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子守唄といえば

『はぐれ刑事純情派』の再放送を見ていたら、事件の鍵が子守唄だった。ねんねこさっしゃりませ、の中国地方の子守唄。ねんころろん、てかわいい。

それで思い出したのが、こどもが赤ちゃんだった時のこと。
私は音楽も楽器も好きなんだけれど、人前で歌を歌うことについてはトラウマに近いものがあり、家でも外でも鼻歌でもほとんど歌うということがない。そんな私が、赤ちゃんの寝かしつけに苦心していたころ、抱いて歩いたりゆらゆらしたり、思いつく限りのことをして、もう何かないかと思って、子守唄は歌ったことがないことに気づき、しばらく考えた末、意を決して歌ってみると・・・。

歌い出した瞬間、抱っこしてた赤ちゃんがギョッとした表情をした。お母さんどうしちゃったの?何してるの?大丈夫?って思ってるみたいな顔で。私は即座に歌うのをやめ、「今日はいい天気だねえ」などとつぶやいて普段のお母さんだよ感を必死で醸し出し、赤ちゃんの表情をうかがうと、しばらく疑うような顔をしていたけど、そのうち安心したようだった。私は子守唄は以後二度と歌わないことに決めた。あれは多分緊張感が出てしまったんだと思う。

私の母も子守唄は歌わなかった気がする。子守唄を歌ってもらった記憶がない。覚えてないだけかもしれないけど。でも母は、
「あんた赤ちゃんのときゴロンタの歌が好きだったに。こうやって手持ってね」
ゴロンタの歌を二番か三番まで振りつきで歌ってみせてくれたことがある。

一方で亡き父は決して歌わなかった。一度も、ほんの一節も、私がどんなに頼んでも歌ったことがなく、たぶん作り話だと思うのだけど、
「死んだお婆さんの遺言でお前は決して人前で歌を歌うなって言われたで歌えんだよ」
と言っていた。歌は歌わないけれども母よりずっと音楽は好きで、レコードやCDをいっぱい持っていた。何があっていつからそんなに歌いたくなかったのかは謎のままだった。

祖母が歌うのもあまり聞いた記憶がないけれど、特に避けているふうでもなかった気がする。鞠つき歌を歌いながら鞠つきをしてくれたことがあった。祖父が歌うのは聞いたことがある。祖父が歌ったのは、ねんねんころりよ、の江戸子守唄だった。子守唄以外にも、「赤い鳥小鳥」などの童謡や、タコ入道の絵描き歌なども歌ってくれたことがあった。家族の中で一番こわくて仕事人間な感じのした祖父がいちばん歌を歌った(といっても数え切れる程度の回数だったけど)というのが意外なことだった。

あとは子守唄といえば、子どもの頃、妹が誕生日プレゼントにもらったウサギのぬいぐるみにオルゴールが内蔵されていて、ブラームスの子守歌が入っていて、ちょっとうらやましかった。妹が、私のものだから触っちゃダメ、ときっちり管理していたのであまり聴けなかったけど。

私がいちばんたくさん聞いた子守唄は、もしかしたら、志村けんがコントで歌う、寝〜ろて〜ばよ〜、だったのではないか、という気がする。