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村上春樹をめぐるジョギングコース

12月6日にはじめてのハーフマラソンを走った。トレーニング不足・寝不足で2時間40分の地獄を経験しました。足首がもげるかというくらい痛くて、最後の2kmは歩いてしまった。

1週間の休養をとるあいだ読んでいた本がこれ。

村上春樹ってキザなところはあるけど、感情をユーモラス・スタイリッシュに文章にすることにかけては随一というかすごい書き手ですね。僕もすっかりやる気を取り戻し、また今週から地元である芦屋を走ってます。

走りながら聴いているのが村上春樹 x 小川洋子の朗読会のPodcastです。小川さんはいま芦屋にお住まいとのこと。

村上さんの実家も阪神間(西宮・芦屋)だったので、Podcastを聴きながら走っていると「いま2人が話してる場所、ちょうどここやん」みたいな瞬間が何度もありました。なかなか面白いので「ハルキジョギングコース」として記事に残してみます。ジョギングやマラソンが趣味で神戸・大阪に来られる際は少しだけ足をのばして(JRの新快速を使えば、大阪駅から13分、三宮から7分と実はとても近いです)、走ってみてください。

■スタート地点 芦屋竹園ホテル
大阪や神戸で仕事が19:00におわったとして、芦屋に移動してここに1泊します。竹園は芦屋で唯一のホテルで、巨人軍の遠征時の定宿になってます。ちなみにここで原監督が・・・というのは置いておいて・・・。小綺麗なレストランで美味しいものを食べて、早めに寝て、翌朝。いそいそとランニングウェアに着替えてチェックアウト前にひと走りするイメージです。もちろんBGMはPodcast!

■ 第1ポイント 猿のいる公園(スタートから1km)
デビュー作「風の歌を聴け」で、主人公と鼠と呼ばれる友人が酔っ払い運転で突っ込んだ公園のモデルです。猿はもういなくて檻だけが残っています。僕が芦屋に引っ越してきたときは年老いた孔雀が飼われていましたが、それももういません。公園の裏手の打出教育文化センターは古い洋館で図書館が併設されており、村上さんもよく通ったとのこと。この記事のいちばん上のビジュアルの建物です。

時間はたっぷりあるし、するべきことは何もない。僕は街の中をゆっくりと車で回ってみた。海から山に向かって伸びた惨めなほど細長い町だ。川とテニス・コート、ゴルフ・コース、ずらりと並んだ広い屋敷、壁そして壁、幾つかの小綺麗なレストラン、ブティック、古い図書館、月見草の茂った野原、猿の檻のある公園、街はいつも同じだった。
風の歌を聴け / 村上春樹 1979

■第2ポイント 埋め立てられた海岸(スタートから3.5km)
おさる公園(地元ではいまもこう呼ばれている)から、阪神電車の踏切を渡り、古めかしい打出商店街を抜けてずっと南下。臨港線と呼ばれる大通りに達したところが芦屋海水浴場跡です。「跡」というのがポイントで、まったく海は見えません。

そのまま臨港線を西(右折)に向かいます。この道は歩道が広く、車道と完全に分離されていてジョギングするにはピッタリです。

じつは、車道と歩道を分ける黒くて古いコンクリートは昔の防波堤の名残です。1960年代、ここから南は海水浴場だったわけです(阪神間は南が海・北が山)。「風の歌を聴け」で、鼠と僕がビールを飲む(そして缶を投げ捨てる)のも、いまはなきこの「海」。居眠りするのはこの「堤防」です。

僕たちはビールの空缶を全部海に向って放り投げてしまうと、堤防にもたれ頭の上からダッフル・コートをかぶって一時間ばかり眠った。目が覚めた時、一種異様なばかりの生命力が僕の体中にみなぎっていた。不思議な気分だった。
「100キロだって走れる。」僕は鼠に言った。
「俺もさ。」鼠は僕に言った。
風の歌を聴け / 村上春樹 1979

■第3ポイント 高層アパートと川とテニス・コート(スタートから5km)
いまはもうない「海」とそこに住む人たちの家を見ながら走っていると、左手に「墓標のような高層アパート」が、芦屋川に達すると「川とテニス・コート」が見えます。

「カンガルー日和」に収録された「5月の海岸線」ではかなりネガティブな表現で再開発が描かれています。Podcastでも「なんでこんな事したんでしょうねー、湘南海岸だったら絶対しないと思う。当時の土建屋精神というか・・・」みたいな苦言を呈されていました。

一時間後にタクシーを海岸に停めた時、海は消えていた。
いや、正確に表現するなら、海は何キロも彼方に押しやられていた。
古い防波堤の名残だけが、かつての海岸道路に沿って何らかの記念品のように残されていた。
(中略)
そしてその荒野には何十棟もの高層アパートが、まるで巨大な墓標のように見渡す限りに立ち並んでいた。
5月の海岸線 / 村上春樹 1983

■帰り道
芦屋川沿いを走りながら竹園ホテルへもどります。阪神芦屋駅付近では、村上さんが学生時代によく寄ったという、本屋、宝盛館の前も通ります。

以上が、約10kmのハルキジョギングコースです。芦屋にお越しの際は、ぜひ村上春樹になった気分でジョグを楽しんでください!

■おまけ 「午後の最後の芝生」を思い出させるお屋敷
Podcastの対談の中で小川洋子さんが「私の一番好きな短編『午後の最後の芝生』を思い出させるキレイに整えられた芝生の家があって、そこを通る度に春樹さんを思い出します」と話されていました。おそらくこのお屋敷でしょう。僕も通るたびに「午後の最後の芝生」を思い出してます。ホテル竹園から歩いてすぐなので、余力があれば寄ってみてください。すべてはあくまで推測ですが・・・


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