃から活動を続ける、ボカロP・いよわの2枚目のフルアルバム。
 確かな音楽的素養と突拍子のないアイデアをブレンドさせ、オケとメロディを次々と「開発」。更に音選びに対する探究心も凄まじく、自由な発想で楽曲に革新的なアクセントを加えてくる(「オーバー!」の現実とはかけ離れたブラス音の使い方や、「さよならジャックポット」のオーケストラヒット?の音←しかもサビでタイミングズラしてくる?発想が怖い)。徹底的に予定調和から遠ざかっていく一方で楽曲として極めてキャッチーであり、「あだぽしゃ」の超大胆メロ展開で曲が成り立つのは正直意味不明だし、ピアノ叩き殴り曲(褒めてます) の「きゅうくらりん」をかわいい曲って印象にできるのもヤバい。こちらの想像を超越するそれらは「整頓された混沌」と呼ぶほかなく、さながらポップとアバンギャルドの限界を突き詰めるマッド・サイエンティストの実験場のよう。
 毎日凝りもせず音楽を聴いているとおこがましくも「ここがもっとこうならな」と思ったりするときがあるが、いよわには音楽に対する頭の使い方、音の聴こえ方からして他と違っていると思わざるをえず、「何度タイムリープしたって到達できそうもない実力と才能の壁」を感じさせる。

9.Angèle / Nonante-Cinq

Nonante-Cinq”(90と5)が示すアイデンティティ
 デビューアルバム「Brol」がヨーロッパにて大ヒット、更にデュア・リパへの客演で世界的にも注目を集めているベルギー生まれのSSW・アンジェルの2枚目となるフル・アルバム。楽し気な雰囲気のジャケットとは裏腹に恋人との別れやコロナ期間による悲しみ、憂鬱がクリエイティヴィティの根幹になった作品である。
 端麗な顔立ちや明るい曲調と対比するような、シニカルで毒のあるリリックは今作も健在で、フランス語話者(今回もフランス語で全編歌われている)でありながらベルギー人というアイデンティティを強く表明した「Bruxelles je t‘aime」や恋人との別れを悲しむ「Plus de send」など、フレンチ・ポップの中に数々のアイロニーや決意が潜む。また、ノスタルジックなポップ・ソング「Solo」や「Libra」などポップ・カルチャーとの共鳴も多くみられ、憂いとキャッチーのバランスが絶妙。
 前作に比べるとやや落ち着いた曲が多いが、それにより際立ったメロディラインとボーカルがアルバムの魅力を大きく上げている作品。

8.Predawn / The Gaze

極彩色のまなざし
  清水美和子によるソロプロジェクトの3rdフルアルバム。極彩色の「目」のジャケットが示す通り、世界を俯瞰して眺める清水のリアリストとしての一面と、インディー・フォーク/オルタナティブ・ロックなどに根差された豊かな音楽性が相互反応したことで、どこか浮世離れした、温かく祝祭的な空気を纏った作品へと仕上がっている。
 シガー・ロス、ヴァンパイア・ウィーケンド、レディオヘッドといったスターたちからの影響は勿論だが、フィービー・ブリジャーズやジュリアン・ベイカーなど現行のインディーアクトとも共振しているのも特徴的。
 言葉と音を丁寧に紡ぎ、美しいJKにパッケージされた本作は、東京から福岡に拠点を移しマイペースに活動を続ける清水や、それに負けず劣らずまったりとした空気感を放つスタッフアカウントの雰囲気も相まって、目まぐるしく変容していく時代の中で、貴重なセーフスペースのように感じる。

7.FKA twigs / CAPRISONGS

あなたがいたから 今日を生きていけた
 触れれば壊れてしまいそうな繊細さとそれに対比する強靭な人としての芯の太さ、更に驚異的な表現力に裏付けられた音楽的素養を持ち、同時に卓越した技術を持つダンサーでもある...あらゆる面で高いスキルを持った完璧主義のFKA twigsが、精神をギリギリまで削り産み出した大傑作「MAGDALENE」から比較的短いスパンで(とはいっても3年は経っているが) ミックステープという形式でリリースした作品。
 今作は客演が豪華でその人数も多く、 The Weekndとの「tears in the club」では二人の見事なコーラスのコンビネーションをみせ、ナイジェリアがルーツにあるPa Salieuとの「honda」ではアフロビーツを取り入れるなど相手によって音楽の形も変えており、バリエーションにも富んでいる。
  「LP1」以来のタッグとなるArcaなど、ポップ・フィールドで前衛的な活動を行う人たちを迎え入れた楽曲はどれも高品質である一方で、今作には常にリラックスしたムードが漂う。そこにはFKA twigsの、いや、タリア・バーネットの穏やかな心の解放、安らぎを垣間見ることができるだろう。

6.Julieta Venegas / Tu Historia

心を辿る静かな旅
 数度に渡るグラミー賞の受賞、近年ではバッド・バニーとのコラボ曲をリリースするなど、30年弱もの間ラテン・シーンを牽引するメキシコのレジェンド、フリエッタ・ベネガスの7年ぶりとなる通算8枚目のスタジオ・アルバム。
 長いキャリアの中でラテン音楽とポップ・ミュージックの融合にチャレンジし続けてきたフリエッタだが、今作はかなり内省的な内容になっている。ただ、派手なキャッチーさこそないもののポップスから離れているというわけではなく、一曲目「En tu Orilla」は「Blinding Lights」を彷彿とする軽やかなシンセ・ポップだし、「Mismo Amor」ではデュア・リパよろしく70s風のディスコ・ファンクを展開するなどポップ・シーンとのリンクも欠かさない。
 オルタナティブなポップ・ソングが並べられた前半と比べ、後半はアコースティック・ギターやオーケストラがフィーチャーされたノスタルジーな楽曲が主体に。 「La Nostalgia」から「Caminar Sola」の流れは特に素晴らしく、余計な飾りが不要なフリエッタの地のアーティスト・パワーを発揮している。

5.Raveena / Asha's Awakening

全てを赦し、受け容れる。癒しのユートピア
 インド系アメリカ人ラヴェーナの2ndフルアルバムは、彼女のスピリチュアルでリラックスした空間を表現した、温かい作品となった。今作は「宇宙から来たパンジャーブの女王のAsha」というキャラクターがコンセプトになっていて、その独特な世界観にやや面食らうかもしれないが、その違和感も全て受け容れるラヴェーナの寛大で深淵な精神世界にいざなわれていく。
 前半は、ボリウッドに着想を得たMVも楽しい「Rush」に始まり、数百年単位の愛を歌うベッドルーム・ポップ「Mystery」 など、インドというルーツとR&B/ソウルサウンドをうまく融和させた、柔らかでポップな曲が並ぶ。
 後半の「The Internet Is Like Eating Plastic」を境にアンビエントの要素も入ってきて、インドを代表する歌姫アシャ・プスリとの6分間にわたるセッション「Asha‘s Kiss」、愛の気づきと喪失を歌う「Love Overgrown」など心地よい感覚を深めていき、最後は13分間のラヴェーナ本人によるガイド付きマインドフルネス・トラックで締めくくる。まさにヒーリングの境地。
 全ての人にとっての安全な場所、癒しのユートピアがここにある。

4.Beyoncé / RENAISSANCE

世界は再びダンスし、愛と誇りを解き放つ
  RENAISSANCE<復興/再興>というタイトルの通り、今作には2つの<復興>がテーマ付けられている。一つは、パンデミックによって活動を縮小せざるをえなかったクラブ・カルチャーの復興。もう一つは、白人が主流となったダンス・ミュージック・カルチャーをブラック・クィア・コミュニティのもとに復興することだ。故に「RENAISSANCE」は、人々にダンスという本能的な欲求を呼び覚ますだけでなく、クィア・カルチャーひいてはブラック・カルチャーの誇りとその功績を掲げた作品でもある。
 ドラァグ・クイーンのレジェンド、モワ・ルネからディスコの女王ドナ・サマーまで、クラブカルチャーを代表する面々をリスペクトとしてサンプリングしつつ、ハウス、ファンク、ソウル、アフロなど多種多様なビートが混在。一方で若手のThe InternetのシドやPC MusicのA. G. Cookとコラボする楽曲もあり、そこにビヨンセの懐の深さが伺えるだけでなく、それらがシームレスに繋がっていく構成の巧みさが際立っている。
 そして最も驚きべきことは、今作が「3部作のうちの1作目」であること。期待(と、畏怖)を胸に、踊りながらその時を待とう。

3.RAY / Green

轟音の森に溺れよう
 東京を拠点に活動する当時4人組(現在は新体制となり5人組)のアイドルグループ・RAYの2枚目となるフルアルバム。
 前作「Pink」は一切逃げのないシューゲイザー・サウンドで高い評価を得た作品だったが、今作はエレクトロ・ミュージックと80sポップスを合わせた、グループだからこそできる歌い分けが心地よい「ムーンパレス」や、白昼夢のような感覚に陥るドリーム・ポップ「コハルヒ」、同じくドリーミーながら煌びやかなメロディが特徴的な「透明人間」などバリエーションに富んだ音楽を展開。「・・・・・・・・・」(読み:ドッツトーキョーなど。RAYの前身ユニット)にやや回帰したような作りになっている。
 勿論、日本のシューゲイザー職人たちによるアンセムも勢ぞろいで、アルバム終盤の「しづかの海」「愛はどこいったの?」「Rusty Message」の儚い轟音の連なりは圧巻。キラーチューン「わたし夜に泳ぐの」は白眉の出来。

2.ROSALÍA / MOTOMAMI

MOTOMAMI、モトマミ、もとまみ
 なんだこれは?前作「El Mal Querer」にて、現代的なR&B/HIP HOPのトンマナに基づきながら伝統的なフラメンコを歌い上げるという革命を起こしたロザリア。そんな彼女の新作は、自分でも制御しきれないほどに強大化したエネルギーが大爆発を起こし、見たこともない色と形の「何かヤバいもの」になって我々のもとに観測された。
 本作は、世界を席巻しているレゲトンを基調にしつつも様々な文化が混在しており、全てが分類不可能な状態にある。「CHICKEN TERIYAKI」「SAKURA」など日本の影響も強く、彼女のルーツは示す一方で他国の文化への興味関心も節操なく取り入れている。特に、美しいバラードから一転してグリッチコアのドリルをぶち込みその美を完膚なきまでに破壊してしまう「HENTAI」は、歌詞も曲もHENTAIそのもの。
 伝統を大胆に再定義し、世界各国の「私の好きなもの」を無邪気且つ暴力的に次々とアウトプット。そうして出来たこの超新星を言い表せる既存の言語は当然存在せず、だからこそロザリアはそれに「モトマミ」という新しい言葉を与えている。

1.Charli XCX / CRASH

ハイ・ヴォルテージ・ポップ・アルバム
 この10年間、チャーリーXCXは絶えずポップ・シーンを主戦場に、常に時代の半歩先を歩き、メジャーと相対したオルタナティブな立場を示してきた。「CRASH」は大衆的なポップスに対し極めて意識的になった作品で、September「Cry For You」をUKガラージにアレンジし、 Rina Sawayamaと共にクィア・カルチャーに捧げた「Beg For You」や、ロビンS「Show Me Love」をサンプリングした(奇しくもビヨンセが「Break My Soul」で同曲をサンプリングしている) 「Used To Know Me」など、80s~90sのダンス・ミュージックをリファレンスとした強度の高いポップな楽曲が連なっている。
 ポップ・シーンの世界は悪魔的で、常に混乱と緊張感に満ちている。でも、その狂乱の渦中からでないと伝わらない/変えられない現実があるとチャーリーXCXは知っている。だからこそこの予測不可能なメインストリームの真ん中で、躁状態で走り続けながらも大切な人々を守るべく、彼女は何度も何度も連呼し、自身を鼓舞していく。

“I’m high voltage, self-destructive, end it all so legendary”
(私はハイ・ヴォルテージで、自己破壊的、伝説的にすべてを終わらせてあげる)

2022: Song Of The Year

Red Velvet / Feel My Rhythm

SMエンタテインメントの代表的なKpopアイドルグループ。G線上のアリアをサンプリングしたバラードで、「Psycho」などの耽美的な世界観を得意とするRed Velvetの魅力が100%炸裂した名曲。Kpopのクラシックサンプリングブームの火付けとなった曲でもある。サンプリングの仕方もめちゃくちゃ強引でおもしろく、革新的なPKGや最高のMVも総合して、今年リリースした楽曲の中で紛れもなくマイベスト。

NewJeans / Hype Boy

Kpopという超大衆向けのコンテンツと、プロデューサーのミン・ヒジンやコンポーザーの250(イオゴン)のオタク気質な精神が入り混じり、その結果エヴァーグリーンなR&Bナンバーが爆誕。この開口の広さと分かる人だけに分かればいいエゴとのバランス感覚は結構奇跡的で、マネしようとしても並大抵のコントロール力では再現できないだろう。ROSALÍA「SAOKO」を参照にし、ネオペレロシーンで活躍するIsabella Lovestoryなど本場のアーティストが制作に携わったLE SSERAFIM「ANTIFRAGILE」との対比も非常に興味深く、HYBEひいては Kpopのクリエイティヴィティが今、最高潮に達していることが伺える。

The 1975 / About You

「モノクローム」という彼らの原点は、僕らの世代にとっての原点=ノスタルジアでもある。マッティが何故ここまで親密な存在でありながら誰よりもスーパースターでいられるのか?それは、全てがクリシェと化した虚無で白黒の現代に色を塗り続けるマッティが、僕らの夢と希望を投影した姿そのものだからだ。彼は今も語りかける。“Do you think I have forgotten about you?”(僕が君を忘れたとでも思っているの?)

Shygirl / Firefly

イギリスの新進気鋭のアーティストで、ArcaやMura Masa、Danny L Harleらを迎えて制作した今年リリースのデビューアルバムはかなりの高評価を得た。特にリードトラックである「Firefly」はエクスペリメンタルな要素を持ちつつも歌モノとしての強度を持ったポップソングで、ループする歌詞も含め非常に秀逸な出来。

NATHY PELUSO / VIVIR ASÍ ES MORIR DE AMOR

アルゼンチン生まれマドリード育ちのカンタンテ(歌手)で、これは1979年のCamilo Sestoの楽曲のカバー。ラテンはレゲトンだけでなくて日本の昭和歌謡と親和性を感じる歌心も持ち合わせており、音楽的土壌の豊かさを改めて感じる。ナティ・ペルソは、このゴージャスな原曲に90s的R&Bテイストのアレンジを加えることで、現代にも通ずる普遍的な魅力を新たに付与することに成功している。

fishbowl / 完食

うわ!これは…SMAPだ!アイドル界隈で確変状態に入っているヤマモトショウ(ex. ふぇのたす)がプロデューサーを務める、静岡が活動拠点のアイドルグループ。オマージュ元であろう「Shake」は勿論、津野米咲による傑作「Joy!」と並べて聴いても違和感なく、即ちハロプロにも通ずるような、ジャパニーズ・アイドルのシンボル的楽曲。

Suede / She Still Leads Me On

50代半ばを迎えた今も恐ろしく細いスキニーを履きこなすブレット・アンダーソンは、いつも我々の期待に応えてくれる。AL「Autofiction」のリードトラックのこの曲も、イントロのギターからブレットの静かな歌い出し、耽美的なサビの爆発に壮大なコーラスでラストを締めくくる。何もかもが完璧で絵に描いたように美しい。


Carly Rae Jepsen / The Loneliest Time feat. Rufus Wainwright

カーリーを「Call Me Maybe」「I Really Like You」だけの売れ線ポップシンガーとみなすのは大きな間違いである。常に高品質のグッド・ソングを提供し、第一線で活躍を続けるちょっとマニアックなポップ職人と呼ぶべきで、 70~80sのセンチメンタルなディスコをルーツに感じるこの優れたポップ・ソングにも、彼女の気品とこだわりが垣間見える。


バーバパパ / どん隆義 時代の肴 金曜歌謡劇場 2005年 録画

シレっと入れてみる。バーバパパの作品は狂気的なものが殆どだが、これは感動する。何ならちょっと泣いた。バーバパパは密かに言語センスが素晴らしくて、今作には「俺は知らずに酒の肴にされる夜も悪くない」という感涙モノの歌詞に表れている。

ももいろクローバーZ / ショービズ

推しが結婚するというイベントを初めて経験。推し始めた2012年くらいのこととか色々思い出して“人生”を感じたりして、我ながらマジでキモいなと思った。でも「10代の頃から推してる同い年のアイドルが結婚する」ってイベントはもう二度と経験できないことだし、あの頃からずっとモノノフしてて良かったって気持ちが一番最後に残った。高城れにへ、最高の賛辞を!
~オタクの自分語り 完~

2022: My Farorite Songs


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