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[ライブレポート]Labas!クインテットがリトアニアと日本を繋ぐ〜ジャズとクラシック、現代音楽と現代アートの融合

 今年、日本とリトアニアの友好100周年を記念して結成されたLabas!クインテットによるコンサートが11月4日にラゾーナ川崎プラザソルにて開催された。

Labas!クインテットのメンバーは、日本のジャズ、幅広い音楽を奏でるピアニストの福本純也(ピアノ・編曲)、国際的な音楽活動をしてきたリトアニア出身のクラシック奏者ジドレ(バイオリン)、ダニエリス・ルビナス(コントラバス)、川島佑介(ドラム)、マヤコ(ボーカル)で構成されている。
 
 会場には、この記念すべきコンサートを待ちわびるオーディエンスが小さなお子さんから老若男女、国籍関係なく訪れている。その光景がとても嬉しくなった。そして、振り返ってみると、ジャズとクラシックの融合、日本とリトアニアの音楽と現代アートとの融合が新鮮で、どこか懐かしくもあり、良い意味で不思議な居心地の良いコンサート、音空間であった。
ここから更に、この記念すべきコンサートを振り返ってみたいと思う。

 19時になり、ステージにメンバーが登場してオーディエンスの温かい拍手で迎えられた。

青い照明からオレンジへと変わり、福本のピアノと川島のキラキラとしたウインドチャイムから始まる、バッハ作曲「主よ、人の望みの喜びよ」。ジドレのバイオリンも主旋律を奏でて加わっていき、ファンタジーに入っていくかのような気持ちにさせてくれる。また、最後のラテンジャズ・アレンジからクラシックに戻っていくかのような展開も印象的であった。
 

福本純也


川島佑介

 そんなウキウキとする一曲目を終えると、ジドレの「皆さま!」に続き、メンバーが「Labas!」とご挨拶。「リトアニア語で、こんにちは!という意味です。」とジドレが教えてくれる。「今日は、来ていただいて、本当にありがとうございます!」という言葉と共にメンバー紹介。ここでマヤコも加わり、リトアニアについて歌と踊りがとても盛んな国だと話す。
 

続いて、ユオザス・ナウヤーリス作曲、マイロニス作詞「愛するリトアニア」の美しく自然豊かな歌詞について説明し、ジドレのバイオリンの演奏からマヤコの透き通った歌声が会場全体を包み込んでくれる。マヤコの「3番は日本語に訳して1.2.4番は、今回リトアニア語に挑戦しました!」という言葉に、オーディエンスも温かい拍手で応える。

マヤコ

 そして3曲目は、リトアニアの芸術家、画家であるスタシス・エイドリゲヴィチウスの8枚のミニチュアという絵にブロニウス・クタヴィチウスが作曲した「スタシスの8つのミニチュア」を、今回はその8枚の絵をスクリーンに映しながら演奏していく。
 
一枚目の絵「黄色のネックレス」の演奏では、ジドレはバイオリンの弦をはじき、福本のピアノはリズムを細かく刻みつつ、とても怪しげな雰囲気であった。物語の続きのような2枚目「悲哀」の演奏、そして3枚目「道化師」は、ジドレのバイオリンの高音が何かあったかのような物語を連想させてくれる。4枚目の悲しそうに泣いている「道化師」、5枚目「三角形」に続いて、6枚目「ガラスの後ろの鳥」では、ダニエリスのコントラバスが夜明け前を感じさせる低音がなんとも心地良い。そして、7枚目「段ボール男」はリズミカルなサウンドで、8枚目「永遠の平和」では、ラストの一枚らしく壮大なサウンドスケープで締めくる。

  ジャズアレンジで披露された「朧月夜」では、青い照明の中、福本のピアノと川島のキラキラとしたウインドチャイムから、マヤコの歌声が歌詞の世界観を映し出し、ずっと聴いていたくなる多幸感に包まれた。また、川島のドラムブラシも哀愁を誘う音色を奏でていた。そして、前半のラストは福本が前からジャズアレンジしたかったというモーツァルトの「トルコ行進曲」。ブラジルのリズムと即興とスウィングで楽しく、大きな拍手がステージに送られた。
 

後半も、オーディエンスの温かい拍手で迎えられたLabas!クインテットのメンバーたち。

 ダニエリスがウクライナ戦争について触れ、音楽家としての使命を語ると、ウクライナの現代音楽、ミハイロ・シェドリーク作曲「ヴァイオリンとコントラバスのための「7つの音」をジドレのバイオリンとダニエリスのコントラバスで息ぴったりに奏でる。演奏の途中で10秒間ブレイクがあるなど、緊張感のある楽曲であった。

ダニエリス・ルビナス
ジドレ

 その後は、バッハの「インベンション「第8番」、ショパン「子犬のワルツ」と名曲を続けて演奏。「インベンション「第8番」は、川島のドラムスティックのカウントと1.2.3.4.の掛け声と共に、軽快にカノン風にアレンジされ、マヤコの鍵盤ハーモニカと川島のドラムソロが大空を翔るような爽快感のある演奏で気持ちも明るくさせてくれる。「子犬のワルツ」は、ジドレのバイオリンから楽しいグルーブを生み出していた。
 
 続いて、リトアニアの伝統音楽「スタルティネス」。リトアニア民謡「金持ちの兄は会いにこない」は、日頃の想いや日常を唄うブルースのような楽曲だという。マヤコとジドレが向かい合って不協和音のような不思議な音楽を奏でてくれる。途中で、ダニエリスのコントラバスと福本のピアノがさらに紫色の照明と共に、歌の内容“金持ちの兄は会いにこない”の不安さが伝わってくるように感じた。 

スタルティネス

 そんな“不安”“不協和音”から一変して、メンバーみんながかえるの形をした楽器、ギロを鳴らし、「かえるのうた」を輪唱してからジャズアレンジ満載の演奏へと続く。最後は、手拍子で会場の熱気が最高潮に達した。
 
 最後は、Labas!クインテットのテーマでもあるという日本の名曲「ふるさと」。ジドレのバイオリンとマヤコの歌声、ダニエリスのコントラバス、福本のジャジーなピアノ、川島のドラムブラシとウインドチャイムが温かく、最後にふさわしく叙情的であった。
 
 鳴り止まない大きな拍手の中、アンコールはリトアニアの民族の踊り「ポルカ」。足と手拍子でリズムをとるオーディエンスもステージのLabas!クインテットも、みんなが笑顔に。温かい拍手に包まれてコンサートは終了した。
 

2022年、日本とリトアニアの友好100周年にふさわしく、国境を超えた音楽、国の架け橋になったLabas!クインテット、そしてかわさきジャズにありがとうと感謝の気持ちでいっぱいである。そして、100周年のおめでとうと、“Labas!”とリトアニアへ行ける日を願って。

Labas!クインテット

Text by Chisato(かわさきジャズ公認レポーター)
Photo by Tak. Tokiwa

公演概要

「 Labas!クインテット in 川崎(ジャズ×クラシック)
- リトアニアと日本、友好100周年記念コンサート -

出演: Labas! クインテット
▼メンバー
福本純也(ピアノ・編曲)、ジドレ(バイオリン)、ダニエリス・ルビナス(コントラバス)、川島佑介(ドラム)、マヤコ(ボーカル)

More Info

セットリスト

 1. Jesu, Joy of Man's Desiring
     主よ、⼈の望みの喜びよ
2. Lietuva Brangi
 愛するリトアニア
3. Bronius Kutavicius "8 Stasys Miniatures"
 クタヴィチウス「スタシスの8つのミニチュア」
4. Oborozukiyo
 朧⽉夜
5. Turkish March
 モーツアルト:トルコ⾏進曲
 
6. Mykhailo Chedryk "7 Sounds" Duo for Violin and Contrabass
 シェドリーク ヴァイオリンとコントラバスのための「7つの⾳」
7. Bach Invention No.8
 バッハ:インベンション8番
8. Chopin Waltz Op.64 No.1
 ショパンワルツ第6番 変⼆⻑調、作品64-1『⼦⽝のワルツ』
9. Lithuanian folk song "Bagoti Broliai"
 スタルティネス「⾦持ちの兄は会いにこない」
10. Frog Song
  かえるのうた
11. Furusato
  ふるさと
 
===ENCORE===
Polka(ポルカ リトアニアの⺠族の踊り)