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大河「光る君へ」(9)遠くの国

 本来ならば今週、新幹線開通直前の福井に乗り込み大河館や本興寺の梅など観に行くつもりだったワタクシでしたが、何と今更!ほぼ一家まるごと疫病コロナに見舞われてしまいあえなく中止を余儀なくされますた……くうう(タイトル画像は去年の水戸偕楽園の梅)。
 仕方ない、お家で大河ドラマ楽しみましょ♡と気を取り直したところがこの始末ですよ。人の心はないんかぁひな祭りなのにおおおーん。
※「源氏物語を読みたい80代母」のための企画です。最終回までこの形式で続ける所存。思いっきりネタバレ全開なのでご注意くださいまし。
お喋り役の平安女房ズは以下:
右近(右)、侍従(侍)、王命婦(王)、少納言(少)

侍「右近……ちゃん……?」
 しーん。
少「大丈夫でしょうか右近さん……」
王「大丈夫じゃないでしょうね。まさかわずか九回目にして推しがいなくなるなんて」
侍「捕まったまひろちゃんを道長くんが速攻綱を切って助けたり、二人でお馬に相乗りしたり、少女漫画的キュン♡なシーンがてんこ盛りのはずなのに……あんな形でまひろちゃんが道長くんを抱きしめることになるなんてえええうわあああああん」
少「本当に……最後の道長さまのあの表情、胸が潰れましたわ」
王「なかなかキツい状況ね。道長くんとしたら検非違使けびいしのおっちゃんに袖の下渡してよしカンペキ!って思ったんだろうけど、始めから明らかにやな感じだったものね」
少「検非違使といえば、以前直秀さまと間違えて道長さまを捕まえてしまったことありましたよね。散楽のメンバーを殺したのは、その時直秀さまに巻かれてしまった放免(検非違使の下級役人)の人達らしいです」
美術館ナビ:【光る君へ】第9回「遠くの国」回想① 直秀役・毎熊克哉さんにインタビュー 「泥を握る最期、道長にバトンを渡す、という思いを込めた」より
侍「ええぇ……」
王「そういうことか。あの時、道長くん自身はイイヨイイヨで終わったけど、向こうは上から下までそれなりに叱責されただろうし、何よりメンツ潰された感大きかったでしょうね。容疑者を取り逃がしたばかりか事もあろうに右大臣の御子息を縛り上げちゃった間抜け検非違使、の体になったわけだから」
少「その上やっと現行犯で捕えた盗賊を、あろうことか当の御子息が『手荒なことをするな』と賄賂つきで庇い立て……」
王「まあ普通にハア?よね。どういう罰がどういう手続きで下されるのかも知らないボンボンの若造がえっらそうに何言ってんの?今までどんだけコッチが苦労して追いかけて来たかわかってる?右大臣家の威光を笠に着ちゃって越権行為してんじゃねえこちとらプロなんじゃ舐めんな!ってなってもおかしくない」
少「しかもまひろちゃんは即座に縄を切って助けて、詮議もさせない。自分の知り合いだからと」
王「その瞬間に散楽メンバーの運命は決まったのよね。ああなるほど、この娘を助けたかったってコト?理解理解。で、あとの七人は?この人数だと遠流も面倒なんですけど?まったく世間知らずのボンボンはこれだから困る。とにかく『手荒に』しなきゃエエんやろ(名案)……で鳥辺野行き」
侍「ちょ、ちょっと待って……アレって要は道長くんへの嫌がらせってこと?!酷くない?!」
王「酷いけど、何より原因は道長くん自身の甘さよ。父親の恐ろしさは知ってても、世の中の権力構造の実態をまるでわかってなかった。下々の者を『虫けら』とみなす価値観は何も道兼さまだけじゃない。まして検非違使という職務につく面々で相手は『虫けら』以下の罪人ども、意趣返しだの単にムカついたからだのという些細な理由で、いとも簡単に命を奪っても何ら良心は痛まない」
少「ただ、わざわざ違う出発時間を道長さまのお耳に入れたのは……完全に意図的な嫌がらせですわね」
王「そうね。それも兼家さまならば必ず裏を取ったはず。人の悪意というものを知り尽くしているお方だから。道長くんはピュアすぎた。あまりにも残酷すぎるこの教訓で、今後大きく変わっていくんでしょう。変わらざるをえない」
少「兼家さまといえば、遂にごきょうだい全員に種明かしされましたね。今上帝を退位させるための陰謀に加担せよと。この先が明るい陽のあたるような道とは到底思えませんわ……道兼さまの、
『俺は皆より先に知っていた!とっくに父のために働いていた!』
 という得意げなお顔、痛々しくて見ていられませんでした」
侍「うわあああああん何でようううう先のことなんて知らないよおおお悲しいよおおおおお」
 しーん。
王「右近ちゃん、元気出してね。来週待ってる」
少「どなたもお気の毒すぎて辛いですわ……」

 いやいやいや……参った。大河「鎌倉殿の13人」で突然の無慈悲展開は慣れていたはずで、直秀が早死にしそうというのもわかってはいたのですが、まさかこう来るとは。しかもまひろと道長が二人で散楽メンバーズを手ずから埋めるという、現代ものではまずありえないシーン(いや平安ものでもありえん)。
 直秀に扇を持たせてやりその顔がついに土に隠れる。まひろの着物の汚れを払う道長。すべてが終わりいよいよ現実を直視せざるを得なくなった瞬間からの慟哭は鳥肌ものでした。まさに魂の叫び。
 まひろが道長に比べて冷静にみえるのは、母の非業の死を間近で目撃したからに他なりません。自分のせいで母が殺されたと長く思いつめていたまひろだからこそ、今の道長の心持ちが痛いほどに理解できる。いやもうこれ、色恋だけじゃ全然無理ですよね重すぎて。二人で共有する現実がコレって。いったいどんな「絆」でソウルメイトになるんだ。
 そして
「世を正す」
 というキーワード。道長は政治権力を以て、まひろは物語世界を以て、同じ目的に向かって突き進むということでしょうか。
 Twitter(x)では「夕顔」巻との類似が話題に上っていましたが、この出来事が二人の大きなターニングポイント及び「子供時代の終わり」とするとむしろ
澪標みおつくし」巻
 ではないかと感じました。須磨明石での蟄居生活から晴れて帰京した光源氏が、本格的に政界に乗り出していくこの巻。「澪標」はみおじるし、とも読む、通行する船に水脈や水深を知らせるために目印として立てる杭のことです(ひかるのきみ「澪標」(一)より)。
 まひろと道長は同じ船には乗れない。ただ同じ澪標を見つつ同じ行先を目指す。
 光源氏と同じく、誰かに庇護される立場から完全に抜け出し、孤独で厳しい旅への一歩を踏み出した、ということなのかもしれません。政治の道も、創作の道も、どちらも生半可ではないですもんね
 いやー過酷だ。実際の平安時代とはかけ離れた、まごうかたなき令和のドラマなのに、「源氏物語」の展開とピタリ嵌っていく感じはそら恐ろしいほど。原作そのものの圧倒的な力も思い知る。紫式部パイセンはやっぱ天才だわ。
 それにしても直秀の隠し子どっかにいないかなあ。何十年かして初瀬参りでまひろと鉢合わせ、道長の養子に。なんていう「玉鬘十帖」バリの展開を望む。強く望む。うわああああん。来週までには……心身ともに回復します多分(余計打ちのめされたりして)。
<つづく>

「文字として何かを残していくこと」の意味を考えつつ日々書いています。