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プラスミドゲート事件について #3

先に、簡単な記事を書いてしまおうと思います。

前回の記事で紹介した通り、Kevin McKernan氏の行った実験では、mRNAワクチンには多量のプラスミドが含まれていることが明らかになりました。
一方で、東京大学の新田剛先生の行った実験では、mRNAワクチンに検出可能なプラスミドは含まれていないことが明らかになりました

この2つの結果の違いについて、多少『分子生物学実験』に心得があると思われる反ワクチンたちが、新田先生は、Kevin McKernan氏と同じ実験(=再現実験、あるいは追試)をしていないから、これは『意味のない実験』であると主張し、新田先生の「多量のプラスミドは含まれていなかった」とする実験結果を強烈に否定して、新田先生に対する誹謗中傷まで行なっているようです。

新型コロナワクチンへのDNA断片混入疑惑問題を巡って、Twitter上では新田剛先生への人格攻撃、誹謗中傷が過酷さを増している。

「再現実験をしていないから意味がない?!」
もうね、、「どの口が言っているんだ!」と、怒りを通り越して呆れてしまいました。(まぁ、いつもの反ワクチン仕草であることには変わりませんが。)

以前、「母乳にmRNAワクチンが含まれているかどうか」についての記事を書きました。今回、それを改めて紹介しておきたいと思います。

2021年7月に、母乳にmRNAワクチンは含まれていなかったとする論文が発表されました。すぐに、この論文を元にしたファクトチェック記事が公開され、(比較的良識のある)反ワクチンも一応は納得したかのように見えました。

しかしながら、その1年後、2022年の9月に、母乳にmRNAワクチンが含まれていたとする論文が発表されました。
これにより、反ワクチンは、「ファクトチェックが嘘を吐いた!!」と大いに勢い付き、特に日本では、この情報が爆発的に拡まりました。

2022年9月の論文の関連ツイート数の多い国が濃い青色で表示されている。(画像:https://www.altmetric.com/details/136469278)

注意すべきは、2022年9月の論文では、2021年7月の論文の再現実験が行われた訳ではありません。2022年9月の論文では、断片化した短いRNAを効率的に集めてmRNAワクチンを検出するという、極めて特殊な実験が行われていました。

Detection of Covid-19 vaccine mRNA in BM by qRT-PCR:
Covid-19 mRNA vaccines were assayed by two-step RT-PCR. Total RNA was isolated from 0.6 mL of whole milk by miRNeasy mini kit (cat# 217004, Qiagen, Germantown, MD) according to the manufacturer's instructions.
訳)qRT-PCRによるBM(母乳)のCOVID-19 mRNAワクチンの検出:COVID-19 mRNAワクチンは、2段階のRT-PCRによって検出されました。取扱い説明書に従って、miRNeasy mini kit(cat# 217004, Qiagen, Germantown, MD)によって、全乳0.6 mLから全RNAを分離しました。

Supplemental Online Content
https://jamanetwork.com/journals/jamapediatrics/fullarticle/2796427

ここで、分子生物学実験に心得がある反ワクチンの言に従えば、2022年9月の論文で行われた実験は、『意味のない実験』です。
しかしながら、反ワクチンの中の誰一人として、そう指摘する人はいませんでした。論文の実験手法の項目までしっかり読まなかったのか、あるいは読んでも都合が悪いから黙っていたのか、分かりませんが、おそらくそう指摘しようものなら、今回の新田先生と同じようにコミュニティーから排斥されていたでしょう。

さて。プラスミドの話に戻ります。
Kevin McKernan氏は、様々なデータを出して自説に説得力を持たせています。新田先生が再現実験をしていないことを指摘する人たちは、このデータ量の多さを殊更強調し、新田先生の3つの実験結果を否定しているように思います。しかしながら、Kevin McKernan氏のデータの中には、「なんでその実験をしたの?」と思ってしまうような不思議なデータがあることも事実です。

それについても謎が多いのですが、一般的な液体培養をしてミニプレップという過程を踏まず、コロニーをピックアップして、それを直接溶菌させて電気泳動しておしまいなのです。
更に、そのDNAを大腸菌ゲノム特異的なプライマーでqPCRをして、確かに大腸菌だという確認もやってます。トラフォメしたんだからわざわざ大腸菌かどうか調べるかなぁ?という不思議な実験です。

「mRNAワクチンにプラスミドが含まれているかどうか」、それを調べるには新田先生の行った実験で十分です。むしろ、Kevin McKernan氏の行った実験の方が特殊だと言えると思います。
上手い例え話が思い浮かびませんでしたが、「ある絵の黄色が黄色であること」を証明する方法として、新田先生は既に黄色だと分かっている色見本を横に並べて黄色だと判定しているのに対して、McKernan氏はその絵をデジカメで撮影して、PCに取り込み、RGBの3色の比率を調べて黄色だと判定しているようなものだと思います。要は、手間を掛けている割には、辿り着く結論は同じになるということです。(今回の例で言えば、McKernan氏の持っていたデジカメは、画像センサーが壊れていて、黄色を正しく判定できなかった、というオチが付くと思います。)

フィンセント・ファン・ゴッホ《ひまわり》(画像:https://www.sompo-museum.org/collection/gogh/)

1972年に、スタンフォード大学の研究者らによって、大腸菌がプラスミドを取り込むこと。さらに、プラスミドに含まれる薬剤耐性遺伝子を利用することで、大腸菌の集団の中から形質転換したものを選別できることが明らかになりました。

1972 S.N. Cohen, A.C.Y. Chang, L. Hsu
大腸菌が環状プラスミドDNAを取込むこと、形質転換体はプラスミド上の薬剤耐性遺伝子を利用して、細菌集団の中から選択できることを明らかにした。

遺伝学年表 ~1971~1980
https://www.nig.ac.jp/museum/OLD-MS/history-x/13_e.html

以来、約50年に渡り、この技術が使われてきました。
反ワクチンが、「Kevin McKernan氏の行った実験を完全に再現しないといけない!」と主張する程、その実験を行わなければmRNAワクチンに含まれるとされるプラスミドの存在を証明できない訳ではありません。(もちろん、暇があれば完全な再現実験をやってみても良いでしょう。)

新田先生のとった方法は、私たち(普段プラスミドを扱ったり、DNAを定量したりする研究者)が考える一般的な方法です。

宮沢先生によれば、新田先生の検査方法こそベーシック

新田先生の行った実験結果を否定する=分子生物学実験における『再現実験の重要性』について理解できる程度の知識は持っているということです。そうであるならば、その中心にいる自分たちが今、新田先生に対して行なっている攻撃(口撃)は『難癖』以外の何物でもないことも理解しているでしょう。

匿名の誰かから送られてくるものではなく、正規のルートでmRNAワクチンを入手して、解析することができる『現役の研究者』である新田先生を排斥して、反ワクチンは何がしたいのでしょうか?
そんなことをしていると、遅かれ早かれ、反ワクチンから『まともな科学者』は一人もいなくなるでしょう。

反ワクチンの中には、それを望んでいる人がいるのかもしれません。
そして、その先にあるものは一体、、?

以上。

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※ この記事は個人の見解であり、所属機関を代表するものではありません。
※ この記事に特定の個人や団体を貶める意図はありません。
※ 文責は、全て翡翠個人にあります。
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追記)

Kevin氏らの実験系に不適切な点が多いことは、これまでに議論してきました。

Kevin氏らもそれに気づき、手法を修正し、記事を訂正してきています

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