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福島名誉教授の論説について(続・mRNAワクチンのヒトゲノムへの組み込みについて)

以前、福島雅典京都大学名誉教授の論説について軽く触れましたが、再び『臨床評価』に福島名誉教授の論説が掲載されましたので、読んでみました。

論説:新型コロナウイルスワクチン接種者及び全医療関係者への警告と要請
~ 新型コロナウイルスワクチン接種後5日目に心筋の横紋筋融解症によって突然死亡した28歳健常男性の事例をもとに
福島雅典,菊池貴幸,平井由里子
http://cont.o.oo7.jp/50_4/p507-42.pdf

今回の論説では、タイトルにあるように、2回目のmRNAワクチン接種後に亡くなられた28歳男性の事例を紹介しています。
以下、mRNAワクチン接種から亡くなるまでの過程を論説より引用しました。

・2021年11月11日木曜日17時ごろに新型コロナウイルスワクチンコミナティ筋注接種.
・12日金曜日代休日,38°C台発熱,市販薬(第2類医薬品)バファリンプレミアムDX20錠(ライオン株式会社)を近くのドラッグストアで購入し,夕食後に2錠服用.食欲不振あり,いつもより少なめの摂食.
・13日土曜日はバファリンプレミアムDX2錠を朝食後に飲んで出勤.
・14日日曜日出勤,夕食後に同上剤2錠を服用.
・15日月曜日午前に発熱,寒け,倦怠感あり,〇〇診療所に電話. 16時に予約を取ったが受診したかどうか不明. 食欲不振変わらず. 同上剤を昼・夕食後に2錠ずつ2回服用. 夜は21時過ぎに就寝,この時37.5°C.
・16日火曜日の朝10時半からの外出前に妻が寝室に行くも異変には気づかず(寝ていると思った),外出から帰宅後に昼食を食べるか聞きに寝室に行って,「就寝時の体勢のまま体が硬直して冷たくなって」死亡していることに気づいた.「119番通報をし,救急隊到着後,死亡確認」◯時検視.
・17日水曜日◯◯大学法医学教授による調査法解剖実施.
以上の事実経過は,ご遺族のメモより転記したものである.

http://cont.o.oo7.jp/50_4/p507-42.pdf

ご遺族のメモには、ワクチン接種後、亡くなるまでの5日間に渡って発熱が続いていたことが記されていました。

mRNAワクチン接種後の副反応について、37.5℃以上の発熱は『当たり前』とされてきました。テレビ・ネットニュースなどで、以下のようなグラフを見る機会も多かったかと思います。

(画像:https://www.asahi.com/relife/article/14363071)

私の場合は、まさにこのグラフの通りでした。2回目のワクチン接種後の発熱などについては、noteの『副反応日記』で報告しています。(私はタイレノールを持っていましたので、それを飲んで発熱を抑えました。それでも亡くなられた方と同様、38℃台の熱が出ました。)

前提として、ヒトの免疫システムは非常に複雑であり、ワクチン=『異物』を体に入れる以上、個々人の体内で何が起こるか分からないというのは、福島名誉教授と私の共通認識でした。以下は、私の昨年6月のnoteのつぶやきと、福島名誉教授の編集後記からの引用です。

”薬物は人体にとってほとんど常に異物であり,副作用のない薬は無い. ”
これは臨床医学の公理と言ってよい. 新型コロナウイルスワクチンについても,これは真である. 

編集後記 福島雅典
http://cont.o.oo7.jp/50_4/50_4editorsnote.pdf

私の場合、接種後の肩の痛み・違和感が少し長引いたような気がしますが、幸い典型的な事例でした。しかしながら、そうでない人が一定数いることは、免疫システムが個々人で異なるという、ごく当たり前の生命原理で説明が付くと思います。ワクチン接種による健康被害は、決してゼロではありません。
したがって、予防接種健康被害救済制度という制度があり、ワクチン接種後、発熱が2日以上続く場合、医療機関への受診や相談を検討すべきであることは、厚労省・自治体ホームページに記載されています。

Q3:接種後、熱がでたり腕が腫れたりしているが、大丈夫でしょうか。
A3:ワクチンによる発熱は接種後1~2日以内に起こることが多く、必要な場合は解熱鎮痛剤を服用するなどして、様子をみていただくことも可能です。このほか、ワクチン接種後に比較的起きやすい症状としては、頭痛、疲労、筋肉痛、悪寒(さむけ)、関節痛などがあります。ワクチン接種後、2日以上熱が続く場合や、症状が重い場合は、かかりつけ医にご相談下さい。ワクチンを接種して1週間くらい経ってから、腕にかゆみや痛み、腫れや熱感、赤みが出てきた方は、新型コロナワクチンQA(厚生労働省HP)(外部リンク)をご確認下さい。

京都府新型コロナワクチン接種情報サイト > 新型コロナワクチンの副反応について
https://www.pref.kyoto.jp/yakumu/news/vaccinecenter.html

福島名誉教授の論説では、この男性が亡くなる前日(=接種から4日目)、ご遺族の方のメモを元に「〇〇診療所に電話. 16時に予約を取ったが受診したかどうか不明」とあります。医療機関を受診した可能性は否定されていません。

・15日月曜日午前に発熱,寒け,倦怠感あり,〇〇診療所に電話. 16時に予約を取ったが受診したかどうか不明. 食欲不振変わらず. 同上剤(バファリンプレミアムDX)を昼・夕食後に2錠ずつ2回服用. 夜は21時過ぎに就寝,この時37.5°C.

http://cont.o.oo7.jp/50_4/p507-42.pdf

一方、厚労省の資料では、「接種後より、全身倦怠感、発熱の症状が出現したが、医療機関を受診しなかった」と記載され、男性が医療機関を受診した可能性は明確に否定されています。

新型コロナワクチン接種後の死亡として報告された事例の概要(画像:https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/001013402.pdf)

どちらが正しいかは分かりませんが、少なくとも、接種から2日目以降、積極的に医療機関を受診しようとは思わない程度に、mRNAワクチン接種後の発熱が当たり前だという雰囲気を作ってしまったことに対しては、mRNAワクチン接種を推奨していく上で、より慎重になるべきだったかもしれません。

多くの急性心筋炎は、かぜ様症状(悪寒・発熱・頭痛・筋肉痛・全身倦怠感)や 食思不振・悪心・嘔吐下痢などの消化器症状が先行し、その後は数時間から数日の経過 で心不全徴候(出現頻度 70%)・心膜刺激による胸痛(出現頻度 44%)・不整脈(出現 頻度 25%)が出現することがある。

ウイルス感染に伴う心筋炎・心膜炎の臨床像
https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000796566.pdf

心よりお悔やみ申し上げます。

さて、今回の福島名誉教授の論説で、以下の記載が気になりました。

加えて重大な生物学的な問題として,SARS-CoV-2sequenceはもとより,ワクチンMessengerRNAも細胞内のLINE-1逆転写酵素を介してゲノムに取り込まれる可能性が指摘されており14~16),今後の系統的かつ徹底的な研究が必要である.

http://cont.o.oo7.jp/50_4/p507-42.pdf

福島名誉教授が論説に記載した「mRNAワクチンは逆転写され、ヒトゲノムに組み込まれる可能性がある」という一文に関して、参考文献の14〜16番を詳しく見ていきます。

【参考文献 14番】

Luisetto Mauro Maurol, Naseer Almukthar, Tarro Giulio, Gamal Abdul Hamid, Farhan Ahmad Khan, Edbey K, Mashori Gulam Rasool, Nili Behzad, Fiazza C, Cabianca L, Ilnaf Ilman, Yesvi A. Rafa, Oleg Yurevich.
Case Report - Intracellular Reverse Transcription of COVID-19 mRNA Vaccine In-vitro in Human Cell.
訳)症例報告 - ヒト細胞におけるCOVID-19 mRNAワクチンの細胞内逆転写
Journal of Genetics and DNA Research. 2022; 6(2). ISSN: 2684-6039.
https://www.hilarispublisher.com/open-access/intracellular-reverse-transcription-of-covid19-mrna-vaccine-invitro-in-human-cell-90110.html

Case Report(症例報告)と記載されていますが、症例報告ではありません。参考文献16とほぼ同じタイトルであることからも分かるように、参考文献16を紹介する総説的な内容になっています。(タイトルの「BNT162b2」を「mRNAワクチン」に、「ヒト肝細胞株」を「ヒト細胞」に変更することで、より内容を一般化しています。)
参考文献16が正しいという前提で書かれているため、その前提が崩れれば、この論文の正当性も失われることになります。参考文献16については後述します。

ちなみに、筆頭著者のLuisetto Mauro Maurolは、mRNAワクチンには、酸化グラフェンが含まれているという反ワクチンの古典的デマを信じており、mRNAワクチンの製造工程での酸化グラフェンの混入を指摘する論文を発表していることでも知られています。

酸化グラフェン混入の証拠とされる画像(画像:https://agenziastampaitalia.it/images/MICROSCOPIA_DE_VIAL_CORMINATY_DR_CAMPRA_FIRMA_E_1_fusionado_es_it.pdf)

【参考文献 15番】

Zhang L, Richards A, Barrasa MI, Hughes SH, Young RA, Jaenisch R.
Reverse-transcribed SARS-CoV-2 RNA can integrate into the genome of cultured human cells and can be expressed in patient-derived tissues. 
訳)逆転写されたSARS-CoV-2 RNAは、培養ヒト細胞のゲノムに集積し、患者由来の組織で発現することが可能である。 
Proc Natl Acad Sci U S A. 2021 May 25; 118(21): e2105968118. doi: 10.1073/pnas.2105968118. PMID: 33958444; PMCID: PMC8166107.
https://www.pnas.org/content/118/21/e2105968118.long

米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences, PNAS)に掲載された論文で、DOI(「Digital Object Identifier」の略。学術論文などの電子データに付与される国際的な識別子)が付いています。(参考文献14にDOIは付いていませんでした。PubMedで検索してもヒットしないことからも、やはり、著者自身の思想的背景も含め得体の知れない論文のように思います。)

この論文は、タイトルに「SARS-CoV-2 RNA」と書かれていることからも分かるように、SARS-CoV-2感染細胞におけるSARS-CoV-2 RNAのヒトゲノムへの組み込みに関するものであり、mRNAワクチンのスパイクタンパク質のmRNAの組み込みの可能性を示唆するものではありません。ヒトゲノムへの組み込みが見られたSARS-CoV-2由来の配列は、mRNAワクチンには存在しない配列でした。

Because we have detected only subgenomic sequences derived mainly from the 3′ end of the viral genome integrated into the DNA of the host cell, infectious virus cannot be produced from the integrated subgenomic SARS-CoV-2 sequences.
訳)宿主細胞のDNAに組み込まれたウイルスゲノムの主に3′末端に由来するサブゲノム配列のみが検出されたため、組み込まれたサブゲノム配列から感染性ウイルスを産生することは不可能である。

https://www.pnas.org/content/118/21/e2105968118.long

さらに、この研究が不適切な実験デザインに基づいている(=実験手法に問題がある)ことが、既に複数の論文・レターで指摘されています。

No evidence of SARS-CoV-2 reverse transcription and integration as the origin of chimeric transcripts in patient tissues
訳)患者組織におけるヒト-ウイルスキメラ転写産物の起源として、SARS-CoV-2の逆転写および統合を証明するものはない。
https://www.pnas.org/content/118/33/e2109066118.long

No evidence of human genome integration of SARS-CoV-2 found by long-read DNA sequencing
訳)SARS-CoV-2のヒトゲノム統合の証拠は、ロングリードDNAシーケンシングで見つからず。
https://www.cell.com/cell-reports/fulltext/S2211-1247(21)00961-X?_returnURL=https%3A%2F%2Flinkinghub.elsevier.com%2Fretrieve%2Fpii%2FS221112472100961X%3Fshowall%3Dtrue

これらを引用し、否定する研究もあることを論説中に明記しないのは、科学的にフェアではないと思います。

【参考文献 16番】

Aldén M, Olofsson Falla F, Yang D, Barghouth M, Luan C, Rasmussen M, De Marinis Y.
Intracellular Reverse Transcription of Pfizer BioNTech COVID-19 mRNA Vaccine BNT162b2 In Vitro in Human Liver Cell Line.
訳)ヒト肝細胞株におけるPfizer BioNTech COVID-19 mRNA Vaccine BNT162b2の細胞内逆転写
Curr Issues Mol Biol. 2022 Feb 25; 44(3): 1115-26. doi: 10.3390/cimb44030073. PMID: 35723296; PMCID: PMC8946961.
https://www.mdpi.com/1467-3045/44/3/73

こちらの論文については、昨年2月、ちょうど1年前の過去記事で詳しく解説しています。

私だけでなく、『ワクチン慎重派』として広く認知され、反ワクチンの支持者もいる研究者たちも、この論文の結果について疑問を持っています

この論文はずっとレベルが低いと言わざるをえません…

どういうことなんだろう? この論文、本当なのか?

以上、福島名誉教授の論説で引用された3つの論文を解説しました。
私は、「mRNAワクチンは逆転写され、ヒトゲノムに組み込まれる可能性がある」と記載するに足る十分な根拠が示されているとは思いません。

確かに、論文として発表されている以上、引用すべきだというのは道理です。
しかしながら、少なくとも、福島名誉教授の言うところの『(論文発表後の)系統的かつ徹底的な研究』により、参考文献15は否定されています。そのことを明記しないのは、やはりフェアではないと思います。

加えて重大な生物学的な問題として,SARS-CoV-2sequenceはもとより,ワクチンMessengerRNAも細胞内のLINE-1逆転写酵素を介してゲノムに取り込まれる可能性が指摘されており14~16),今後の系統的かつ徹底的な研究が必要である.

http://cont.o.oo7.jp/50_4/p507-42.pdf

さらに、参考文献16(14)は、mRNAワクチンの逆転写の可能性を示唆するものですが、ヒトゲノムに組み込まれることまでは示されていません。

しかし、逆転写されたDNAがゲノムDNAに組み込まれることは示していません。
AbstractにゲノムDNAで検出されたと書いてありますが、、

以前から、私は「mRNAワクチンのヒトゲノムへの組み込み」が、その人の反ワクチンレベルの指標になると考え、これを注視してきました。
論文の「Abstract(概要)」だけを読み、内容を把握したつもりになってしまう人であれば、「mRNAワクチンはヒトゲノムに組み込まれる」という著者の主張をそのまま受け取ってしまうことになります。したがって、その人が、きちんと論文の全文を読んで、内容を把握する能力があるかどうかの一つの指標になると思っています。

この「mRNAワクチンがヒトゲノムへ組み込まれる」という言説は、極めて根拠薄弱であるにもかかわらず、反ワクチン界隈に広く浸透しました。仮にmRNAワクチンがヒトゲノムに組み込まれたならば、それを取り除く術はありません。「mRNAワクチンによるプリオン病発症」の言説もそうですが、mRNAワクチン接種後に起こる不可逆的な『可能性』を根拠に過剰に不安を煽ることは、厳に慎むべきだと私は思います。

mRNAワクチン技術を過剰に恐れる必要はないと思います。

以上。

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