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ファンが出来ました
先日バイト先の人の送別会があった。
俺を合わせてアルバイト4人と、その人と仲のいい常連さん1人(以下Kさんとする。Kさんはとても明るい30代前半の男性)でのささやかな送別会だった。
俺は今のバイトを始めて2ヵ月程しか経っておらず、正直その場にいる人達とそこまで関係性は深くないのだが、お酒の力も借りてその場を楽しんだ。開始が少し遅かったこともあって、結局その送別会は朝まで続いた。
外も明るくなり店も閉まる時間になったのでみんなで店を出て、外で少し立ち話をしていると、Kさんがいきなり路上で眠りだしてしまった。店を出る1時間くらい前にテキーラをショットグラスで何杯か一気飲みしていたので、その酔いが回って来たんだろう。
「Kさん起きて、朝飯食べに行こ」
「Kさんここ思いっきり車道だよ」
とみんなでKさんを起こそうとしたが、起きない。しばらく続けていたらKさんが起き上がろうとしだした。
しかし「ん~」と唸った後、Kさんはゆっくりと少しゲロを吐いて、また眠ってしまった。人がゆっくりとゲロを吐く姿を見るのってなんか新鮮。
とりあえずコンビニで水を買いKさんのゲロを流し、車道で寝ていては危ないので歩道までKさんを運んだ。
Kさんは放っておいて朝飯を食べて帰ろうという流れになったのだが、俺は何となく放っておけなかったので残ってもう少しKさんを見ておくことにした。
コンビニでおにぎりとジュースを買って、朝方の池袋の街並みと横たわっているKさんを眺めた。さっきのアルバイト達の反応を見るに、東京ではこんなことは日常茶飯事なんやろうか。東京全域で朝方酔っぱらって倒れてる人達を数えたら何人くらいになるんやろうか。
そんなことを考えていると、知らない人に話しかけられた。
「いやすごいことなってんなw」
話しかけてきた男は色白、坊主頭でメガネをかけており、身長はおそらく175cmくらい。年齢は20代後半から30代前半くらいだろうか。イントネーションが関西弁っぽい感じで、それもあってなんとなく芸人のみなみかわさんに似ているなと思った。
「そうっすね。ちょっと昨日飲みすぎちゃって」
「こらもうたぶんアカンで」
このご時世にこんな酔っ払いに話しかけてくるなんて物好きな人だなと思いながら世間話を続けていると、なんだか変なことを言い出した。
「てか兄ちゃんスマホ持ってる?」
「持ってますけど」
「ちょっと調べてほしい事があんねんけど、『脅迫罪』って調べてくれへん?」
「え、『脅迫罪』ですか?ちょっと待ってください」
いきなり何を言い出すんやろうか。と思ったが俺はスマホで『脅迫罪』と調べて検索結果を関西弁坊主メガネ兄さんに見せた。
「ん~なるほどな。じゃあ次は『暴行罪未遂』で調べてくれる?」
俺はスマホで『暴行罪未遂』と調べて検索結果を関西弁坊主メガネ兄さんに見せた。
「あ~『暴行罪未遂』なんて罪は無いんか。なるほどな」
こんな感じのやり取りがあと2~3回くらい続いた。
「何かあったんですか?」
と聞くと関西弁坊主メガネ兄さんはなんだか少し嬉しそうに事情を説明しだした。
「いや俺な、地下アイドルに推してる子がおったんやけどな。その子が実際に会ってる時とネット上で言ってることが違いすぎんねんな」
「実際に会ってる時は、来てくれてありがとう、すごい嬉しい、やら言ってくれんのにTwitterでは俺のことをストーカーやとか言ってて、あまりにも違いすぎるから」
「昨日ちょっとやってもうたんよ」
やってもうた・・・?
俺も少し酔っぱらっていたし眠かったから若干記憶は曖昧だけど、とにかく推してた地下アイドルの子に、Twitterでストーカー等と言われてるのを見かけてしまった?かなんかで腹が立ってその子に脅迫罪とか暴行未遂罪っぽいことをやってしまった。らしい。
関西弁坊主メガネ兄さんはまあまあヤバい人だった。
「暴行未遂罪」、「脅迫罪」?とか言ってるってことは、一応手は出してないって事なんやろうか。
その後も関西弁坊主メガネ兄さんは居座ってひたすら話をしてきた。朝6時なのにすごい元気だった。
俺が芸人を目指して上京してきたことを言ったら、お笑いの指導的なこともしてくれた。内容はあんまり覚えてないけど。
しばらく話していたが、疲れてきた。元気な時ならいいのだが俺は朝まで飲んでもう疲れていたし眠かった。もう正直帰って欲しかった。俺が帰ってもよかったんやけど、この人とKさんを2人で放っておくのはちょっと不安だった。
「そろそろ始発きてるんじゃないですか?」
等となんとなく帰ってもらえるように促したが
「ええねん。俺こっちに住むところないねん。実家京都で、もう全て捨ててこっち来てんねん。ぶっちゃけもう色々どうでもええねん」
と言って帰ろうとしなかった。
もう完全にヤバい人やん・・・無敵の人やん・・・。
なんか色々考えるのがめんどくさくなった俺は
「ちょっと眠くなってきましたわ」
と言ってKさんの横で寝ることにした。関西弁坊主メガネ兄さんも話相手がいなくなったら帰るかもしれない。
そう期待しながら池袋駅前公園で横になった。めちゃくちゃ良い天気だった。気温も朝なので丁度いい。少しゲロの匂いはしたが悪くない気分だった。
しばらく横になって目を瞑っていると、関西弁坊主メガネ兄さんも横になりだした。
「俺こんな汚い所で横になるん初めてやで、たぶんゴキブリとかも普通にいてるぞ。寝てる間に口とかに入ったら最悪やなw」
関西弁坊主メガネ兄さんは本当に全く帰る気が無いらしい。
1時間くらいKさん、俺、関西弁坊主メガネ兄さんで川の字で横になって過ごした。
俺は一体何をしてるんだ。
もういろいろ諦めて帰ることにした。
まあ関西弁坊主メガネ兄さんはヤバい人かもしれんけど、そんな悪い人ではないと思う。寝ているKさんになんかするってことはまあないだろう。
「帰りますわ」
関西弁坊主メガネ兄さんに伝えると、お礼を言われた。
「なんかありがとな。俺な、正直もう死ぬことも考えててん。縄も買ってあるしな。ほんまやで」
「でもなんか変な話、兄ちゃんがテレビ出る姿がちょっと見たくなってな。それをまあ、生き甲斐として頑張れるかもしれんわ」
「ファンになったわ。応援してるで」
拝啓 お母さん
ファンができました。
その人はもしかしたらちょっとヤバい人なのかもしれないけれど、俺の事を応援してくれると言ってくれました。
お互い名前も知らないし、もう会うことはないのかもしれないけど。
というか自首するとか言ってたし、しばらく会えないのかもしれけど
こんな俺にもファンができました。
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