NHK〈迷惑客への宿泊拒否が可能に 歓迎と不安 それぞれの思い〉と題された記事への意見文

 2023年10月26日 21時15分NHKは以上のタイトルの記事をXにて配信したので、その意見文を書こうと思う。これを書いた理由は、別垢でこのニュースにコメントを書いたら不当にアカウントを凍結されたからだ。
このニュースでは宿泊業を取り巻くカスハラと障害者の状況を取り上げている。ここではカスハラの部分だけを扱う。

カスハラとは何か。
厚生労働省は、ホームページ上で公表しているパンフレットにおいて、カスタマーハラスメントを
 
顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの

としている

まず、非常に曖昧な表現である。このような場合、サービスの受け手はサービスに対してどのような態度を取ったら良いのだろうか。お客様は神様ではないにしても、サービスの受け手は支払った金額に見合うサービスを求めているのだ。それは人それぞれ千差万別でこれが妥当という釣り合い方はない。

クレームが起こるということは、支払った対価に対してサービスが下回るから起こるのだろうから、ある程度下回った場合はクレーム、それよりさらに過度に下回る場合カスタマーハラスメントという現象は起こりえる可能性はありえるだろう。

カスタマーハラスメントがどのような状況であったかを傍から正確に判断するのは困難だ。なぜならば、双方利害についての複雑な関係性があるからだ。
暴力は一番分かりやすい。傷害罪である。しかし暴言がカスハラというのは非常に曖昧で分かりずらい。何をもって暴言とするのか「早くメニュー持ってこい!」は暴言か、「この店全然旨くねえなあ!」とか「この野郎!」は暴言に当たるのかどうか。一時間メニューを持ってこないサービス提供者に対して「早くメニュー持ってこい!」は妥当だろう。少なくとも私はそう思う。一時間待って「すいませんメニューが一時間来ないので持ってきてもらえませんか」とでも言うべきだろうか。しかしそれでも私個人の意見でしかないのでこれで妥当だとは十分に言えない。提供者からしてみてもその一時間のサービスの提供までの時間がそれ相応と判断しているのであれば、また状況は変わってくる。

サービス提供者がそれを暴言と感じたらなんでも暴言になるのだろうか。その言動に本人が傷つき退職した場合、責任はこちらにあるのだろうか。威圧的態度とは正確にはどういった態度を言うのか?ただのクレームであっても、サービス提供者が威圧的と感じれば威圧的なのだとしたら、サービスの受け手はどのような態度でサービス提供者に接したらいいのだろう。

厚労省のカスハラの定義では「妥当性に照らして」という文言が入っているが、いったいどこの誰がその妥当性を理解出来るというのか。カスハラを見分けるのは難しい問題だと思う。グレーの紙の中に白と黒を見分けるようなものだ。

NHKの記事によると、ある旅館でカスハラをしているとされる男は夫婦で旅館に泊まったが、自分の選んだメニューが来たにもかかわらず「伊勢海老が食べたかった!」と周囲に聞こえる様にスタッフの腕をつかみ、支配人に「口コミに書くぞ」と言って一時間クレームが続いたという。

この時点でこの人はカスハラをしている人間なのだろうか。確かにメニューにもない伊勢海老を要求するのは普通に考えておかしいことだが、接客業を経験した私にとっては、まああるよねぐらいの感覚である。
その後一時間にわたって、クレームが続くと言っても、そのクレーム先がスタッフなら可哀そうだが、この城の主である支配人である。対応したスタッフがすぐに謝らなかったり、この人に火を点けてしまったらこういう状況にもなりかねないだろう。

「口コミに書くぞ」は脅迫罪にあたるのだろうか。口コミサイトで集客している以上、低評価をつけられるのは当然のことなので脅迫罪にはあたらないだろう。

以上のことから、接客業を経験した人間の一人としては、この人は世間のイメージするカスハラをする人間像には見えてこない。

次にこのようなアンケート結果が明示されるが、このアンケート結果は旅館、ホテル側の意見であって、正確な状況まで記されていないため不正確と言わざるえない。サービスがあまりにひどくて威圧的な態度で苦情を言わない客はいないだろう(支払った金額に対するサービスの価値は顧客にしかわからない〈妥当性はない〉)このアンケート結果だけで判断して、カスハラが半分近くあったということにはならない。


また、宿泊業は現状、以下の旅館業法第五条の該当する場合を除いて迷惑客を「宿泊を拒んではならない」とされ、宿泊業者は困っているというようなことがNHKの記事には書かれているが、この2、その他の違法行為または風紀を乱す行為をする虞(おそれ、恐怖の意)があると認められるとき。で十分対応できるような気がするのだが、そのあたりのことには触れられていない。

旅館法第五条

1、宿泊しようとする者が伝染性の疾病にかかつていると明らかに認められるとき。
2、宿泊しようとする者がとばく、その他の違法行為または風紀を乱す行為をする虞があると認められるとき。
3、宿泊施設に余裕がないときその他都道府県が条例で定める事由があるとき。


その後厚労省は改正旅館業法を成立。宿泊拒否出来る条件を明示した記事には書かれている。以下参照

▼スタッフに対し、宿泊料の不当な割引きや慰謝料の要求、契約にない送迎などほかの宿泊者と比べ過剰なサービスを求める。
▼スタッフに対し、泊まる部屋の上下左右に宿泊客を入れないよう求める。
▼土下座などの社会的相当性を欠く方法で謝罪を求める。
▼泥酔しスタッフに対し、長時間にわたる介抱を求める。
▼対面や電話、メールなどで長時間にわたり不当な要求をする。

これは分かりやすく、まあそれは普通にカスハラだろうなということが分かる。

その後、先ほどの支配人の以下の言葉と、障害者と宿泊業を取り巻く環境について書かれて記事は終わる。

「旅館業法の改正でお客様へのリスペクトとともに、宿泊される方も私どもに対してリスペクトを持ってくださるようになれば、スタッフも生き生きと仕事ができるようになると思います。業界で働きたい人が減っている中で、このような“おもてなし”に参加してみたいと思う方が増えてくることを期待しています」

ところで、最初の男性はなんだったのか、彼はカスハラを行っていたのか、厚労省の提示する長時間に渡ってというのは三十分なのか、一時間なのか、二時間なのかいまいち良く分からない。この件に関しては宿泊業についてのカスハラへの国の対応だが、今後すべての業種でそのような取り決めが行われるのだろうか。私たちは普通にレストランに食べに行くのも、電車に乗るのも、全ての厚労省のカスハラマニュアルを読んでから、行かないといけないようなとほうもない状況に放り込まれるのか。

カスタマーハラスメントで訴えられるとこのような罪状がつく可能性がある。

脅迫罪
強要罪
威力業務妨害罪
恐喝罪
不退去罪

恐ろしい。宿に泊まるだけでも状況によっては以上の罪状で訴えられる可能性があるのである。これじゃ気が休まらないのではないか。酒も慎重に節操を守って理性が保てる範囲で飲まなければ警察行きなのだ。酒が人間の気を大きくするのは周知の事実だ。しかし酒で儲けてるのは誰か?

カスハラという言葉がひとり歩きしているように思える。カスハラを厚労省もマスコミもそれがなんなのかはっきりと明言出来ないまま世間に浸透させている気がする。善良なサービスの受け手はサービスに金を支払っているだけで十分だと思うが、それ以上に提供者側に愛想よく、尊敬し、我慢をし、気を使わないとならないような空気が社会に醸成されているような気がする。本来居心地良く過ごすために金を払っているのにこれでは本末転倒である。

果たしてNHK職員は、ある日突然退職を勧告され、次の日には結婚相手に離婚を告げられたあとに意気消沈して向かったレストランで一時間待たされた挙句、出てきた料理が注文した料理と違った瞬間、ウェイターに威圧的な態度で暴言を吐くことはないのだろうか。その妥当性は神のみぞ知る。




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