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マインクラフト一年目

私たち家族がマインクラフトを知ったのは、一年半ほど前。
たまたまよそのお家で見せてもらって、レゴみたいな感じだなあと思った。
私自身がゲームをしないで育ったのと、こどもが一つことにはまりやすいので、
あまりゲームをさせたくないなと、それまでは思っていた。
夫のPlayStationも、DVDを見る機械、ということになっている。
でも、見せてもらったマインクラフトは、ちょっと印象が違った。
ブロックを積んでいろいろ作ったり、プログラミングできるものらしい。

そのころ、こどもはスクラッチでプログラミングにはまっていた。
小さいころはレゴブロックも好きだった。
マインクラフトはどうだろうか?
やらなくても困りはしないけど、やってみても良いかもしれない。

その日の夜、多少興味ありそうだったので、無料のお試し版をやってみた。
こどもはひたすら土や木をボリボリと掘っていた。
木の下の方を取っても、上の方は浮いてるんだね、なんて言いながら。
山にトンネルを掘っているうちに日が暮れてクモがわいてやられてしまった。
ちょっとした失敗で悲しくなっちゃうこともあるのでどうかと思ったら、
“死んでしまった”と出ても、あはは、と笑っていたのでほっとした。

次の日の朝、「マイクラは?」と聞かれた。
あれはお試し版だから、と言うと少しがっかりしていた。
スクラッチとか他にやりたいことがあったのでまあいいや、という感じだった。

マイクラは?って自分から言うくらいだから興味ありそうだ。
マイクラ買おうかどうしようかと、夫とのんびり考えて3か月くらい経った。
何を買うにもとことん調べて検討する私たち。
しかもこだわるところが夫と私で違うからなかなか決まらない。
どんなことができるの?有料のものをこどもが買ってしまう可能性は?
うちのネット環境でどこまでできる?どこで買う?何版にする?
Java版と統合版の違いは?などなど、調べては考えていた。

そんなことしてるうちに忘れちゃったかも、とふと思って、
「ええと、あれ、ほらあの、ブロックボリボリするやつ、やりたい?」
とこどもにあらためて聞いてみたら、
「勝手に変な名前つけるな」
「ごめん。名前が出てこんかった。なんだっけ」
「マインクラフトだよ!」
忘れかけてたのは私のほうだった。

まだ覚えてるし、有ればやりそうだから買ってみようということになり、
ノートパソコンにマインクラフト統合版が入った。
「昔と違って、カード決済でダウンロードでゲームが買えるんだね」
「そうだよ。昔は店でカセット買ってきて、だったよね。ガシャって」
などと言い合う昭和生まれの夫と私。
こどもは「はあ?カセットって?」
そうか、ゲームのカセットもカセットテープもビデオテープも知らないよね。
夫とこどもはさっそくやり始め、初日はなぜか空からパンダがたくさん降り、
何じゃこりゃ、ってケラケラ笑っていた。

スクラッチを主にやりつつ、時々マイクラで遊ぶ、という日々が続いた。
ブタやニワトリを飼う小屋を作ったり殖やしたり。
マイクラが息抜きになってるかな、と思って2か月くらい経った。

ある日、スクラッチで作っていたオセロのプログラミングに行き詰まっていた。
それまで、どうにも難しいところは夫が手伝っていた。
そのとき夫は、難しい所はやったから後はこどもがやれる、と思っていた。
こどもは、ここはめんどくさすぎるから父さんにやってほしい、と思っていた。
どちらも一歩も譲らず。
私が、やってあげたら?と言っても、自分でやったら?と言っても、
二人とも全然きかなかった。うち、みんな(私も)頑固で人のいうこときかない。

こどもが何も手につかずに部屋をぐるぐる歩き回っているので、
「スクラッチでオセロ以外の何か作ったら?」と言ってみると「やだ!」
「本でも読んでたら?」「やだ」
「じゃあ、何もしないでお父さん待っててもしょうがないし、マイクラは?」「ん?」
「ほら、ちょっと前に入れたブロックの。最近あんまりやってないけど」
こどもが立ち止まり、2秒くらい静止して、「あれか」
そしてパソコンに向かうとマインクラフトを始めた。

次の日も次の日も次の週もずっと一日中マイクラをしている。
あれ?スクラッチは?オセロは?あと少しで完成じゃなかったの?
スクラッチは全くしなくなってしまった。
私の声かけが失敗だったかな、と反省が半分。
なんでも夢中になれるのならいい、というのが半分。
気がつけば1ヶ月を超え、次の月もマイクラ。

こどもに話しかけても返事がないのは元々よくあることで、
反応がなくても分かってることが多いのだけど、
このころは特に、マイクラで頭がいっぱいらしくて返事がなかった。
こどもと会話がしたくなったら、
「マイクラの世界には、イヌっていたっけ?」
などとマイクラにからめると、パチっとスイッチが入ったように
「いない!オオカミがいる。手なずけるとイヌみたいになる。ネコのほうが・・・」
などしゃべりだす。そして止まらない。
現実のものについては「マイクラの世界では」
マイクラの中のものについては「現実の世界では」

こども「マイクラの青いジャガイモって毒あるけど、現実のジャガイモは・・・」
私「芽とか緑になった皮とかは毒だけど、青じゃないよね」
こども「そうだよね。マイクラのは青いんだよ」

こども「マイクラでは牛乳を飲めば解毒されるんだよ、なんでも!」
私「なんでも?現実じゃありえないね。マイクラ作った人牛乳好きなのかな」
こども「そうかもね」

こども「マイクラのニワトリは卵投げつけて割るとヒヨコが生まれる」
私「ええ〜!」
こども「ヒヨコになる確率は9個に1個くらいで・・・」
私「確率!?しかも低い」
こども「そう。だからヒヨコが出るまで何個かこうやって卵を投げる」
私「オムレツにして食べたりできないの?」
こども「割ったのは消滅するね。ヒヨコは小さいニワトリの形をしているんだ」

こども「エメラルドってどれくらいの価値?」
私「けっこう高級な宝石だけどねえ」
こども「マイクラではエメラルドで買い物ができるんだ」
私「現実ほど高価じゃなさそうだね」
こども「ダイヤモンドのツルハシっていうのもあるよ」
私「もったいない。ていうかどんなサイズ??」
こども「だって硬いじゃん。ダイヤの鎧とかもあるよ」
私「人工ダイヤなんだろうか」
こども「いや、地中に埋まってるから」

マイクラといえば建築だろうと私は思っていた。
しかし、こどもは、小屋など作ってたけど、建築様式より機能重視だった。
そして自動焼き鳥装置などの実用的なものをせっせと作りはじめた。

こども「これで焼き鳥が大量にできる。ここにマグマがあって」
私「え?マグマで焼くの?ニワトリぎゅうぎゅう詰めじゃん。なんか残酷」
こども「いや、これ現実のニワトリじゃないから。データだから、ね?」
私「まあそうだけどさ。なんかかわいそう。バタバタして、あ、焼けてる〜」
こども「大丈夫、ただのデータだから。大丈夫、大丈夫」

こども「このコンブの装置で骨粉を作れば肥料になってサトウキビとか育つ」
私「コンブが骨粉?骨ないじゃん」
こども「そういう設定なんだよ」
私「陸の上に水を積むの?え?真水で?ていうかこの形ワカメっぽい」
こども「しょうがないだろ。そういう設定なの!」

「見ててよ。TNTキャノン、遠くまで飛ぶのできたから。行くよ。ファイヤ!
あれ?ちょっと待って。もう一回。見ててよ。見て。見てる?行くよ、いい?
ファイヤ!どう?もう一回やってみようか?TNTの音って気持ちいいよね?」

「マイクラの世界は現実の物理の法則とは違うんだよね。例えば・・・」

トラップタワーができた、とか。エレベーター作った、効率が、座標が・・・

そういうのの合間に、「サバイバルもやってみようかな」「経験値が」
とか言っている。夫に聞くと、「マイクラって普通そういうのだから」
そうなのか。たしかに経験値ってゲームっぽい。
「ネザーなんて恐ろしいところには絶対行かないぞ」と言っていたのが、
そのうち「やっぱり行ってみようかな」とネザーポータルを作り、
行ったり来たりするようになっていった。

少し話がそれるけど、マイクラに出会ったころ、既に学校に行っていなかった。
でもまだ学校の宿題をしぶしぶやっていた。
宿題をやめた後、家で買った教材をしばらくやっていた。恐竜漢字ドリルとか。
パソコンばかりやってたら目が悪くなるんじゃないかと心配でもあったので、
休憩しよう、これ1ページ一緒に、塗り絵でもいいよ、と声かけてたのだけど、
無理にやらせるのは、こどもの邪魔をしてるだけな気がしてきてやめた。
こどもも、やりたくないことは絶対やらなくなってきた。
本来のペースを取り戻してきた感じ。何時間でも集中してる。
今、何をするかは自分で決める、っていう意志が前にも増して強くなった。
それに、やりたいことは常にいくらでもあるらしい。
今日はYouTubeばっかり見てるな、と思ったら実は動画で調べていて、
次の日にはずーっと装置を作り続けていたりする。
「学校行ってると疲れるし時間がないからやりたいことができない」って、
休み始めに言ってたの、こういうことだったのかと、やっと腑に落ちた。
やりたいことって、朝から晩までやって何ヶ月もかかるのね。

狭い興味の範囲を深掘りする子だとは、小さい時から感じていたけど、
予想してたのと程度が違った。
2年間は小学校に行っていたから意外と普通かと思ったのは間違いだった。
こどものこと、わかってたけど、十分にはわかってなかった。
何時間目は何、とか、このやり方でやるよ、みたいなのが合わないし、
ほんとは興味のないことはしたくないし、強制は嫌いで、
学校の授業は、知ってること、わかったことで退屈だったらしく、
自分の話がわかる子は誰もいなかったみたいで。
学校は”地獄“だったそうで、お腹や頭が痛くなったりしていた。
学校やめたら様々な体調の問題が解消した。気づくの遅くてごめん、と思った。
他害やパニックが無くて周りは困らないけど、本人は静かに困ってるタイプ。

小中学校に行かなくても高卒認定とって大学行けばいいと思ったけど、
どうも大学も行かなそうな気がしている。
学歴とか賞金とか名誉とか物とか、何も欲がない。
「それ、なんの意味があるの?」って言う。
「知識欲だけがあるんですね」と児童精神科で言われた。たしかに。
食事も、三食食べるけど、偏食だから、食べれるものならいいっていう。
あれが食べたいとか、お腹すいたとか言わない。
どこに行きたい、もなく、むしろ時間取られるから出かけたくないと言う。
人間関係も、親が話し相手で足りてるのか友達を欲しがるでもない。

これで将来大丈夫なのかはわからない。でも元気で楽しそうなのが一番。
私「もう好きなことを思う存分やってくれればいいよ」
こども「ん?やってますけど何か?」
私「なんでもない」
こども「ん」

話を戻すと、マイクラに熱中して4ヶ月後、
「率直に言ってJava版もやりたいね」と言うので、(率直に言って、か)と
そのまま夫に伝えると、「率直に言って・・・率直・・・あ、そう。率直ねぇ。
ノートパソコンにJava版入れるのはセキュリティ的にちょっとなあ」と言って、
既製品の新しいパソコンを買うか、組み立て済みの自作パソコンを買うか、
スペックがどうとか、値段の割にとか、しばらく悩んでいた。
考えた末、自作パソコンの材料を取り寄せてうちで組むことになった。
いろんなパーツが宅配で届き、玄関が段ボールでいっぱいになった。

ディスプレイ以外の材料がこれくらいの量

組み立てやってみたい?とこどもに3回聞いたけど、しない、というので、
組み立ては夫がしたけれど、こどもも興味津々でずっと見ていた。
「CPUよりグラフィックボードが大きい」と言って愉快そうに笑っていた。
グラフィックボードって何?と私が聞いたらこどもが説明してくれた。
コンピュータの仕組みもいつのまにか知ってる。

1日で晩までに組めると夫が言ってテーブルの上で組み立て始めたのだけど、
晩ごはんが出来てもまだ組み終わっていなかった。
夫はだいたい時間ギリギリかオーバーする人なので、やっぱりか、だった。
晩ごはんを台所でみんな立ち食いすることになった。
こどもは「この状況はいやだ」と何回も言った。
普段と違うのが苦手だからしょうがないな、と思い、「これもJava版のため」と
なだめながらごはんを食べてもらった。

こどもが撮った1枚

そうして新しいパソコンができた。統合版もJava版も入った。
こどもが自作パソコンを使い、夫が空いたノートパソコンでマイクラを始めた。
夫は仕事が終わってからも休日もマイクラばっかりやっているようになった。
マイクラ酔いした、と言ってぐったりしては、またやっている。
こどもと同じくらいはまっている。
2人で同じワールドに入って何か作ったりしている。
こどもは遊び相手ができて楽しそう。
ごはんができても2人ともすぐには来ない。
「母さんもマイクラやればいいのに」「酔うからいいわ」
家族3人中2人がはまったことにより、日常がさらにマイクラに染まってきた。
私はやってもいないのに、風呂場の床の格子模様がブロックに見えたり、
朝起きた時から頭の中でマイクラのBGM(すこしさみしく感じる)が流れた。

こども「虫がいる」
私「えっ!どんな虫?」
こども「小さいクモみたい」
私「昨日も言ってたね。つかまえる?」
こども「いや・・・」
夫「サボテン置いたらいいんじゃないか?」
こども「父さん、ポンコツだな」※父さん初心者だな、くらいの意味
私「なんでこの子ばっかり見つけるんだろ?もしかして、わき槽がついてる?」
こども「母さんも頭いかれてるな」※いかれてる、はほめ言葉らしい

1人でお風呂入るのを怖がってるこどもに
「大丈夫。クモとかゾンビとかクリーパーとかわいてなかったよ。
お湯がわいてるだけだから」
それでも不安そうなので、お父さんが“わき潰し”に脱衣場に立ち、
「うちの天井そんなに高くないし、エンダーマンはわかないんじゃないか?」
「わき潰しに、たいまつの代わりに廊下の電気つけとこう」
と言って安心させた。

そのうちこどもが装置よりレッドストーン回路にはまりだした。
パソコンの中で電子工作してるような感じらしい。
「マイクラの中にコンピュータ作りたいんだよね」
YouTubeとWikipediaとで調べては作り、
疲れたらマイクラ動画を見て笑い、時々サバイバルで遊ぶ。
学びも休憩も遊びも全てがマイクラ。

装置の頃はまだ私でも話し相手ができたけれど、回路になってくると、
ALU、BCD、論理演算、NOT、AND、OR、二進化十進数・・・などなど、
いつのまにか難しいこと知っていてついていけなくなった。
数学に似ているけどちょっと違うプログラミングの世界。
こどもが言ってた言葉を思い出してWikipediaで検索してみた。
ざっと眺めて、(うわーこういうのが好きなのか、私には無理)と心折れた。
これは夫に任せよう。
生物だったら・・・小さいとき恐竜ブームの時期あったんだけどな。

こども「ALU35号機、できたんだけど、どう?」
私「・・・と言われましても。ええと、小さくなった?」
こども「横方向にね。縦は大きくなってる」
私「そうなのか。速くなったの?」
くらいのことしか言えない。
こどものほうも、母さんじゃわからないな、というのがわかってきて、
詳しい話は夫のほうにするようになった。
夫が在宅勤務の途中でトイレに来るとすかさずつかまえて話している。

マイクラの回路勢という人々が居るらしい。でも珍しいらしい。
マイクラやってる人は大勢いるだろうと思ってたら、ここでも少数派なのか。
この子がやってることをわかってくれる人、どうしたら見つかるんだろう?
当のこどもは一人黙々とやっていて不満はなさそうなのだけど。

私は情報収集のためにnoteとTwitterをはじめたものの、
流れる速さについてゆけず、読むので精一杯で何ヶ月もたっていた。
自分のTwitterアカウントに鍵がかかっていることすら気づいてなかった。
ツイートの仕方を調べ、固定ツイートにこどものマイクラのことを書いてみた。
これでいいかな?とこどもに確認してツイート。

すぐに回路勢の方に見つけられ、返信をいただいた。
SNSってすごいな、と驚きながら、こどもに伝えて、
回路を見てもらうために動画を作ってみようとYouTubeに挑戦することに。
まずは無料で使える編集ソフトを使うことにしたのだけど、
こどもがどうしても見慣れた“霊夢”の声を使いたいようで、
夫が、著作権の問題がない別の名前の声をすすめたら、すごく不機嫌に。
そんなんなら作らなくていい、くらいの様子だった。
そここだわるのか!と夫も私もびっくりした。そこまでなら霊夢にしよう。
収益を得ないなら著作権の問題はないらしいからCM入れなければいい。
私は「霊夢って卵料理の動画の人の個人の名前じゃないの?」と言って
「そんなわけないだろ」と機嫌が直ったこどもに大笑いされた。

そうしてこどもが作った動画2つ。ALUの紹介。
(ウプヌシって何?動画をアップした主のことなのか。知らなかった)
https://youtu.be/7r_p5y3Onac

https://youtu.be/AoeMnId5h4w

この動画をツイートしたらまた新たな回路勢の方が見てくださった。
こども的にはこれじゃまだまだだと思っていて、改良を続けている。
完璧主義なので3つめの動画はなかなか作る気になれていない。

11歳になった。マイクラ一色の一年が過ぎた。
回路組みながら「へっへっへ。こりゃあいいぞ〜。へっへっへ」と笑ってた。
楽しそうでいい。

そして夫も回路を組んでいた。
私「ねえ、お父さんの作ってる回路は何の回路なの?」
こども「BCDの部品」
私「それってお父さん独自の?それとも下請け?」
こども「下請けだよ」
私「お父さんに下請けさせてるの!」
こども「そうだけど。なにか?」
私「いや、いいけど(笑)」
ネットで見た回路の意味の解析を夫が頼まれたらしい。
夫が頭を抱えながらメモ用紙に書き出した「ブール代数」の式を見て、
こどもがペイントにマウスで回路図を書いていた。
夫「できたのか!すごい!」
こども「合ってるかわからないけどね」

回路を作るほかに、一緒にガーディアントラップも作っていた。
夫のお盆休み9日間はほぼそれに費やされた。
こどもは同時に7セグ変換機も作っていた。

このまえ、「できた!」と言うからよく聞いたら
「暇つぶしにチュートリアル見て作った回路」と。暇つぶしも回路なのか。

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