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AIとWeb3はコミュニケーションに何をもたらすか?Web3の社内勉強会を実施しました

こんにちは!Money Forward Labの川上(うぇるだん)です。

Money Forward Lab(以下Lab)とは、Money ForwardのValueの一つでもある、「Technology Driven」を体現し、さらなるデータの可能性を追求するために設立された、社内研究組織です。

Labの研究領域

現在Labでは、「Autonomous Backoffice」というスローガンを掲げ、バックオフィスの自律化・企業や個人のお金についての悩みを減らすことを目的に、各種サービスに応用できる基礎技術やデータ分析をメインテーマとして日々研究を行っています。
研究の性質上、AI・機械学習を扱うことも多いのですが、その他の技術領域にも積極的にアンテナを張っています。
そんな中で、先日、Labの技術アドバイザーとして、貞光 九月(さだみつ くがつ)さんに参画いただきました。

貞光さんは、自然言語処理(NLP, Nutural Languege Procesing)の研究者で、前職、フューチャー株式会社ではCAIO(Chief AI Officer)を勤めた、技術とビジネス双方に豊富な経験を持った方です。また、現在はご自身で立ち上げた株式会社VAIABLEにて、AIとWeb3をメインテーマに、Web3型のクラウドファンディングサービスNFTマーケットプレイスを運営しています。

貞光九月さん(Copyright VAIABLE Inc. 2022)

Web3型のクラウドファンディングサービス:VAI!UP

さて、皆さん、もう先がよめたのではないでしょうか。
Labでは不定期に社内向けの勉強会を開催しており、先日の勉強会で貞光さんに、Web3とAIの組み合わせがこれからどんどん面白くなってくるのではないか?という視点から、近年在り方を変えつつある「コミュニケーション」において、AIとWeb3がどのように貢献していくのかを、お話いただきました。
早速、その内容を少しだけご紹介していきます。

AIとWeb3はどんな関係にあるのか

近年、AIチャットbotや機械翻訳、自動車の自動運転、需要予測やマーケティング支援AIなど、AIを活用したサービスは私たちの身の回りで多く展開されるようになり、一般的によく知られる技術となりましたが、Web3については聞いたことはあるがよくわからないという人も少なくないと思います。

話を進める前に一言で簡潔に説明すると、Web3とは「ブロックチェーン技術を用い、データを特定の管理者ではなく個人によって分散管理できるようにした新しいWebの概念」です。
後半でも説明しますが、この新しい仕組みによって、インターネットの世界に新しい価値が生まれてきています。
このように、AIとWeb3はどちらも、わたしたちの生活を大きく変えていくテクノロジーとして近年注目を集めていますが、これらを組み合わせるとさらに面白いことが起こるんだそうです。
一体どんな世界が描けるのでしょうか?

まずは、AIとWeb3それぞれの発展の歴史から、両者の関係性を概観してみます。

AIとWeb3の発展において、共通して重要な役割を果たしたものに「Web2.0」があります。
Web2.0とは、2005年にTim O'Reillyによって提唱された表現で、従来Web上で提供されてきた「送り手から受け手への一方的なサービスやユーザー体験」とは異なり、「誰もが情報の受発信ができるよう変化したユーザー体験」を提供するという、今となれば当たり前となったWebの姿です。

AIは、Web2.0により急激に増加したデータに支えられる形でプラットフォーマーを中心に発展してきました。
一方で、Web3はプラットフォーマーへの資産の集中へのアンチテーゼとして生まれました。AIとWeb3は、双方ともWeb2.0を背景に発展してきた部分がありますが、お互いのWeb2.0に対する立場は正反対だといえます。

では、今回の主題である「コミュニケーション」に対する双方の役割としてはどのような関係性にあるのでしょうか。

Web3におけるコミュニケーション

Web3はここ数年大きな盛り上がりをみせる反面、様々な事件が発生したことや、複雑で理解するのが難しいということから、「よくわからない、怖い」と感じる人も多いのが現状のようです。

しかし、貞光さんは、
「Web3は、“脅威(threat)“ではなく“共意(sympathy)“を生み出すもの」だと言います。

Web3は、“脅威“ではなく“共意“を生み出すもの (Copyright VAIABLE Inc. 2022)

例えば、社会課題に取り組むone issue型の組織は、その性質から”共意”(有・感 + 志・識)を生み出しやすく、また組織規模が小さく機動性が高いという特徴から、Web3とフィットしやすいといえます。例えば、NPOやベンチャー企業、社内ベンチャーなどが該当します。講義の中では、以下の実例があげられました。

【例1】STEPN(ステップン)
NFTのスニーカーを購入し、ウォーキングをしたり走ったりすることで、専用のトークンを稼げるというゲーム。
「歩く・走る」などの健康志向の行動は人の本能的な欲求であるとともに、健康増進を促進し医療費の増大などの社会課題の解決につながる可能性もあります。単なるGameFiでなく、社会課題を解決しうる行動を促す仕組みをうまく取り入れたサービスです。
※GameFi:ゲームを通してトークン(暗号通貨)を獲得することで、プレイヤーが収益を上げることができるゲームのジャンル。

【例2】Savanna Kidz NFT
NFTを活用したオープンタウンプロジェクト。このプロジェクトでは、NFT購入者のDAOコミュニティと、支援する地域に住む現地住民によって組織される市民団体とが協力し、NFTの売り上げを元に、その地域に住む人々がより良い生活を送るための街づくりを推進する取り組みを行います。例えば、自分たちでどこに何を作るかを決める、リアル版シムシティのような取り組みです。
どちらも、わかりやすい目標や課題解決に取り組むことで、多くのコミュニティ参加者を獲得しています。

ところでWeb3ってなんなんだっけ?

ここまで、とくに解説せずWeb3やDAOという言葉を使ってきましたが、これらはいったいどのようなものなのでしょうか?簡単に説明しておきたいと思います。
先ほど説明したように、Web2.0まではデータ(情報)の送信者・受信者が双方向にやりとりできるようになった、いわゆる「情報」が流通するWebの世界をさしています。これに対して、Web3では情報だけでなく「価値」の流通が可能です。暗号資産やNFTのアート作品などが代表例です。

DAOとは?

DAO(ダオ)とは、Decentralized Autonomous Organizationの略です。日本語で言うと分散型自律組織となります。その名の通りコミュニティの一種で、意思決定をブロックチェーン上で実施することができます。例えば、株式会社における株式のように、その人の意思決定のバリュー(重要度)をうまく定義できれば、それを元にブロックチェーン上で意思決定が可能となります。
勉強会の中で紹介されたDAOの事例がとても面白かったので、いくつかわたしからも紹介します。

【事例1】アイドル×DAO
近年事例を増やしつつあるNFTアイドル。日本発のNFTアイドルとして活動する「POiNT(ポイント)」の例が取り上げられました。
バレエを新しいエンターテインメントとして発信するバレエボーカルユニットで、これまで様々なNFTの発行を通して、ファンとコミュニケーションをしてきました。例えば、ファンにトークンを配布して次の曲の雰囲気を決める投票に参加してもらったりしています。ファンとしても、アイドルをプロデュースするような感覚が得られるところが魅力です。
2022年9月には円決済可能なNFTも発売していて、ますます活発に活動しています。

【事例2】:Everipedia
オンライン百科事典「Everipedia」。WikipediaのBlockchain版をイメージしていただくと分かりやすいでしょうか。
これまでWikipediaのようなオンライン百科事典では、悪意を持った人が編集・改竄できてしまうという課題がありました。Everipediaでは編集をするためにはトークンを支払う必要があります。しかも編集内容が校閲者に低評価をつけられると、トークンを没収されてしまう仕組みになっており、悪意のある内容が書き込まれにくいようになっています。また、逆に高評価がつくと報酬が得られ、そのトークンは円やドルに変換できるので、モチベーションが高い参加者が多く集まっています。
時価総額も70億円(2022年6月時点)と、比較的うまく機能しているDAOの一つです。

DAOのもつ課題

ここまで、DAOとはなんなのか?どう活用されているのか?を紹介してきました。先進的で合理的なDAOはとても盛り上がっているように見えますが、反面、難しさもあるそうです。その一番大きなところは「コミュニティ運営が結構大変」だということ。

「分散型自律」組織とはいえ、やはりコミュニティの一種なので、そこには参加する人がいます。そのため、参加者のモチベーションを維持する仕組みも必要ですし、リーダーやファシリテータ、テクノロジーや経済に明るいAMA(Ask Me Anything)の必要性はここでも高くなってきます。結局のところ、今までのコミュニティ運営とあまり変わらないというのが実情のようです。

DAO、Web3でのコミュニケーションがより活発になっていくためには、この課題を解決することが重要です。そこで登場するのがAIです。

最近のコミュニケーションにおけるAIの役割

コミュニケーションを介在するAIといえば、自然言語処理(NLP)が真っ先に浮かびます。

自然言語処理の技術を利用して、これまで様々なコミュニケーションが形成されてきました。Siri、Alexa、Google Assistant、しゃべってコンシェルなどがその代表格です。いずれも天気を教えてくれたり、音楽をかけてくれたり、ECサイトで商品を注文してくれたり、ユーザーとの対話により、様々なサポートを行います。

勉強会の中では、ユーザーと直接コミュニケーションをとる対話型AIについてもう少し深掘りしました。対話には大きく分けて「タスク型」と「非タスク型」の2種類があります。

タスク型とは、タイマーのセットや天気を教えてくれるようなものです。非タスク型はもう少し複雑で、雑談やディベートを行います。先に例を出したアシスタントAIはタスク型の対話を得意としているものが多いです。
さて、ここからが本題です。

このようなAIはWeb3におけるコミュニケーションにおいても、重要な役割を果たすのでしょうか?

AI × Web3が実現するコミュニケーションの未来

結論から述べると、Web3がつくるこれからの新しいコミュニケーションにおいて、AIの果たす役割はとても大きいといえます。
以下に、貞光さんが勉強会で提示した2つの可能性を紹介します。

①直接的介在をするAIがWeb3でのコミュニケーションを支える

そう遠くない未来に、DAOコミュニティにおいてガイド役をする対話型AIが登場する可能性があります。いわゆるAMA-AIみたいなもので、圧倒的な知識量でコミュニティ運営をサポートします。
これによって、そのコミュニティの領域に対して知識量が十分でないメンバーが気軽かつ積極的に参加できるようになったり、コミュニティのガイドラインとして利用されることで安定した運営が行えるようになったりと、DAOにおけるコミュニティ運営の課題解決に繋がります。
AMAのようなAIはいわゆるQAを行ってくれるAIです。実現には大量のデータが必要なのですが、貞光さんからは、このデータ収集自体にもDAOが役立つのではないかというアイデアもお話がありました。

②間接的介在をするAIがWeb3でのコミュニケーションへの参加を促進する

もう一つの可能性として、コミュニケーションを間接的に仲介する、例えばコミュニケーションのきっかけとなるアートを生成するAIの活躍があげられます。既に国内でも、新潟県山古志村のように地域活性化を目指すプロジェクトにおいて、地域の名産品をNFTアートとし、それを参加証明書としてDAOを結成している事例があります。
一方のAIの技術レベルも、Stable Diffusionのように文章(prompt)から簡単に精度の高い画像を生成できるまでに高まっています。このようなAIがNFTアートの生成を容易にするなど、AIは間接的にWeb3におけるコミュニケーションを盛り上げると考えられます。

株式会社VAIABLEで取り組んでいるDAOプラットフォーム

①のような直接的介在をするAI、AMA-AIを作るためには高い技術力以外に、膨大な量のDAOデータを生み出す必要があります。そこで、株式会社VAIABLEでは「VAI!UP」という、誰でもDAOを作ることのできるクラウドファンディングサービスを展開しています。DAO作成や運営に関するサポートも受けることができ、新しいコミュニケーションの世界がますます身近になってきているように思えます!

ここまで紹介してきたように、インターネットを中心としたこれからのコミュニケーションにおいて、AI、Web3それぞれの果たす役割はとても大きいと考えられます。また、両者がその特性を利用しあうことでさらに高次元のコミュニケーションが醸成されていくことが想像できます。
近い将来、コミュニケーションにおいて両者を抜きに語ることはできなくなるのかもしれませんね。

QA

さて、勉強会では、受講者からいくつか面白い質問もいただきました。そのうちいくつかの質問と貞光さんからの回答を紹介します。

【質問1】事例で出た内容は、Web2.0でも実現できそうだけど、Web3でやらないとダメなのか?
アート作品をプラットフォーマーの介在なくNFTとして発行し、何らかの価値をもたせるためにWeb3の技術が貢献します。

さらにコミュニティ運営に重要となるトークンインセンティブなどを使いたい時はDAOが適していますし、今後、そういった場面は確実に増えてくると思います。

【質問2】ご紹介いただいたクラファンは、普通のクラファンとどう違うんですか?
例えばNPOやベンチャーがクラファンをする時、リワード(返礼品)の設計がすごく難しいんです。そのため、サンクスメールとか、講演会参加とかそういったリワード設計になってしまいがちです。もう少し、支援する側、支援される側双方にとってメリットのある形はないか。
そこにNFTがうまくマッチすると思います。支援する側、される側の両者の携わったという支援の証を、恒久的かつ客観的に残すことができますし、さらにNFTを持った人同士が支援コミュニティ=DAOを結成することもできたりするのが、Web3の魅力です。

さいごに

今後も様々なWeb3のサービスが生まれてくることが予想されます。
わたし自身、お恥ずかしいことに、今回の勉強会で紹介された事例のほとんどを知りませんでした。普段アンテナをはっているつもりで全然足りていなかったんだなあという反省と共に、Web3とAIの今後一層の盛り上がりを感じた勉強会でした(個人的にはとくにアイドルDAOに興味津々です)!

Money Forward Labでは、様々な技術を用いて、一緒にお金のメカニズムを解き明かすための研究をしてくれる仲間を募集しています。
Labの雰囲気やどんな研究者がいるかに興味がある方は、ぜひこちらのnoteもご覧ください。


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