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Voice of Cards 囚われの魔物  主人公二人について思うこと「0(ゼロ)が織りなす物語」

◇はじめに

スクウェア・エニックスさんのVoice of Card 囚われの魔物をクリアしました。こちらの記事はエンディングの事やクリア後要素まで包み隠さず話す、ネタバレ満載の語りになっています。未クリアないし動画が途中の方は、回れ右を推奨します。

暗めのファンタジーが好きな人は勿論、TRPGが好きな方もハマること請け合いのゲームシステム&雰囲気や、ゲームマスター様の名進行はすでに他の方が沢山お話しされていると思いますので、個人的に胸に突き刺さりまくったことを好き勝手ここでは語っていこうと思います。すべて筆者の勝手な感想でありもはや論の体もなしていないかもという感じなので、そこは最初にご容赦くださいませ。
発売からまだ日も浅いので、ゲーム内の画像は最後の一個だけです。とにかく文でただ熱く語るだけなので、それでもOKという方はどうぞ!

また、当方はこのシリーズは恥ずかしながら初プレイ(これの前に2作出ています)なので、シリーズの他のものがどんな感じなのかはわかっておりません。あくまで初心者の感想と流して頂ければ幸いです。






ここまでいらしたと言うことは、そういうことですね。よろしいのですね?
それではネタバレ満載始めます。

◇ふたつのゼロが満たされた先

この物語、話したいことが多すぎるのでここでは主人公の二人について感じたことに絞ってお話ししていこうと思います。物語の最後でも示唆されますが、アルエもルゴールも「すべて失った」ゼロの状態からお話が始まると言うところは極端に似ていると思います。
では、二人のゼロから始まった物語はそれぞれどこに向かったのでしょうか?

1.アルエ

ゲーム紹介にもあるように、本作はファンタジーの王道「村焼きから始まる復讐譚」です。
人間と魔物が敵対するこの世界、地下の集落で慎ましく暮らしていた主人公のアルエは、ある日魔物の襲撃を受けて家族も村の仲間も失ってしまいます。冒頭で少しだけ平和な村の日常が描写されているのでなおさらクるものがあります。(個人的にはここでお母様がプレゼントしてくれたアレが……もう、お母様は女神様か何かだったのでしょうか? という代物なのですがとりあえずおいておきます)

すべてを失って0(ゼロ)になってしまったアルエ、そんな彼女を救ったのはもう一人の主人公と言ってもいいでしょうか。ルゴールです。外のことを何も知らないアルエは彼に文字通り手を引かれて、地上の世界へ踏み出すことになります。
さあどれだけ凄い復讐譚が! と、思いますよね。ここまで来たら。私も思いました。そしたら実はある意味主題はサックリ終わってしまいまして。オイオイオイオイマジかよこれマジかと画面の向こうで面食らいました(苦笑)。しかし、その後のやりとりが美しいですね。「キレイな星空を見に行く」って……まさか復讐の「その後」を描いた物語だったなんて……。そういう意味でもゼロからの物語ですね。

その先には仲間である学者肌のプルケや人と魔物の間の子であるトラリス、サーカスや行商の人々をはじめ、様々な人や物事や魔物と出会っていきます。悲しい出会いや悪い人、見ているだけでやるせない人、運命が少しでもズレていたら殺し合わずにすんでいたかもしれない存在、様々な「思い」があり「人」がいて、時に「復讐」がありました。このみんなもまた皆一筋縄ではいかなくて皆魅力的なのですが……プルケやトラリスについて語るだけでも、プルケの話以上に長くなってしまうと思うのでとりあえずここではこう触れるだけにしておきます。

彼女は様々な事を悩み怒り悲しみ、時に笑いながら旅を続けていきます。
当初「星空を見に行く」の対になる選択肢に復讐はまだ終わっていない(魔物に復讐してやる!)的なものがありますけども、最後はもう、そういう彼女じゃないんですよね。トラリスへの態度が軟化していく様子が一番わかりやすい気がしますが、確実にアルエの視野や選択肢は広がっていくんです。

生きるため毒にまみれ続ける人々に衝撃を受けたり、サーカスに目を輝かせたり、悲しく矛盾だらけの殉教を目の当たりにして思い悩んだり、一人きりの老婆に心を寄せたり。魔物に対する憎しみを随所でにじませたり爆発させたりすることはありますが、それでも最後の村で「村長を殺さない」選択ができたり。

最初が完全に無知で無垢な感じ(世間知らずと言うだけでお馬鹿キャラではない)ゆえに、ゼロの器に水が満たされていっている感が凄いするんです。彼女にとってこの旅は、いっぱいになった器を抱えて新しい未来へ進む己の姿を見るための旅なのです。

2.ルゴール

さて、ここで一方ルゴールです。彼もまた身寄りがなく、街で奴隷や家畜のように扱われていた、と言うことが序盤で明かされます。彼もまたアルエと同じく孤独で復讐もすぐに果たしてしまった、ゼロの人間です。

そんな彼、物語を進めていくと随所でアルエをかばったり守ったり、気にかけたりします。出会いからして美しいボーイミーツガールではあるので恋愛的な風にも見えなくもないですが、筆者は恋と言うよりも、か弱くて傷つきやすい大事なものを臆病に守っているような、それでいて「彼女のために傷つくのだ」と決めているような、贖罪にも似た印象を受けるくらいには矢面に立ちまくっているなと思っていました。
アルエをかばいつつ尊重する姿はまるで、中世ファンタジーの騎士です。しかもこう、黒い鎧を着ている(実際彼の着られる装備にダークメイルがありますが)系のこう、陰のある騎士ですね。

ここで気にかかるのは、アルエの変化に比べてルゴールの変化ってわかりにくいんです。勿論彼が寡黙で、どちらかというと感情を希釈しがちなところがあるというのもあるのですが……上記のような行動を見るに、近い未来に墜ちることを知っているような悲壮感や覚悟が凄くあって……。
当初は筆者も、村の惨劇に間に合わなかったから過ぎた贖罪の意識かな? もしくは彼もまた孤児っぽいし、同じような経験があったトラウマかな? と思っていましたが、最後の最後に、その謎が明かされるんですよね。新天地に行くあたりから匂わせはあったんですが……。

彼は氷の神獣のように、自らの姿を変えていただけの「魔物」だったのです。

実のところ筆者は、彼が魔物だということには薄々勘づいてはいました。静かな村あたりからちょっと疑い初めて「ラム」とタイトルの絵と「妖精の粉の姿」がビシッとつながったとき鳥肌が立って、怖くて少しの間ゲームを開けないでいました(苦笑)。死んじゃったら嫌だよぅ…と、思っていまして。

彼自身の器も、水で満たされていたことが最後に語られます。しかしそれはアルエと同じ光ではありません。彼の守りたい未来には、「彼自身の姿がなかった」のです。
最後の戦いが終わった後、彼はとある敵から皆を守るため、皆を強制的に遠ざけてただ一人で戦いへ向かいます(このときに自身が魔物であることが暗に明かされます)。自身がゼロないしマイナスに落ちる代わりに、皆を救おうとするんですよね……。彼がいっぱいの器を抱えて見ていたのは希望でも未来でもなく、孤独な死だったのだと思います。

同じ旅をして同じものを見て同じものに絆を感じているのに、二人の見ていた未来は正反対だったことがわかります。

◇ゼロがゼロを救うとき

では、物語の最後をここで振り返ってみましょう。恐らく、ここでこのままお別れで終わり、でも、美しい最後であり最期であったと思います。ただ、現実は違います、そうはならないんです。まぁアルエの立ち位置を考えたら物語の構造としてこうの方がキレイに決まってるよね! というところではあるんですけど……やっぱり嬉しかったです。

ルゴールは、生き残ってくれます。

助けられたアルエ一行は、ルゴールを探して地下を彷徨います。やっと外に出た先にはルゴールがいるんですが、この時のやりとりがとても美しい。
アルエへはっきり己の正体を告げて、憎くないのかと聞くルゴール。彼女はラムの事に言及しながら(このときの「初めての友達(星を見る夢も告げている)」という台詞や一致もダブルミーニングっぽくて凄く素敵ですね)、あの言葉を告げます。あそこでああ言われたら、彼はああ返すしかないじゃないですか。なんてずるい。でも美しく、優しい……。
あの冒頭の会話が、何もかも失った上その復讐を終えてゼロになった二人があのとき紡いだ会話が、ここで再現される。アルエは、間違いなくここでルゴールを死の道から生の道へとひっぱったのです。彼が彼女をかつて、地下の村から救い出したように。

この二人はウロボロスのように、あるいはメビウスの輪のように。互いを光のある方向へ導いたのです。(そういえば0って二つ合わさると∞になりますね、と言うのは余談ですが)これはルゴール(真の姿)のカードでも示唆されていますが。本当に美しい。
この物語は、ゼロがゼロをを狭く孤独な世界から救い出して始まり、ゼロがゼロを、つまり未来なき道に囚われていた魔物を未来へと救い出して一つの終わりを迎えた物語とも言えるのではないでしょうか。

◇おわりに 情報の「ゼロ」について

最後に、想像力の話を少ししようかなと思います。
本作のシステムはTRPGを模しており、かなり特殊です。冒頭で書いたとおり立ち絵も一つですし、アイコンがカードなので動きは単調で簡素です。声優さんがついているのもゲームマスターただ一人です。だからこそ、様々な想像を働かせられます。

例えば、終盤明かされる魔物の正体となぜか襲いかかってこなかった個体がいたこと、神獣が暴走したのに他の魔物が誰もアルエの元を離れなかったこと、そして最後に追加されるアルエのカードの裏面。魔物のモーションが単調だからこそ、こういう想像もできるのではないでしょうか。彼らは最終的に、自分たちの意思でアルエの側についたと。

最初は捕まったり仲間を殺されたりで恨んでいたのでしょうけれど、戦闘を共にするうちに魔物の方が情にほだされたり同情したりした可能性だって考えられるのです。
なんと言っても彼女はまだ14歳の子供であり、彼らの先祖が遠い未来で守りたかったものだったのだから。アルエの村を壊滅させたあのトロルですら、自らの業を認識していたのだから。そしてアルエの家の奥にいたあの強い「彼」ですら、愛したものに倒される最期を予感していたのですから。

勿論上記は筆者の勝手な想像であり妄言甚だしいレベルですが、情報がゼロだからこそ、想像に広がりが生まれるのは本当に素敵だと思います。アルエの家の奥にいた「彼」とアルエや彼女の母親の関係って何だったんだろう、とも思いますしね。「彼」と一緒にラスボス、倒したいですね。プルケが言っていたあの未来の光景を、「彼」に見せたい。そしてやっぱりアルエのお母さんの女神感凄い。ミザルと対なのか??

その最たるものは、なんと言ってもエンディングじゃないかと私は思います。エンドロールをお聞きになったそこのあなたなら、筆者がこれから申そうとしていることにお気づきの方もいらっしゃると思います。

このゲームはキャラクターに一切声が当たっていません。その中で、アルエとルゴールの再出発を見届けたプレイヤーが最後に耳にするのは、本作のメインテーマ「星を探す旅~手にした輝きは~」です。ストーリー中と異なり若干スローペースで始まるこの曲は、優しいメロディと共に静かに始まり、女性の優しく小さく澄んだ声で紡がれます。
曲の中盤、旋律が節目を迎えたころ、男性ボーカルが入ってきます。こちらも優しいささやき声のような歌い方で。主旋律と副旋律を入れ替えながら、メインのフレーズを歌って間奏に入ります。そしてその後は最後まで、二人で美しい旋律を紡ぎ続けるのです。

この時涙腺が崩壊したのは私だけでは無いと思っています。実際サントラDLサイトの人気具合を見るともう圧巻ですし、確か作曲者様もツインボーカルについてインタビューで「掛け合い」と言及なさっていた気がしますし。 
私たちは、アルエの声もルゴールの声も知りません。だから思ったのではないでしょうか、「あぁ、二人が歌っているんだ」と。
このテーマソングは章の間にも流れていますが、本作のBGM、至る所にコーラスが使われているのでそこに紛れて(?)いて、ほんとこのとき初めてグサッときたんです……。
勿論、本当はそうじゃないかもしれません、筆者が勝手に思ったことです。でも、語らないことでこんな豊かで美事な表現ができるんだ、と衝撃を受け胸がいっぱいになりました。二人だけの舞踏会を見ているような、神聖な神殿の最奥の美しい部屋を垣間見たような。心に染み入る時間でした。

これらもまた、本当に「ゼロが紡ぐ美しい物語」だな、と思います。



ここまでこのような乱文に付き合って頂き、本当にありがとうございました。なんだか当たり前のことをただただ話していただけな気もしますが、クリアした勢いで胸にたまっていた熱い思いを筆の赴くままに吐き出してしまいました……。
今回書いたところ以外にもいいところは沢山ありますし、同じくゼロから始まったけどそこから何かを得た「先達」であるプルケやトラリス、いつまでも味方でいてくれる行商一行をはじめ、凄くいいキャラはいっぱいいるので! 
もっともっと沢山の人が、アルエ達に出会ってくれますように!


  unsung heroes、砂漠の星達よ、どうか良き旅路を。

Thank you for reading!