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謎のポーズで会話する夫婦

 晩御飯が終わっても、夫と私はまだどっかり座ったまま、テレビを眺めていた。

 ふと、夫が片手をまっすぐ挙げ、手首のところを曲げているのが目に入る。
 時々そのポーズをするんだよな。

 普段なら流してしまうけど、その日は何となく同じポーズをしてみた。

 右手をまっすぐ挙げて右耳に腕を添わせ、手首をほぼ直角に曲げてみる。

 すると、夫が曲げた手首の先を左右に動かし始めた。私も左右に動かしてみる。
 さらに夫は上下にカクカクお辞儀させている。

 「もう何もないのかなあ」

 「へ?」

 「お替わりとかないかなあ」

 親指と残りの指を、パペットのようにパクパクお喋りさせて動かしている。

 「おつまみがあったら良いなあ」

 夫はぽっちゃりさんだから、健康を気にしている私の許可がないと、食後はなかなか食べ物にありつけない。自分で準備している時もあるけど、何となく私のピリついた視線を感じているだろう。(感じていないかも)

 「おかずがまだ残ってるの、少しなら良いよ」

 私も指でパクパクさせながら返事してみた。

 「ところでこれは何?」
とそのポーズのままパクパクさせて聞くと
 「キリン」
と返ってきた。

 夫は「ちっちゃい頃、キリンになりたかった」と言っていたのを思い出す。
 いやそういう意味じゃないだろうけれども。


 私は、お皿を片付けがてら、可愛いおじさんキリンのために、残っているおかずを小皿に盛ってあげた。

 そして夜。夫は布団に入ってしばらくすると、
 「キリンかもしれないけど、ツルかもしれない」
と言って寝た。

 ……なんですって?!

 と思ったまま私も眠りに落ちてしまった。


 そう言えば何なのよあの、よくやるあのポーズは。キリンだったの。ツルなの。とりあえず一緒にやってみると、意外と会話が広がるのね。っていうか、いつも「何か言いたい」時だったのだろうか。

 時間が経ってから、あれこれ気になり始めてしまっている。


#エッセイ #キリン #ツル #ポーズ #会話

読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。