［ライブレポート］ミューズたちの魔力に引き寄せられて「The Three Muses ～ジャズ・ヴォーカルの煌めき vol.2」
2022年11月2日、宮本貴奈(Pf)、市原ひかり(Tp)、石川紅奈(B)による「The Three Muses ～ジャズ・ヴォーカルの煌めき vol.2」が開催された。初演が好評だった3人を聴き逃すまいと昨年に引き続きミューザ川崎プラザソルに向かう。
キャラクターも声質も違い、共演する機会もほとんどない3人だが、１年のブランクなど感じさせないどころか個々のパフォーマンスまでもが確実に進化していた。
手始めに「My Shining Hour」。三人の衣装同様キラキラしたピアノのイントロに始まり、互いにインストを回し合ってまずは指慣らし。本領発揮のトップバッターは、ベース弾き語りの石川紅奈。以前はほとんど見られなかったが、最近はアマチュアにも浸透しつつあるスタイルとなった。
「Anthropology」は石川の淡いスキャットで始まり、ビ・バップを三人三様に表現する。銀色の衣装の市原ひかりが、躍動する宮本貴奈のピアノに触発され、まさに水を得た魚のように楽譜の川を飛び跳ね泳ぎまくる。
トランペットが勢いづいたところで、市原の即興コーナーへと移る。「秋の陽、暮れゆく川崎」というお題が客席からもたらされると、くぐもった音色とたおやかな独特のスキャットで、秋の夕暮れを間髪入れずに表現したのには感動した。客席とのやりとりも楽しげで、恒例行事になればと期待したい。
「Bye Bye Blackbird」では、三人のパフォーマンスがもはや歌詞を凌駕していた。名残惜しい宮本、前向きに切り替えたい市原、ひたすら自由を願う石川、といった具合に。わずか数年で高い歌唱力を身につけた三人は、どうやって今も進化しているのか。「声は究極の楽器」と小澤征爾氏が称したように、演奏力と歌唱力には密接な関係がある事を忘れてはいけない。
チック・コリアが 「Spain」の参考にしたことでも有名な子守唄 「Tell Me A Bedtime Story」を、今年8月｢チック・コリア トリビュート」のピアニスト＆音楽監督も務め上げた宮本が弾き語る。どんな曲でも歌いこなせそうな彼女だが、とくにスローバラードは絶品である。
休憩を挟み、仲良く「Close To You」 をアカペラで歌いながら登場する。去年より上手くいったねと、最大の難関を終えホッとした三人は一気にリラックスモードとなった。今や石川紅奈の代名詞「Off the Wall」は、市原とのDuoで挑んだ。いっそう太く頼もしくなったベースの幹に、しなやかに絡むトランペット。互いのボーカルが華を添え、この曲のさらなる可能性を示していた。
ここでサプライズ好きな宮本が、教え子であり国立音楽大学1年のサックス奏者、鈴木真明地を紹介して四人で「Fly Me to the Moon」を熱演。真明地は音楽一家に生まれ、タップダンスも得意としている。幼少の頃に、ダンスコンテストでこのステージに来たことがあるらしい。
プレゼントに三人のCDはいかが？というフリに続いて、「Four」を三人で。クリスマス月に突入したかのように華やいだアレンジに会場もうっとり。きっと購買意欲も増したに違いない。
アンコールは昨年と同様、宮本貴奈セレクトの 「What A Wonderful World」。石川が歌詞をロストする場面があり、宮本がにこやかに助け舟を出す。先輩二人に挟まれた緊張がふと解けた瞬間と微笑ましく思いながら、サッチモのある言葉が頭をよぎる。
その秘訣はLOVE愛なんだ
お互い愛しさえすれば多くの問題は解決するはずだよ
サッチモ（ルイ・アームストロング）が残したセリフを、外山喜雄が今年のジャズアカデミーで紹介したものだ。
ジャズアカデミー 第3回 〜サッチモとジャズの故郷ニューオリンズに魅せられて〜 外山喜雄・恵子の『サッチモ人生』(YouTube ）
当時のアメリカを憂いたサッチモに心を寄せながら、3人のミューズは「音楽」の魔力で私たちに問いかけていた。
Text by 坂井奈々香
Photo by Tak. Tokiwa
公演概要
かわさきジャズ2022
「The Three Muses ～ジャズ・ヴォーカルの煌めき vol.2」
出演：宮本貴奈(pf、vo)、市原ひかり(tp、vo)、 石川紅奈(bs、vo)
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セットリスト
1. My Shining Hour
2. Blackbird
3. Anthropology
4. 秋の日暮れゆく川崎（完全即興）
5. Bye Bye Blackbird
6. Tell Me Bedtime Story
7. Do-re-mi
＜休憩＞
8. Close To You
9. Off the Wall
10. The Shadow of Your Smile
11. 500 Miles High
12. Four
=Encore==
13. Fly Me to the Moon
14. What a Wonderful World