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【日記】「みんなに会いたい」と思えるほど


 10月末に再校が終わり、原稿とにらめっこする時間がいきなり減った。喫茶「雨宿り」の設定や、ももちゃん、店長、黒田さんをはじめとしたキャラクターたちの行動について考えることも少なくなった。埋葬委員会についてこんなにも考えなかったのは、おそらく一年ぶりだ。
 
 さびしいなあ、と思った。みんなに会いたい。「雨宿り」に行って、みんなが何を話しているのか、聞き耳を立てながらコーヒーを飲んでいたい。心臓がむき出しになって夜風にさらされてるみたいに、ぶるぶると寒い。あー、もっと書いていたかったよ。もっともっと書いていたかった。
 素直に、そう思った。そして、そう思えること自体、すごく幸せなことだなあと思った。
 同時に、驚きもした。小説を書くことが、こんなにも自分の支えになってくれていたのか、と。
 
 子どものころから、物語をよくつくっていた。「ごっこ遊び」からはじまり、ぬいぐるみたちの世界を妄想したり、好きなアニメの続きを考えたり、新しいヒーローをつくったりした。絵本や漫画を描いたりしたこともあった。そのほとんどは完結しきれなくて、風呂敷を広げるだけで終わってしまっていたけれど、それでも、「物語の世界を自分でつくる」という行為そのものに、私は支えられていたのだと思う。今考えると、友達をつくるのが下手くそでも、外で遊ぶのが苦手でも平気だったのは、物語の世界に没入する時間があったからなのだろう。
 
 この一年間、埋葬委員会のメンバーたちのことを考えている時間も、私はひとりぼっちではなかった。原稿に向かえば、すぐ画面の向こうには、彼らがいた。私と似た価値観を持つ人もいれば、まるで違う性格の人もいた。いろいろな人との出会いがあった。現実世界とは違うコミュニティを持っているような気分だった。
 よく「サードプレイス——第3の場所を持ちましょう」という話を聞く。自宅でもない、職場や学校でもない、第3の場所を持つこと。何者でもない、何の肩書きも持たない自分でいられるコミュニティを持つことで、心の調和が取れるのだと。体の芯からリラックスできるのだと。
 
 あるいはそれは、「物語の世界」「空想の世界」でもいいのではないか、とふと思った。
 それだって第3の場所になり得るのではないか、と。
 少なくとも、私にとってはもはや「雨宿り」の世界は、一つの居場所だった。現実の世界とは少し違うかもしれないけれど。
 
 うん。いいよ。やっぱり物語をつくるのは、とんでもなく楽しい。
 仕上げるのはすごく大変だったけれど、挑戦してみてよかったなあ。




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