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きれいな小石

私がこどものころのある日。
お父さん子だったので、父ちゃん何してるかなあとさがしていると、
父は庭先でバケツに入った砂利をガラガラ洗っていた。
金魚鉢に入れるためか、庭に敷くためだったか。
私に気づいてちょっとふりむいた父は、また黙々と洗っていたけど、
「ほい、きれいな石あったであげる」
一粒を流水ですすぐと、私の手にのせた。
白くて、少し透けて、中心は何か黒っぽいものが入っていそうな、丸い小石。
私の思う「きれい」とはちょっとちがう気もした。
父ちゃんはこういうのが「きれい」なのかなあ?としばし考える。
石と、父の作業と、しばらく眺めて家に入った。

小石は引き出しの中、小物入れの中、二十何年どこかにずっとあったけど、
数年前、実家に残っていた荷物の片付けの時、もういいかと実家の庭へ放した。
そのあと、父が亡くなって、たまに思う。
あの石とっておけばよかったかな。
あげた父も忘れてただろうけど、小さな思い出。