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顔を見れば、きっとわかる

 なんでだっけ。
 何かをきっかけに、急に思い出した友人がいて。


 中学から私立の女子校に通い始めた。
 最初に仲良くなったのは、学年でもクラス内でも、名前順で隣りになったBちゃん。
 二人共、背が低めだったので、二人でキャッキャと騒いでいると、みんなにそのコンビでの様子が可愛がられた。彼女の場合は顔も可愛かったんだけど。

 休み時間も、掃除の班も、お弁当の班も、かなりベッタリ楽しんでいたと思う。

 家にも呼ばれた。お父さまは脳外科医で、手術に失敗した経験があることをBちゃんは話してくれた。精神的にだいぶ辛かったらしい。と。お母さまは看護師さん。弟さんだったか、亡くなっていて、お兄さんは知的障害があるのだと話してくれた。ウーンとちょっと私も記憶が定かじゃなくて、大変失礼なのだけど、お兄さんと弟さんが逆かもしれない。何しろ35年前に聞いた話だ。何度も深く掘り下げて聞いたわけじゃなかった。


 顔立ちが派手で美人。運動神経も良く、手先も器用な彼女は、学校での態度も図太いフリをしていた。目立ってはいなかったけど、少し強がっている感じが、生真面目な私にはカッコ良くて魅力的だった。
 そんな彼女が、家族に関しては、心に深い闇を抱えていて、それを淡々と話してくれた。きっと彼女にとっては軽々しく多くの人には話せない内容を、思い切って話そうとしてくれたのだろう。淡々と話して、その強がりをカバーしていたのだろう。なのに私はその重たさを深刻に考えていなかった。ショックだったけど、私は良くも悪くも「それがこの人の一部なのかあ」と割とすんなりと受け入れてしまうところがある。
 受け入れるのは良い部分かもしれないけれど、話してくれた彼女の気持ちを考える想像力がほしかった。当時の私。

 さらに私は、信頼関係が出来上がると安心して、別の友達とも喋って遊んで笑いたい。みんな個性は違うのだから、その子それぞれの良さがあって、それぞれと付き合う。
 だから、以前にも書いたAちゃんやZちゃんとも話すのが楽しくて、大笑いしていた。


 すると、クラス替えを前にした学年文集で、Bちゃんは「親友なんて作らない方が良い」と書いていた。理由は、「自分の思い通りにならないと嫉妬しちゃって辛いから」だと。

 ショックだった。
 私はBちゃんに甘えて好き放題していた。でも、親友なんて要らないと力説している彼女の気持ちのすべてに思いを馳せる余裕も客観性も大人な気持ちもなく、ただただ嫌われてしまったんだと衝撃を受けた。

 でも私は簡単に嫌いになんかなれない。
 嫌われたなら、これ以上嫌われないように離れておこう。

 私は昔からこうなのだ。必要なさそうなら、無理に私にかまわないで良いのよと遠慮してガッツリ離れてしまう。

 その後、運動部のBちゃんはケガをして入院した。でも私はお見舞いに行かなかった。学校がそもそも1時間半くらいかかる距離にあって、病院はもっと遠いと言う。学校帰りに一緒に行かないかと他の友達に誘われたけど、行っても、私を嫌っている彼女は困るのではないかと思った。行って何を喋って良いかもわからなくて、「来られてイヤだな」って思われるのも辛かった。それに早く帰らなくちゃお母さんに怒られちゃう。それも本当。だから断り続けた。
 でも本当はお見舞いに行きたかった。
 仕方がないから毎回、手紙を託した。暇つぶしになるかもしれない。お見舞いに行く友達が誰かいると、その誰かに託した。


 高校生になってから、Bちゃんは中学生の頃とは違ったタイプの友達たちと仲良くなっていた。お互い友達がいて、お互いそれを見守るだけ。まあそんなもんだと思っていた。

 すると卒業前、思い出を書いてもらうノートに「かせみちゃんだけだったよ、入院中に手紙をせっせとくれたのは。あれがすごく励みになってん。ありがとうね」と書いていた。

 お見舞いに行かなかったのに、そんなことに感謝してくれるんだ。Bちゃん、私のことずっと想っていたんだな。胸に熱いものがこみ上げた。


 当時は多くの子がそのまま同じ学校の女子大学に上がる中、Bちゃんは両親の仕事の影響もあったのだろう、別の大学の薬学部に合格し通った。

 その後、彼女にはあの男性、この男性、とどこどこでベッタリで歩いている、などと噂があった。
 どんなだったかを皆は再現しながら、良く思っていない風だった。でも私は心配だった。彼女は寂しいんじゃないだろうか。気持ちが全然埋まっていないんじゃないだろうか。噂を聞く度に、心がざわざわして落ち着かない。

 一度だけ電話をもらった。
 「猫を引き取ってくれる子を探してるねんけど。かせみちゃんが昨日、夢に出てきてん。だから思い出して電話してみた」
 ウチは祖父母や両親が猫を飼うなんて許してくれないので、断った。でも私を思い出してくれて、少し勇気が必要だったろうに電話をかけてくれて、大声をあげたくなるくらい嬉しかった。嬉しかったのに、また何も力になれなかった。「ごめんね。でも電話ありがとうね」と言うのが精いっぱいだった。
 本当はもっと喋りたかった。心配だよ。元気にしてるの? 大学で友達はできた? この先どうしていくの? 彼氏いるの? Bちゃんを大切にしてくれる彼氏なの?


 その後、阪神大震災が起き、何度か訪ねたことがある彼女の家はペシャンコにつぶれたと聞いた。そしてその時にお母さまを亡くされたと。中学一年生で家を訪ねた時のお母さまは、静かで優しそうな方だった。


 大丈夫かな。
 時々思い出す。
 あまり家族に恵まれていない彼女だったけど、今、気持ちが幸せに暮らせているのだろうか。
 やっぱり医療従事者として働いているのだろうか。


 ……ああそうか。きっと今のこのコロナ関連で、思い出したんだ。

 会ったところで彼女は「かせみちゃ~ん、元気ぃ? どうしてるん?」て笑い、強がって自分をごまかしちゃうのかもしれない。
 それでも、会えば私は彼女の心が元気かどうかを見抜ける気がする。
 だから会って喋りたい。

 「会って」喋りたい。


#エッセイ #友達 #心配 #元気かな #会いたい

読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。