「モンストロマン」3-4

 歩き続けた先、今まで何も見えなかった雪原に、巨大な建築物が見えた。それは遠くでは城のように見えたが、ある程度近づくとキリスト教の礼拝堂と似たようなものだと分かった。造りは古くジャックにも見覚えがある十一世紀のものに近い。
「もらった地図だと、あれが目的地だ」ジャックは地図を見ながら言う。
「こんなところに城を建てるなんて。やっぱりまともな奴らじゃねえな」キティは双眼鏡を覗きながら言った。
「城というよりは礼拝堂として建てたのかもしれない。昔見たことがある造りだ」
「どこから攻めたらいいもんか。フリードマンが出てくるのを待つわけにもいかねえからな」
「待っているうちに氷の彫像が二体できあがるだろうね」
「それに正面の門の他に出入口も見当たらないのが問題だ。これじゃ奇襲ができないぜ」
「正々堂々とやってみるしかないんじゃあないかなキティ」ジャックは地図を畳んで上着のポケットにしまう。「僕は派手に戦いたい」
「仕方ないか」キティは溜息をついた。
 礼拝堂に向かって歩きながら。キティはリュックから弾帯を取り出す。弾帯にはリヴォルバー用の四五口径弾が差し込まれている。彼女がそれを、肩から斜めに掛けるとき、鉄の音がした。
 それから拳銃のシリンダーを一度スイングアウトして、中身を確認する。二丁とも問題はなかった。
「重装備だ」ジャックが言う。
「西部劇みたいだろ?」キティは弾帯を指差して笑う。
 礼拝堂の入り口は高さ六メートルはある重厚なものだった。分厚い木の板が両開きになるように備え付けてある。ジャックが開けようとして近づくと、手を触れるまえに勝手に内側へ開いた。
 ジャックは斧を、キティは銃を構える。門が開ききると、中から黒いローブを着た中年の男が歩み出てきた。後からさらに二人の若い男が出てきた。彼らは手に猟銃を持っていた。
「どういったご用件でしょうか?」最初に出てきた男が言う。
「フリードマンに会いに来た」ジャックが答える。
「お約束はおありですか?」
「約束はない。でも、紹介されてきた」キティが言う。
「アルメルの紹介なんだけど君たちは聞いてないかな?」ジャックは男に近づく。
「聞いておりませんが」男は後ずさりした。それをかばうように若いほうの男が前に出る。
「そうか、困ったな」
 ジャックは前に出た男の首を斧で切り裂いた。噴き出した血を浴びた。
 中年の男が驚いた拍子に後ろに転び。もう一人の若い男が猟銃をジャックに向けた。
 銃を構えた男に向かってキティが発砲する。命中。頭に穴が開いて、男は横に倒れた。
 悲鳴を上げて後ずさりする中年の男にジャックが斧を振り下ろす。男は頭蓋骨が縦に割れて死んだ。
「まずは三人」ジャックが呟く。
「皆殺しにするのか?」キティが聞いた。
「結果的にはそうなるかもしれない」
 ジャックは顔についた血を指で延ばして、四本の線を描いた。
「おまじないが役に立てば良いけどな」キティがジャックを見て言った。
 礼拝堂の中に入る。入口から奥に向かって赤い絨毯が敷かれていた。絨毯の横には長椅子が並べて置いてあった。絨毯を辿って奥を見ると、四角い祭壇の上に山羊の頭のような形をした奇怪なオブジェクトが置かれていた。
 全体を見ると綺麗な装飾や豪華な銀の細工が目立つが、細かいところでは邪教じみた骨のオブジェが混じっている。ジャックにはこの礼拝堂が何を信仰しているのか理解できなかった。
 礼拝堂の奥にはかなりの人数が固まっていた。男に女、老人と若者が合わせて四十人ほど。様々な人種の信者たちが中央にいる一人の男を囲んでいる。そして、彼らは皆、剣や銃などの武器を持っていた。
「フリードマン!」ジャックが大声で呼びかける。
 信者たちが横にどいて、その間から浅黒い肌をした男が出てきた。
「来るとは思っていたが、ここまで早いとは。誰からこの場所を?」フリードマンが言う。
「君と同じ顔をした男だ」ジャックが答える。
「まったく、親というのは厄介だ。子の自立を喜べないらしい」
「僕の望みを叶えるには君に死んでもらう必要がある」
 信者たちがどよめく。
「簡単ではないが、それでも構わないか?」フリードマンが微笑む。
「構わない。僕は人殺しが得意だ」
 ジャックは雄叫びを上げてまっすぐに突撃する。武器を持った信者もそれに合わせて数名が向かってくる。
 キティが数発撃ったあとで横に動き、長椅子を盾にしながら移動し始めたのが見えた。
 こちらへと向かってきた男の剣がジャックに振り下ろされる。
 ジャックは躱さずに受けて、男の手を掴み、振り回して投げた。
 人のかたまりに男がぶつかると、信者たちの勢いが殺された。
 隙を見せた団体にジャックが突っ込んでいく。
 斧を振るたびに人間の四肢や臓物が吹き飛び、誰かが死んだ。
 背中から槍が突き刺さる。腹の側に突き抜けた槍の柄を掴んで抜いた。
 奪った槍を持ち主に刺して返す。
 最初に自分へと向かってきた団体は全員死んでいた。
 銃声がまた聞こえた。キティが援護してくれているのが分かる。
 フリードマンを見る。彼は祭壇にもたれて、こちらの様子を眺めていた。
 ジャックはさきほど使った槍を死体から引き抜き、左手でフリードマンに向かって投げた。
 近くにいた信者が動いて盾になった。フリードマンはそれを見て眉ひとつ動かさなかった。
「君は戦わないのか?」ジャックが叫ぶ。
「私はまだ遠慮しておくよ。引き続き余興を楽しんでくれ」

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