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オブラディン号の帰還 レビュー(ネタバレなし)

 昨年やってドはまりしたゲームなのですが、周囲で興味を持っている人が増えてきたので、一度布教をしたいなと思い筆を執りました。私はSwitch版をプレイしております。

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 1807年 イングランド・ファルマス
 幽霊船と化したかつての商船に、一人の調査官が下り立った。

依頼書

台詞2

台詞3

 いかにも何かが始まる、そんな不穏な出だしから始まる本作のミッション内容は、

「船の中に残された手がかりと死者の残留思念を辿って、乗員乗客60名の名前と安否を明らかにせよ」

という、とても単純なものです。
 臨場感溢れるミステリーが好きな方や、次々起きる難事件を追っていたらそれが最後に大黒幕に繋がっていた……と言うような謎解きが好きな方は、「え? それだけ?」と思うかもしれないし、何なら何で残留思念なんてオカルトな要素が出てくるんだと無粋に思うかもしれない。しかし、あなたが下の三つに当てはまらないなら、ちょっとだけ話を聞いて欲しいです。

1,3D酔いめっちゃする
2,ホラーやグロ、ゴア表現は絶対ダメ
3,17才未満だ

 ショップのムービーや紹介文をご覧頂ければ何となく予想のつくところですが、上記に当てはまってしまうと結構きついゲームです。(というか、セロDなので三つ目はダメだぞ!)
 なんてったって、“誰かの死の瞬間を3D視点で垣間見ながら”謎を解いていくというゲームなのだから。

 3D酔いに関してはSwitch等の小さな画面で行えば緩和出来るかもしれませんが、二番目の要素は結構しんどいです。不安な人は実況動画の序盤だけをちょっとかじってみるといいかもしれないですね。死因を当てる関係上死因の選択肢があるのだけれど、その時点で大分きな臭い選択肢がどっさりとありますので。(使わないものもあるけれど)正直そういうの全然平気な私も、プレイ中数日間は暗い場所に一人でいるのが怖かったし夜眠れなかったです。(眠れなかったのは寝る間を惜しんで考えてしまっていたというのもあるのですがそれはそれとして)ファンタジー的な要素もあるしね、うん。

 しかしながら、これ大丈夫でしょうというミステリー好きのあなたには、是非手に取って欲しいゲームであるし、これはダメだー! と言う方にも、是非実況などで触れてみて欲しいゲームでもあります。

 美しい白黒のグラフィックで描かれる死の瞬間は、とても残酷ではあるのですが同時に芸術的でもあります。絶妙な不気味さを孕んだ美しい効果音やBGM、東インド会社の時代という、近代的な要素も持ちつつまだ神秘が生きているマジカルな時空を舞台に繰り広げられるドラマは、一本の映画を見るようなのです。

 そして何と言ってもこのゲーム、作り込みが気持ち悪い(褒め言葉)レベル。

 ちょっとした人々の掛け合いが、別の場所の謎を解く手がかりになったりもするし、その人の容姿や役職や持ち物は勿論、人種・言語・船内施設なども謎を解くために必要なピースになる。言うなれば「伏線と布石は至る所にちりばめられており、それをいかに残らず刈り取れるか」と、プレイヤーへ挑戦してくる推理ゲームなのです。そういう謎解きが好きな人は、是非是非できるだけネタバレ無しで遊んでみて欲しいです。様々な方々がもう仰っているとは思いますが、どんなに難しくても無理だと思っても、必ずどこかに突破口はあるから! そして読了後、「もう一度記憶を消して最初からやりたい」と思うこと請け合いです。
(※正直私、最後の四人(プレイ済みの方は何となく想像つくのではないだろうか)は、先達達のお世話になりました。ヒントないと無理だった)

 そして、このゲームにはもう一つ大きな魅力があります。
 このゲームをプレイするときには、直接謎解きに関係の無いような所にも是非目を向けてみてください。そうしていると、徐々に60人もの登場人物のひととなりが何となくわかってきます。最初は薄気味悪い死体や亡霊のようにしか思っていなかった彼らが、肉を持つ人間として認識されてくる。そして、リストが大方埋まってくる頃には、乗員乗客との距離が確実に縮まっていると思います。
 とある死者には尊敬の意を捧げ、とある死のあっけなさに驚き、ある者の勇猛さを称え、とある者の死はざまあみろと喜び(?)をもって迎える……そんな風に彼らの死に対する感覚が変わってくるはず。ひょっとすると、○○死なないでと叫びながらゲームをやることがあるかもしれません。
 謎解きを通して、そこに居ないはずの乗員乗客がありありと浮かび上がってくる様は、時間や生と死を超えた、ある種の越境体験と言えるものになるでしょう。

 あなただけが知り得る、幽霊船の航海の記憶。
 一度紡ぎ出してみませんか?