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フリル







あの子がやって来る時間だ。

フリルのついた服を着たあの子。

バスに乗って、いつもどこかに行っている。

手に持っているのはなんだろう。

丸くて、くびれてて、丸くて。

母ちゃんに聞いたらバイオリンケースだ、って。

バイオリンって音がなる楽器なんだ、って。

音が鳴る楽器……、口笛みたいなモンかな?

口笛を箱に入れてあの子はバスを待っている。

待っている間、あの子は本を読んでいる。

本くらいは俺にだって分かる。

でも、なんの本かは分からない。

母ちゃんに聞いても分からない。

俺があの子に聞くしかない。

でも俺の服はフリルもついてない。

あと汚くて、臭い。

どうしよう。

悩んでたらバスが来てしまった。

あの子はバスに乗って行ってしまった。





あれ。何か落ちてる。

なんだろう。

葉っぱだ。紐がついた葉っぱだ。

なんで葉っぱに紐がついてるんだろう。

母ちゃんに聞いたら栞だ、って。

本を途中で閉じる時に使うんだ、って。

この栞、きっとあの子が落としたんだ。

明日、あの子に渡してあげよう。

それから何の本読んでるのか聞いて。

名前も聞こう。

そうと決まったら服を洗わなくちゃ。







よし。

洗った服も干した。

明日には乾くだろう。






あれ?

栞がない。どこだ?

どこにもない。






あ………





洗ったズボンの、ポケット………










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