スーツ







みちみち。
みっちみち。

取引先のKさんのスーツはいつもみっちみちだ。
腕なんかはもうパンパンで、生地がはじけ飛んでしまいそうな勢いだ。アニメか漫画のように、ボタンだってはじけ飛ぶんじゃないかと言うくらいだ。

とは言え、Kさんは肥満体型と言う訳でも豊満体型と言う訳でもない。そう、だからつまり、Kさんのスーツの下にはきっとすさまじい筋肉が隠されているに違いない。

埋蔵筋肉、Kさん埋蔵筋だ。

私はKさんと商談をする度にKさんのみちみちなスーツに目が行ってしまう。Kさんのストライプスーツがその埋蔵筋をより強調している。
筋肉の3Dモデリング、レンダリング…と言っただろか。
せめてそのストライプの盛り上がり、浮き沈みだけでもコピーを取らせて貰えないだろうか。今すぐKさんの腕を引っ掴んでコピー機につれて行きたい。そしてKさんの腕をコピー機に差し挟んでコピーするのだ。勿論カラーコピーに決まっている。いや、白黒の方がより良いのかもしれない。悩む。

などと妄想を繰り広げたいたら、Kさんに名前を呼ばれた。
いかんいかん。
今は商談に集中しなければ。
私はKさんに質問を投げかける。

「Kさんは何か身体を鍛えたりしてるんですか?」

しまった。
全く商談と関係ない事を聞いてしまった。
落ち着け私。
Kさんに失望されてしまう。
すぐさま取り繕わなければ。

「あ…その!すみません!いやその…いつもスーツがぱつんぱつんで、すごいなぁ、って思って…」

私が、繕っているのか針で指を縫っているのか分からない苦しい言い訳をしていると、一瞬呆気に取られていたKさんが口を開いた。

「ああ、これ、ただ太ってるだけですよ。お恥ずかしい」






なんだ、筋肉じゃないんだ。

その後、商談はスムーズに進んで、我が社は3000万の収益を得た。










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