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帰り ビール レジ

職場からの帰り。
19時ともなると、この頃はもうすっかりと夜に暮れて、駅前のネオンが煌々と明るい。
流行り病の緊急事態宣言、蔓延防止なんちゃらも解けて、街に人が戻ってきているようだ。
そんな中を、絵の素材になりそうな風景をスマホのカメラに収めながら、いつものように歩いている。

ついこの前、スマホでパシャパシャやってると高校生のグループが「見て、あのオジサンやたらなんか撮ってる」みたいな感じで、一斉に僕に向けて疑わしさに満ちた眼差しを投げてきた。
こういうとき、コソコソするといけない。
むしろ堂々とした態度で「我、絵描きなり!素材収集なう!」と、覇気を出して彼らに一瞥を投げたところ、高校生たちは皆一様に僕から目を逸らして、駅ビルに続く階段に消えた。
シンプルにキモかったのかもしれない。

さて、家路の途中にある家電量販店の「お酒コーナー」に、週3.4回くらいのペースで寄っている。毎回エビスビール500ml缶を1本。たまにプレミアムモルツだったりするけど、1本だけレジに持っていく。
毎度同じような時間に現れる、500ml缶1本だけの買い物客である僕のことを、レジ担当の年齢50代と思しき男性も、もはや覚えてくれているようだ。
なぜなら、最近初めて「ポイントカード大丈夫ですよね?」と言われたから。

それ以前までは、「ポイントカードはありますか?」だったのに、毎回「カード無いです」と返す僕に対して、(あ、この人カード持ってないし作る気もないな)と、なおかつ僕の顔も覚えたのだろう。
「ポイントカード大丈夫ですよね?」に声かけが変わった。
それに加えて、「すみません、これ捨てといてください」と、いつもレシートを返す僕に、今では何も言わなくても渡さなくなった。

思った。
「いや常連やないかいワシ」と。
これはもう完全に馴染みの常連さんやないかい。家電量販店の酒コーナーの、と。
それでいて、世間話などで距離を詰めてこようとしない、レジの50代と思しき男性の接客が僕にはちょうど良かったりする。

「テープでいいですね?」と、お買い上げシールを缶のバーコードのところに貼って、僕に渡す。
それを僕はいつも通り、「ありがとうございます」と告げ、リュックのサイドポケットに突っ込む。

この一連の流れ。客とレジ担当者としてのお互いの振る舞いに、一切の無駄がなくまさに阿吽の呼吸であった。
見る人が見れば「なんて美しいんだ…」とため息を漏らしたかもしれない。

家までの残りの帰り道。うかうかしてたらせっかくのビールがぬるくなる。急ごう。

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