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【書評】胸を揺さぶる貧困ミステリー〜『希望が死んだ夜に』(天祢涼)

初めて読む作家さんでしたが、これは胸にずっしりと来ました。2019年の本屋大賞発掘部門にもノミネートされたそうです。確かにこれは埋もれるのがもったいない作品です。天祢涼さんの『希望が死んだ夜に』

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1、内容・あらすじ

舞台は神奈川県川崎市。14歳の女子中学生・冬野ネガが、同級生の春日井のぞみを殺害した容疑で逮捕されました。

ネガはぶっきらぼうに犯行そのものは認めますが、動機については「黙秘します」と、一切語りません。彼女が言ったのはただ一つ。

「わかんないよ。あんたたちにはわかんない。なにがわかんないかもわかんない」

勾留期限は48時間。それを過ぎると、厳しいと評判の検事によって起訴される可能性大。捜査一課の真壁と生活安全課の仲田は捜査を始めます。

捜査が進むにつれ、二人の少女の意外な「事情」が浮かび上がってきます。その「事情」によって二人の刑事は仮説を組み立てますが、最後に事件は思わぬ展開を見せます──。

2、私の感想

キーワードは紛れもなく「貧困」です。先日書評を書きましたが「毒親」もからんでいます。

二人の少女の姿がなんともいたましくていじらしくて、胸を揺さぶられます……。

現代日本が抱える闇が、二人の少女を通して描き出されます。「生活保護バッシング」や「水際作戦」などの、記憶に新しい単語も出てきます。

それでも二人は懸命に希望を見つけていくのですが、せっかく生まれた希望が……。『希望が死んだ夜に』のタイトルの意味は後半になってわかりますが、とても重いです。

それでも結末はまだしも救いがあったかな、と私は思いました。賛否の分かれるところかもしれません。ネガにはなんとしても今の状況から抜け出して、また希望を掴んでほしいと思いながら本を閉じました。

「努力すらできない環境におかれている人もいる」この日本で、希望はどこにあるのだろうか、と考えました。政治もちっとも頼りになりそうにありませんし。

3、こんな人にオススメ

・貧困に関心のある人
貧困問題を取り上げることへの問題提起も描かれています。

・良質なミステリーを読みたい人
ミステリーとしてもよくできています。「それも伏線だったのか!」と驚く部分も。

・新しい作家さんを開拓したい人
まさに発掘、掘り出し物だと思いました。他の作品も読んでみたくなりました。



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