ショートショート/フライドポテトとコーラLサイズ
自動化されたファストフード店のカウンターで、年配の男性が立ち往生していた。タッチパネルの操作は複雑で、しきりに頭を悩ませている。ついに後ろに立っていた高校生男子2人が助け舟を出した。男性は礼を言ってわきに寄り、注文したものを待った。
高校生男子たちはポテトLとコーラL、チーズバーガーを注文すると窓際の席に座った。通りは自動運転のハイブリッド車が行き交い、夕闇の中に街の夜景が映えていた。食べようとすると、先程の男性が声をかけてきた。
「君たち、さっきはありがとうね。いやー、おじさんこういうタイプの店は初めてでね。助かったよ。これ、食べなさい。」
高校生2人はいいですよ、とは言ったが結局おじさんに押し切られてポテトLをもう一袋ゲットした。坊主頭の男子がポテトの袋をガシャガシャと振った。
「今日はツイてるな!」
「だな!こういうのが人生のささやかな幸せってやつなのかな。」
眼鏡の男子はコーラLにストローをぶっ刺した。それは真っ直ぐに刺さった。
「でもさー、世の中もどんどん変わっていくよね。ぼくも若者だけどさー、タッチパネルのファストフードなんて前はなかったし。変化早すぎて便利なのか不便なのかもはや謎だよ。」
坊主頭の方はポテトをほうばりながらうなづく。
「あー、さっきのおじさんな。これからなんでも機械化されて自動化されていくのかな。ちょっと怖いよな。」
「ねー、そのうちAIが世界を支配するのかな。」
「そうはならないと俺は思うぞ。あれ、前に話したっけ?俺の叔父さんが囲碁の棋士なんだよ。俺は囲碁わかんないんだけどさ。
最近ニュースになっただろ、AIがプロの棋士に勝ったやつ。」
「あー、聞いたことある。やっぱりAIってなんでもできるんだね。もう、人間必要ないじゃん。」
「おいおい、人間必要ないってパワーワードだな。
それがよー、そうでもないんだぜ。対局の場面がめっちゃシュールでさ、パソコン持った技術者みたいな人が横でいろいろ調整してる中、棋士の人は1人で盤面に向かうって感じなんだよ。AIも調子悪くて、しょっちゅうバグの修正やら、やってるらしい。」
「えー、なんだよそれ。技術者がいないと勝負にならないってこと?なんかダサいな。」
「そうだよ。うけるだろ。技術者プラスAIのチームと、プロの棋士って構図だ。」
「えー、それ、カンニングみたいだな。プロの棋士は攻略本とか見たりしないでぶっつけで打つけど、AIチームの方は機械の中で演算しまくっているわけでしょ?」
「カンニング!あはは、プロの対局でか!面白いな。
んー、だからよー、人間はそんな簡単に不要になったりはしないぜ。それに、必要とか不要とか、そういう概念を人間に押し付けるのは違うんだなー。それ言い出したらしょうがい者とか老人とかも不要になってしまうだろ。ありのままで人間はいいんだよ。」
「おお、なんか深いな。ぼくは君のそういうところ、めっちゃ尊敬するわ。
でもさー、ちゃんと授業には出ろよー!」
「お!ほめたと思ったらいきなり痛いところついてきやがって。ちょっとサボり過ぎて単位やばくなってきたしな。」
やがて高校生2人はトレーを片付けると店を後にした。1週間後、再びこのファストフード店へ高校生がおとづれた。
「いらっしゃいませー!ご注文お伺いします!」
「あれ?自動じゃなくなってる!?」
張り紙がしてあった。
“自動レジは○月○日をもちまして廃止いたしました。多数のお客様からのご指摘、また従業員からの声も強く上がっておりました。これからも人間のクルーと共に、当店をよろしくお願いいたします。”
その時、年配の男性が駆け寄ってきてカウンターの中のお兄さんに声をかけた。
「おー!あんちゃん、しばらく見なかったからやめたのかと思ったぞ。」
「あー、佐々木さん!1週間くらい移動になって別の店で働いてましたよ。ここに戻ってこれて良かったです。」
年配の男性は顔をほころばせる。高校生2人は顔を見合わせた。前に来た時にタッチパネルで難儀してた人。
「よーし!今日はコーラLとポテトLで!」
「え、佐々木さん、炭酸苦手じゃなかったですか?」
「コーラはそこの高校生に!」
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