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源氏物語を読みたい80代母のために 11

まだまだ続くコロナ禍ですが、一応家族ともども元気です。母のいる実家の面々もお変わりないようで何より。中々人をお呼びできない昨今、本座敷でせっせとネットショップ用の品の作業にいそしんでいるようです(今詰め合わせセットお得ですよ!)。母とはたまに電話で話すくらいしか交流できないのは残念ですが、こうして源氏物語を介して直に話す以上のものをお互い受け取っているような気はする。共通項って大事ですもんね、親子だろうが他人だろうが。

母の方もこの長い物語に大分慣れて来て、隙間時間にちょこっとずつ読む、という形に落ち着いているらしい(現在、ひかるのきみ9冊目:「藤袴」「真木柱」「梅枝」「藤裏葉」)。それで何の問題もなく理解できるし面白いと。そもそも忙しい女房さん達が合間合間に回し読みしていたものであるから、そういう読み方で正解なんだと思うよ、などと話しました。

というわけでブログ連載の方は「若菜」に突入。源氏物語中最長にして最高にドラマティックなこの上下巻。ブログ記事の方ではもう「上」は終わって「下」に入りましたが、他の巻と明らかに違うと感じたのはまずこれ。

とても小説っぽい!!!

いや、今までも小説やろ……なんですが、何と言いますか、ここまでに書いてきた人物とそのエピソードが積み上がり組みあがって、いきなり段違いにレベルが上がった感が。各エピソードがキレイに区分けされ、登場人物一人一人の心情が美しい情景の中で丁寧に表現されている。今まで、特にいわゆる上つ方の人々の内面は、あくまで外から、女房側からの観点で書いていたように思うんですよね。それがこの「若菜」では一気に踏み込んだ!と私には感じられました。

特に、メインの登場人物以外の、明石の君・女三の宮・柏木の三人の描写が秀逸。明石の君は「いち妻」から「桐壺を取り仕切るやり手女房」にクラスチェンジし、個人的には、紫式部自身の内面が最も色濃く出ているキャラのような気がしています。女三の宮は、一見常陸宮の姫君(末摘花)に似ているものの、およそ自我というものを感じさせない空っぽさはこれまでにない異質さ。こういう人って現代でもいるでしょうけど、案外書くの難しいんじゃないかなあ。書き手としての技術も凄く上がったってことなんでしょうね。

そして柏木。プライド高く、繊細で思い込みの激しい二十代のボンボン、というキャラが立っている。心理描写も微に入り細に穿って素晴らしいです。「若菜上」で、柏木と夕霧が女三の宮を偶然垣間見るシーンがあるんですが、これが六条院での蹴鞠大会?中なんですよね。蹴鞠って、何となくリフティングしながらの円陣パスみたいなのどかなイメージだったんですが、全然そんなことはなかった。超激しい。まごうかたなきスポーツ。

こんな感じで若手の公達がガシガシ蹴り上げてたらそりゃあ盛り上がること間違いないですね。女子はキャーキャー言いそう。特に柏木は凄く上手くて、源氏に「君の父上にも、蹴鞠だけはとても敵わなかったんだよね。血筋かなあ。この際家伝に載せておきなよ!」と褒めちぎられる。これは冗談ですが、実際得意な人たちはいたらしく、後年に「蹴鞠道」として完成・独占的家業として伝えられたとあります(「コトバンク」より)。

主人公は確かにヒカル(源氏)に間違いはないんですけど、脇に控えるこれらの濃いキャラたちによって、物語が更に重層的に、リアリティを以て展開していきます。何を読まずともこの段「若菜」だけは読め!というのは「光る源氏の物語」での大野晋さんだったか丸谷才一さんだったか。それほどの巻なんですね。

この先どういうストーリーになっていくか全部承知していても、何だかドキドキします。あまりにも人物の生身感が強くて、面白すぎて読み進むのが勿体ないような、早く書いてしまいたいような。複雑な思いです。

とりま現在、「ひかるのきみ」壱・弐・参【電子書籍】は

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連載はこちら➡「もの書く日々」カテゴリ「ひかるのきみ」。現在「若菜下」に入っています。本や映画のレビュー、夢日記なども書いておりますのでよろしければ暇潰しにでも。​



「文字として何かを残していくこと」の意味を考えつつ日々書いています。