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味覚、嗅覚、カリフラワー、ニラ

子どもの頃のある日の晩ごはん。
ゆでたカリフラワーがあって、食べてみると味がおかしい。
見た目や食感は普通だけど、食べ物じゃないようなすごく変な味。
「このカリフラワー、変な味がする」
と言ったのだけど、母も祖父母も、
「そうかん?別におかしくないけど」
「ふつうだよね」
と言う。我慢してもう一個食べてみるけどやはり変。
「やっぱり変だよ」
「私ゃ普通だと思うけど」
仕事が忙しくて気が立っていたのか、祖父が、
「気に入らんなら食うな。何も変じゃないわ」
と言ってもぐもぐ食べた。私は黙って他のおかずを食べた。

翌朝、母が、
「ゆうべあんた、カリフラワー変だって言ったら?
遅番で帰ってきたお父さんに聞いたら、『腐っとる』って」
ときまりが悪そうに言いにきた。
そのあと母が祖父母にも伝えると、
「本当かん。分からんかったやあ。腐っとるって?」
などと言っていた。

なんで私が言っても信じてくれなかったんだろう。
一人と二人の違いか、子どもと大人の発言力の差か。ちょっと悔しい。
でも、やっぱり変だったんだ、私の感覚はおかしくなかった、とホッとした。
そして誰もお腹を壊したりもしなかった。

実家にいたころ、私と父はわりとにおいや味に敏感なほうで、
いつもと少し味が違うよね、というときや、
料理のにおいがこもってるとか、鍋の取手が焦げてるとか、
気づくのはたいてい私と父だった。

においといえば、しばらく前に何かの番組で見たのだけど、
嗅覚の受容体はにおい物質ごとにたくさん種類があって、
どれを持っているかは人によって違うという。
敏感か鈍感かというだけではなく、人によって分からないにおいもあるらしい。

いま、夫とこどもと3人のなかで、一番においにうるさいのは私で、
何かのにおいがすると言うたびに夫からは
「そう?なにも臭わないけど。お母さんの鼻、誤作動してるんじゃない?」
と言われる。そう言われてみると“誤作動”の時もある。
なんか煙たい?と思ったらコーヒーの豆ガラだったり。

先日、夕食にニラを使おうと刻んでいた。
ニラとスイセンを間違えた食中毒事件のニュースを見て以来、
ニラを使うたびににおいを嗅いでしまう。
買ったニラにスイセンが入ってるわけがないと思っているし、
農家さんを信頼しているけど、ああニラだな、と匂って安心している。
その日はどうもにおいがわからなくてモヤモヤしていた。
ちょうど台所に来た夫の鼻先に切り落とした軸の束を突きつけてみた。
「これ、ニラの匂いする?」
「やめてくれ、そんなことしなくてもこの部屋中に充満してるから!」
「え?」
気づかないうちに嗅ぎすぎて分からなくなっていたのだった。
そんなこともある。
一回部屋を出て戻ってきたら、確かにニラのにおいでいっぱいだった。