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ミスター•ビーンズを知っていますか?

イギリスのコメディアン🇬🇧、ではなくミスター•ビーン“ズ“で複数形です。先日、北海道の十勝を旅行中に立ち寄ったのがビーンズ氏の邸宅です。ビーンズ氏は豆をこよなく愛する架空の人物です。架空なのかい!
名前からして“出落ち感”のある脱力系のこの建物は元々、旧馬鈴薯原原種農場の事務所で、1952年に建てられました。旧馬鈴薯原原種農場は現在の、種苗管理センターで、主要な業務に栽培試験、種苗検査、品種保護対策、種苗生産、遺伝資源の保存があります。重要な役目を担ってきたのですね。オヤジギャグ的なネーミングセンスとは裏腹に、おしゃれな洋風の外観は目を引きます。

ビーンズ邸のホームページ

なぜそこに立ち寄ったかというと、豆に興味があるからです。豆の資料館ですもの当然でしょう。遡ること8年前、学生の私は東京や京都を旅行しておりまして、不思議に思ったことがありました。京都の錦市場や東京の築地にある商品がすごく高額で売られているんです。それが豆です。産地を見ればほぼ全て北海道産。しかし私は色とりどりの豆を北海道で見たこともなかったし馴染みも全くなかったのです。豆は大豆くらいしか知らなかった。

しかし後で分かったのは、大豆こそ豆界の例外中の例外。かなり特殊な豆であるということ。豆の多くは芋と同じようにデンプンが含まれています。そのため、煮込み料理や、砂糖と混ぜて和菓子などの原料となります。豆のほとんどはホクホクした食感ですね。ところが大豆はというとタンパク質を多く含んでいて豆腐や醤油、味噌の原料になります。そのままでは消化に悪いので、加工して使うんです。

さて、全ての豆類の共通点としては加工にちょっとコツが要ること。だからあまりスーパーで売られていないんです。本当はもっともっといろんな種類の豆があるのに、小豆と大豆くらいしか置いてないんです。

豆を料理する上でのポイントは水につけてふやかす工程です。豆そのままを煮ても硬くて食べてもお腹を壊します。水でふやかして煮て始めて食べられるのですが、ここで問題が。豆は種ですので生きています。適度に空気にふれて、暖かくて水につかる場所に放置すると、もやしのようになって発芽しようとします。だから発芽しないように冷蔵庫のような場所で完全に水に浸るような状態で保管します。水を吸うと2倍から3倍近くに膨れます。

それで初めて料理に使えます。ちょっと手間ですけど、水につけておくだけなので、水を多めにして豆が浸るように、膨張しても水につかっている状態を保つ、というコツさえ掴めばそれほど苦ではありません。膨張することを見越して水を多めに張っておくんですね。

さて、その豆でありますが、和菓子とは切っても切れない重要なアイテム。北海道から東京、京都へ輸出されていくわけですが、北海道では見たことも聞いたこともない。その理由は文化です。歴史を紐解いてみましょう。

時を遡ること、江戸の終わり、明治の始まり。200年近く続いた江戸幕府は終わりを告げ、侍女たちや、大名の腰元達が城を離れて街で暮らすようになりました。彼女達はあるスキルを持っていました。それは上方文化です。かみがたのぶんか。礼儀作法や茶の湯、着付けなど、大名のそばにいる人しか知らないような文化です。当時、商人達が力をつけていて、武士が没落していくのとは裏腹に、武士や貴族の世界に憧れを抱いていました。ちゃんとした家柄や身分が欲しかったんです。それで上方文化を学んで教養をつけて、世間からの信頼を勝ち取ろうとしました。商いの世界は信用が命。教養のある人というだけで周囲の反応も違ったでしょう。

そういうわけで武士の多かった東京、商人や貴族の多かった京都は茶の湯や和菓子の文化が浸透したのでした。一方の北海道はまだアイヌの地。全国から集まった開拓者達が汗水流して極寒の地で水田を作るという無謀な挑戦に明け暮れ、マラリアや飢餓と闘っていました。こうして家を継げない末っ子、借金を抱えて逃げてきた人、あるいはまだ見ぬ大地に憧れを抱いた冒険者達の子孫が北海道の地を食料自給率日本一に変えました。北海道米がブランド化されたのは最近のことです。

で、北海道に豆作が定着した要因は,①豆類が北海道の気候,特に内陸的気候に適する②労力が少なくて済み,大規模栽培ができる③少ない肥料で栽培でき,地力を消耗しない④貯蔵や運搬が容易で商品として優れるなど,いくつか考えられるそうです。

ところが、北海道には東京や京都ほどには上方文化がほとんど存在しませんでした。専ら原料生産の地として日本列島の最北に鎮座しおります。

そういうわけでして、豆の生産地に住んでいて豆の使い道を知らなかったという私は、現在豆の勉強中。

和菓子も作ってみました。

桃山という和菓子を作ってみた

白花豆から白餡を作り、それに卵の黄身と米粉を混ぜて生地を作る。その生地で小豆餡を包んだらミリンをかけて焼いて完成。もちろん小豆の餡も1から作りましたよ。味はあといっぽ。生地と餡のバランスの調整が必要です。作る前にしっかり味見をして、砂糖を加えたり餡の水気を飛ばしたりするべきでした。それ以外はうまいった。豆のおいしさが引き立ちます。

和菓子は西洋菓子とは違い、素材の味を引き出そうとする傾向が強いように思います。また、豆を使った生地が多いため、成形が容易です。ホクホクの生地だからこそ形が整えやすく華やかな見た目や形のものが作れるのです。

でも口に入れば一緒でしょ、と言われればそうですけど、それやったら北海道が豆の輸出大国になることもなかったのかも知れへんのですよ?

豆への挑戦はまだまだ続きます。




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