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小さな誤解が命取り #1 〜ウイルスの変異〜

シリーズで、短い記事をいくつか出そうと思います。
題して、『小さな誤解が命取り』シリーズ。このシリーズの目的は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する理解を深めるために、小さな誤解を正し、議論の前提を共有することです。

今回は、その第一回。『ウイルスの変異』について解説します。

中国・武漢で発生したウイルス性肺炎の原因が、新型のコロナウイルス(SARS-CoV-2)と判明してから、丸3年が経ちました。

このコロナ禍で、ウイルスは変異しやすいこと、特にRNAウイルスは早く変異していくことは、常識として知られるようになったと思います。
デルタ株以降、オミクロン株で大きく弱毒化し、「最初の所謂『武漢株』とは全く別のウイルスだから、「新型コロナウイルス」という呼称は止めるべきだ!」と主張する人たちもいることは、私の過去記事で紹介しました。

では、ここで問題です。
最初の武漢株とオミクロン株のRNAゲノムの塩基配列を比較した場合、一致率はどのくらいになるでしょうか?

① 99 %
② 88 %
③ 77 %

最も近いと思うものを、3つの中から選んでください。

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正解は、「① 99 %」です。当たりましたか?

実際に、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の塩基配列を比較してみましょう。

武漢株(Wuhan-Hu-1)の配列情報はこちら。↓

オミクロン株の配列情報はこちら(2022年2月のもの)。↓

この2つの塩基配列(約3万塩基)をプリントアウトし、目視で比較することもできますが、それはとても大変な作業なので、私は、『GENETYX』という遺伝子解析ソフトウェアを使いました。

解析結果は、以下の通りです。
2つの塩基配列を比較すると、29779塩基中、29674塩基が一致したと出ています(一致率は、正確には「99.6%」)。画像に表示されている塩基配列の先頭の部分だけ見ると、ほぼ全ての配列が一致していることが分かります。

ただし、スパイクタンパク質をコードする遺伝子(21563~25384番目)には、塩基の『欠失』や『挿入』を含めた大きな変化が見られます。

このように、オミクロン株に生じた変異のほとんどは、スパイクタンパク質に集中しているのです。

黄緑色で示された領域がスパイクタンパク質を示す。
(画像:https://www.genscript.com/omicron-variant.html)

SARS-CoV-2は、『nsp14』と呼ばれる変異を修復する特殊なタンパク質を持ちます。

この特殊なタンパク質の働きにより、現在、一年で「27.814塩基」が変異すると推定されています(1月14日現在)。全長3万塩基中の約30塩基です。

(画像:https://nextstrain.org/ncov/gisaid/global/6m?l=clock)

nsp14を持つSARS-CoV-2の変異速度は、これを持たない他のRNAウイルスと比較して、実はとても「遅い」のです。

☆ SARS-CoV-2は、変異を修復する特殊なタンパク質を持つ
☆ 最初の武漢株とオミクロン株のRNAゲノムの一致率は、「99.6%」

これらの前提が、実は、『ワクチン』や『人工ウイルス説』など、新型コロナウイルスに関する様々な議論をする上で、非常に重要なのです。
まずは、これらの前提を共有しなければいけないと思いました。

また詳しくは別の記事にまとめますが、例えば、『人工ウイルス説』では、「サイコロの同じ目ばかり出るのは確率的におかしい!人工だ!」というような話があります。しかしながら、SARS-CoV-2には変異を修復するタンパク質が存在するため、「サイコロを振り直す」という試行を組み込まなければいけないのです。

以上。

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※ この記事に特定の個人や団体を貶める意図はありません。
※ 文責は、全て翡翠個人にあります。
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