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プラスミドゲート事件について #2

前回の続きです。

前回の記事の最後に紹介したTwitterのアンケート結果から、DNAのことをよく知らずに『プラスミドゲート事件』について語る人が意外に多いということが分かりました。
私はよくこういう人たちのことを「中国語を学んで英語を話そうとする人」に例えるのですが、TwitterやYouTubeの動画で『中国語』を学んだところで、英語が話せるようになる訳ではありません。中国語を話す人と英語を話す人の会話が成立しないのは当然でしょう。

ここ最近感じた話の噛み合わなさはそういうこと…?

前回の記事では、mRNAワクチンに含まれているとされる『10 μgのDNA』を視覚的に表すことで、現役研究者たちの感じている違和感の根拠を解説してみました。

10 μgのDNAってどのくらいの量?

今回の記事から、だんだんと専門的な話になっていきますが、できる限り分かりやすく説明するよう心掛けていますので、ぜひ最後まで読んでみてください。

では、mRNAワクチンにプラスミドが入っているかどうか。
それを知るには、大腸菌の『形質転換(トランスフォーメーション)』を行うのが一番手っ取り早いでしょう。

形質転換とは、大腸菌に、本来存在しない外来遺伝子を導入することによって大腸菌の「形質」を「変える」ことを意味します。

Kevin McKernan氏の解析結果から、mRNAワクチンに混入しているとされるプラスミドには、スパイクタンパク質をコードする遺伝子の他、『カナマイシン』という抗生物質の一種に対する耐性遺伝子が含まれていることが分かりました。

(画像:https://anandamide.substack.com/p/pfizer-and-moderna-bivalent-vaccines)

<<ここで注意事項!!>>

以後、Kevin McKernan氏の解析結果が「正しい」とする前提で話を進めますが、解析に用いられたmRNAワクチンは、「匿名で送られてきたもの」で「出所が不明である」ということを、必ず念頭に置いてください。Twitterなどでは、この解析結果を「絶対的に正しい」とする人が多過ぎます。反ワクチンの中には、匿名で送られてきたからこそ信憑性が高いと考える人もいるようです。笑

A limitation of this study is the unknown provenance of the vaccine vials under study. These vials were sent to us anonymously in the mail without cold packs.
訳)今回の研究における限界として、研究対象となったmRNAワクチンのバイアルの出所が不明であることが挙げられます。これらのバイアルは、保冷剤なしで匿名で郵便で送られてきたものです。

Sequencing of bivalent Moderna and Pfizer mRNA vaccines reveals nanogram to microgram quantities of expression vector dsDNA per dose
https://osf.io/b9t7m/

では続きを。カナマイシンは、細菌性のリボソームに結合し、タンパク質合成を阻害することにより、抗菌作用を示します。したがって、普通の大腸菌をカナマイシンを含む培地で培養すると死んでしまいますが、カナマイシン耐性遺伝子を持っていれば、生き残ることができます。
そして、カナマイシン耐性遺伝子を持つプラスミドに目的のタンパク質(スパイクタンパク質)をコードする遺伝子を挿入しておけば、カナマイシン耐性=目的のタンパク質をコードする遺伝子も持っている、ということが言える訳です。(カナマイシンなどに対する薬剤耐性遺伝子は、遺伝子組換えの『目印』となるため、マーカー遺伝子とも呼ばれます。もちろん、カナマイシン耐性遺伝子はあくまで『目印』なので、その後の追加実験で、スパイクタンパク質の遺伝子を含むことを確認しなければいけません。)

さて。カナマイシン耐性遺伝子の基礎知識を理解したところで、Twitterで話題になっている画像を見てみましょう。

ツイートの情報によると、実験では3種類のプラスミドが使用されています。
ポジティブ・コントロール(ポジコン)となる、カナマイシン耐性遺伝子を持つ「pEGFP-LMP1TM」(先頭の「p」はプラスミド(Plasmid)の名前につける符号。)
② ネガティブ・コントロール(ネガコン)となる、カナマイシン耐性遺伝子を持たない「pBS」(pBSは、おそらくpBluescriptの略。カナマイシン耐性遺伝子ではなく、アンピシリンに対する耐性遺伝子を持つ。)
③ mRNAワクチンに含まれるとされるカナマイシン耐性遺伝子を持つプラスミド
これらをそれぞれ大腸菌に導入し、カナマイシンを含むプレートで一晩培養した結果を示した画像であると思われます。

プレート上の白色のものは増殖した大腸菌です。
カナマイシン耐性遺伝子を持つpEGFP-LMP1TMを導入した大腸菌は、カナマイシンを含むプレート上でもよく増殖していることが分かります(左側)。一方で、カナマイシン耐性遺伝子を持たないpBSを導入した大腸菌は増殖しない、、はずですが、少し増殖しているように見えます(右側)。プレートに含まれるカナマイシンの濃度が適切でない(低い)のかもしれません。(一回一回プレートを作るのが面倒だからと、プレートを作り置きしているとこうなります。)

また、このウ◯コ(笑)みたいにべっとりとした大腸菌の塊は、あまり適切な状態であるとは言えません。
大腸菌が塊状になってしまうと、塊の上の方で増殖している大腸菌にはプレートに含まれるカナマイシンが届きません。ネガコン(右側)でカナマイシン耐性遺伝子を持たない大腸菌が増殖してしまっている原因の一つと考えられるでしょう。同じことが中央のサンプルにも言えます。

実験では、ネガコンが、きちんと「ネガティブ(=大腸菌が増えない)」であることを確認する必要があることは言うまでもありません。中央のmRNAワクチンに含まれるとされるプラスミドを導入した大腸菌が、カナマイシン耐性遺伝子を持っているのか・いないのか、正しい判断できません。
一応、中央の白色の矢印で示したものが、カナマイシン耐性遺伝子を持っている大腸菌とのことですが、最初の大腸菌の量が多ければ、こうなってしまう可能性は十分に考えられます。

では、どうしたら正しい判断ができるのでしょうか?
ここで出てくるのが、今回の記事のキーワード、『シングルコロニーアイソレーション(Single colony isolation)』です。

シングルコロニーアイソレーションでは、まずプレートに大腸菌を適量付け、それを『白金耳』と呼ばれる棒などを使って、ジグザグに伸ばしていきます(動画参照)。

大腸菌を伸ばした後、一晩培養すると、プレートは下のようになります。

シングルコロニーアイソレーションした後のプレート(画像:https://www.chegg.com/homework-help/questions-and-answers/know-successfully-isolate-single-colonies-e-coli-streaked-plate-know-successfully-grown-ov-q69984016)

始点となった右上の区画は、大腸菌の量が多いため、Twitterの画像と同じように、べっとりとした塊になってしまっています。おそらくカナマイシン耐性遺伝子を持たない大腸菌も含まれているでしょう。
そこから、右下→ 左下へと順番に伸ばしていくことで、大腸菌の量は少なくなり、きちんとカナマイシンが効いて、カナマイシン耐性遺伝子を持っている大腸菌だけが増えるようになります。これが大事!

ポジコンとネガコンの区別はしっかり付けること!
実験の基本です!

ここで改めてTwitterの画像の実験の主な問題点を整理すれば、
① カナマイシンの濃度が低いプレートを使っている可能性がある。
② シングルコロニーアイソレーションをしていない。

の2点になるかと思います。
私が実験を指導する立場ならば、「やり直し!!」と言いますね。笑

余談ですが、ポジコンとして使用されたプラスミド『pEGFP-LMP1TM』について。
LMP1は、おそらくEpstein-Barrウイルスの持つ「Latent membrane protein 1」のことを、TMは、その「Transmembrane domain」を意味していると思われます。EGFPは(改良型の)緑色蛍光タンパク質のことで、これをLMP1TMに結合させることで、この融合タンパク質の局在(=細胞内での場所)を蛍光シグナルによって検出できるようにしているのでしょう。

(画像:https://www.chem-station.com/blog/2009/01/2008.html)

新田剛先生は、過去にこのLMP1に関する以下の論文を発表しています。ただし、この論文で「pEGFP-LMP1TM」は使われていません。しかしながら、「pEGFP-N1」と「LMP1発現プラスミド」は使われています。これら2つのプラスミドから「pEGFP-LMP1TM」を作ることができます。

使われたプラスミドの情報から、Twitterの画像の実験を行なったのは、新田先生ではないかと思ったのですが、どうでしょうか?(本質的な話ではないのでこの辺で。)

この記事を書いている途中に、新田先生が以下のツイートを投稿されていました。

結論としては、「mRNAワクチンにプラスミドは混入していなかった」ということになるかと思います。

こんな予備実験結果ではなく、いずれ正式な結果を公開します

新田先生の続報、期待しています。(書いていた記事は、大幅に省略しました。落ち着いて結果を待つというのも大事なことです。きちんとしたデータを基に、議論が深まることを期待しています。)

#3に続く。(次回は、『DNase』についての記事を予定しています。)

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※ この記事は個人の見解であり、所属機関を代表するものではありません。
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※ 文責は、全て翡翠個人にあります。
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追記)上で紹介した、pEGFP-N1というプラスミドには、ヒトなどの哺乳類の細胞で薬剤耐性遺伝子を発現させるために、SV40プロモーター』が含まれています(左下)。

pEGFP-N1(画像:https://www.addgene.org/vector-database/2491/)

このように、他にも『pcDNA3』など、実験室でよく使われる・ごく一般的なプラスミドにも『SV40プロモーター』の配列が含まれます。

pcDNA3(画像:https://www.researchgate.net/figure/Map-of-pcDNA30-mammalian-expression-vector-of-about-54-kb_fig4_279977088)

mRNAワクチンのプラスミドにだけSV40プロモーターという、反ワクチンの主張するところの『ヤバい配列』が含まれていると思っている人がいるとしたら、それは大きな間違いです。「この配列を加えることによってワクチンで癌を作り出そうとしている!」、「DSの人口削減計画の一環だ!」ではなく、プラスミドが入っている=まぁSV40プロモーターも入っているだろう、程度に考えるべきものだと思います。

Kevin McKernan氏に匿名で送られてきたmRNAワクチンについて、当初、彼の解析では「多量」の・あり得ない量のプラスミドが含まれているという結果でした。

もし、pcDNA3のようなプラスミドが、匿名の誰かの手によって混入されていたとしたら?
この結果を見れば、そういう可能性も考えるべきだと思います。

以下のツイートも紹介しておきたいと思います。

kevin砲の不正確性を書くと、「少なくとも可能性はあるのだから、より慎重に議論することは大切でリスクの可能性を周知することはやめるべきではない」という人が反論してくるが、その中の誰もKevinの実験方法を精査しようともしないし、考察の妥当性もし審議しない。ナニコレ?

仮にmRNAワクチンにプラスミドが入っていなかったとしても、Kevin McKernan氏の解析結果は、「問題提起として意義がある」という考え方は、私には理解できません。

以前、反ワクチンはよく、私のことを「木を見て森を見ず」だと言いました。細かいことにこだわり過ぎていると。しかしながら、木を見なければ(木の種類を調べなければ)、その森が針葉樹林か、広葉樹林か分かりません。全体的に緑だから針葉樹林だと思っていたら、その森が秋には突然赤くなって、驚き、慌てふためくことになるでしょう。

今の反ワクチン界隈の様子を見ていると、まさにその通りになっているかと思います。可哀想に、内部分裂の真っ最中です。

無理やり団結しようとしても、また同じことを繰り返すでしょうね。

相手を攻撃するためには手段を選ばない→
という状況には強い嫌悪感を感じる。私と同じ想いを持つ方が沢山いるのではないだろうか。

以上。

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