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カンヌライオンズ2024速報 by 銀河ライター【Day5/最終日まとめ】

あっという間に最終日。もうひとつの“love the work”。グランプリ紹介に的を絞ってのカンヌライオンズ速報です。

今日は以下の5部門が発表に。

①フィルム部門
②グラス:ザ・ライオン・フォー・チェンジ部門
③サステナブル・ディべロップメント・ゴールズ部門
④グランプリ・フォー・グッド・ライオン
⑤ザ・ダン・ワイデン・タイタニウム部門

上記紹介後、末尾に「個人的雑感」として、今年気づいたことも記しておきます。まだ整理できてない状況ではありますが。

では、まずはグランプリから見ていきましょう。

※クレジットは以下の順です。

施策タイトル
企業名(ブランド)/商品名
企画+制作会社
エントリー国


フィルム部門(2グランプリ)


PLAY IT SAFE


SYDNEY OPERA HOUSE
THE MONKEYS | ACCENTURE SONG,SYDNEY+REVOLVER,SYDNEY
AUSTRALIA


「こんなヘンテコなデザインはだれからも好かれない」「予算の無駄だ」「失敗だ」ーー創建時には世論のバッシングを受けていたシドニー・オペラハウスも、いまや町のアイコンとして定着、「20世紀を代表する建築物」とまで言われるようになった。これは、その50周年を記念するミュージックビデオ。

勇敢なクリエイティブの聖地として、数々の刺激的な公演、挑戦的なイベントの舞台となってきたシドニー・オペラハウスだが、近年オーストラリアでも「保守主義」「順応主義」の勢いが増し、その存在意義が希薄になっている。

コメディアンで歌手のティム・ミンチンを主演に据えたこのMVでは、歌詞では「Play it safe(安パイを取ろうぜ)」などと皮肉なメッセージを呼びかけながら、映像のほうでは交響楽団やバレエ団、合唱団らレジデント・カンパニーが、とんがったパフォーマンスを披露している。歌と踊りの合間に建築時の記録写真や歴史的イベントのドキュメント素材もインサートされる。

「皆さんのマインドもこのオペラハウスのようであれ! もし、ここに鍵をかけるのなら、あなたは世界を締め出すことになるだろう」(エンディングの歌詞より)


WOMEN'S FOOTBALL

ORANGE
MARCEL,PARIS+PRODIGIOUS,PARIS
FRANCE

※エンタテインメント・ライオンズ・フォー・スポーツ部門に続く2つ目のGPです。解説は流用します。

フランスの女子サッカーチームは、5度目のワールドカップ(FIFA Women's World Cup)に出場した。しかし、大会の数週間前まで、どのメディアもこの大会の放映権を買おうとしていなかった。

熱狂的なサッカーファンが多いフランスで、女子サッカーが熱狂から取り残されている理由のひとつは、技術力に対する偏見だ。24年にわたりサッカーにスポンサードしてきた通信企業「オレンジ」にとって、この課題は看過できないものだった。

先入観を覆すために、オレンジは“トロイの木馬作戦”を取った。このビデオの前半パートを見た視聴者は、ムバッペ、ジルー、グリーズマンなどの華麗なプレーを見ていると思うが、実はそうではない。VFXの効果により、フランス女子チームのテクニカルな動きを“偽装”したものだ。男子選手のプレイだと思いこんでいた人々は、やがてそれが女子選手の動きだったことを知り、みずからのステレオタイプに気づくことになる。

動画は当初Xのみに公開。まず前半(男子選手に“偽装”した女子選手のテクニカルな動き)を投稿し、数時間後に全編を投稿することで種明かしをした。ツイートから1日以内に、8つの主要メディアがこのキャンペーンを取り上げ、動画はヨーロッパを皮切りに世界中に広まった。


グラス:ザ・ライオン・フォー・チェンジ部門


TRANSITION BODY LOTION

UNILEVER
OGILVY, SINGAPORE
SINGAPORE

世界初。臨床的に証明されたトランスジェンダー女性のためのスキンケア製品。

タイではトランスジェンダー女性のインクルージョンが、社会的に浸透している。しかし、彼女たちはなお幾つかの課題に直面している。そのひとつが男性から女性への移行期におけるホルモンバランスの乱れだ。なかでも肌の悩みは大きい。

そこで「すべての人に健康的な肌を」のミッションを掲げるワセリンは、2年にわたる研究の成果として、世界初のトランスジェンダー女性のためのスキンケア製品を開発した。トランスジェンダー特有の肌トラブルに対応する革新的な製品だ。


サステナブル・ディべロップメント・ゴールズ部門


RENAULT-CARS TO WORK

RENAULT
PUBLICIS CONSEIL, PARIS
FRANCE

※クリエイティブ・コマース部門に続く2つ目のGPです。解説は流用します。

フランス人の10人中4人は、公共交通機関がゼロの地域(モビリティ砂漠)に住んでいる。こうした地域で仕事をするためにはクルマの所有が必須だが、多くの職場で最初の3ヶ月間は試用期間となるため、ローンを組むことができない。そのことで就業を断念する人も多く、失業率が全国平均より高いとされる。

「すべての人のためのモビリティ」「インクルージブなクルマづくり」をミッションに掲げる ルノー・グループは、この課題を改善するためのイニシアチブ「CARS TO WORK」を立ち上げた。試用期間の3ヶ月間は無料でクルマを提供し、正式に採用されたら手頃な価格で車を購入することができる。

フランス全土のモビリティ砂漠地域にある50のディーラーが参加するネットワークを構築し、初年度には6000車を利用可能にした。公共雇用サービスや金融機関とも提携。移動の手段だけでなく、職探しやローンの面でもサポートし、利用者の就職率を地域平均の2・5倍に押し上げたという。


グランプリ・フォー・グッド・ライオン


THE FIRST SPEECH. RUSSIA

REPORTERS WITHOUT BORDERS
INNOCEAN BERLIN+STINK FILMS,BERLIN
GERMANY


テレビやラジオで放送されている新しい指導者の就任スピーチを、自宅や都会のオフィス、工場、ジムなど様々な場所で市民たちが視聴している。ある人は半信半疑の面持ちで、ある人は期待しながらその声に耳を傾ける様子が次々に映し出されていく。

指導者はこう語る。「私たちは証明しました。我が国が近代的な民主主義国家となりつつあることを。自由な国家が繁栄し、富み、強くなり、文明化されることを私たちは望んでいるのですーー文明化を誇りに思う国は、世界から尊敬されるでしょうーー私はお約束します。オープンかつ誠実に仕事をすることを」

そこで字幕がインサートされる。「これは2000年、ロシア大統領に就任したプーチンによる最初のスピーチである」

ドイツの「国境なき記者団(RSF)」30周年を記念して制作されたCM。民主主義が困難になりつつある時代に、本来それは脆弱であり、当たり前のように享受できるものではないこと、民主主義を守るには「報道の自由」が必要であること、その言葉は飾りではないことなどを映像で伝えようとした。

キャンペーン開始後、ロシアからRSFサイトへのアクセスは遮断された。グランプリを受賞したロシア篇のほか、トルコ篇(エルドアン大統領)、ベネズエラ篇(マドゥロ大統領)もある。



ザ・ダン・ワイデン・タイタニウム部門

DOORDASH-ALL-THE-ADS

DOORDASH
WIEDEN+KENNEDY, PORTLAND
USA

DoorDash(ドアダッシュ)はフードデリバリーのサービスとして有名だが、それ以外の商品は扱っていないーーそんな勘違いをしている人々の誤解を理解に変えるため、同社はスーパーボウルで大きな賭けに出た。

アイデアは極めてシンプル。「スーパーボウルで宣伝された商品はすべて、ドアダッシュで購入(宅配)できる」と世間に知らしめる(=ドアダッシュには色んな商品がある)。

しかし、実現への道のりは容易ではなかった。そのためには「ブランド・パートナーシップ」「プロモーション」「ダイレクト・レスポンス」「リアルタイム・ソーシャル」など、すべてのマーケティング施策を再点検する必要があった。

本番のCMはプレゼントキャンペーンにすることにした。「今年のスーパーボウルCMに登場するすべての商品(クルマ含む)を抽選で1名様にプレゼントします。その際にはクーポンコードを入力してください。それはCM内でお知らせします」

このプレゼント企画を周知するため、試合の2週間前から、SNS(インフルエンサー)を中心に告知を開始。スーパーボウル前に、インプレッションはすでに80億に達していた。

コマーシャルでは応募の際に必要となる、超絶長々しいクーポンコードを提示した。なんとか正確に記録しようと多くの人が夢中になり、その日夜の締め切りまでに800万件以上の応募があったという。


Cannes Lions 2024 雑感まとめ


現地参加された方、日本でウオッチしていた皆様、お疲れ様でした。速報を読んでくださった方々に感謝します。

まだグランプリと一部ゴールドくらいしか見られていないので、早急に結論づけることはできません。しかし、例年実感することとして、意外とその"最表層”の印象にこそ、今年のメッセージ(深層)が宿っていたりすることが多く、読み解きの入り口にもなりますから、忘れないうちに個人的な気づきをメモしておきます。あくまでご参考程度に。

(メモ2004)

★パーパスドリブンか? ユーモアドリブンか? 

パーパスドリブンか? ユーモア(orエンタメ)ドリブンか? 去年くらいから露呈し始めていた二極化の傾向が一層鮮明になってきた。サブカテゴリーに「ユーモア」が導入されたこととも関係があるかもしれない。

いずれにせよ、“中途半端”や“どっちつかず”の印象を与える施策はなかなか評価がされづらい。マスターカードやルノー、ペディグリーのように、思いっきり気合を入れてパーパスに振り切るか、ドアダッシュやポップタルトのように全力でウケを狙いにいくか(どちらにせよ社運を賭けて)。去年のような「プチ・グッド」はグランプリ内ではあまり見つけられなかった。

業種業態や業績、そしてそのビジネスが目指すものによって立場は変わってくるが、「どっちにつく?(はっきりしろ)」は、いまの世界全体の風潮でもあり、世界の広告(カンヌ)にもその無意識が現れているのだとすれば興味深い。

一方、パーパスドリブンでありながら、エンタメ性も豊かなオレンジの「WOMEN'S FOOTBALL」は、やはり頭ひとつ図抜けていた。両サイドにまたがりながら、決して“どっちつかず”ではなく、パワフルな正面突破ができていた気がする。ゆえにどちら派からも支持されやすい。「WOMEN'S FOOTBALL」は王道かつトリッキーな“スーパー・シュート”だった。

★実は「第3極」もあった

上記以外の「第3極」もあった。それはブランドの歴史や文化のアセット(ロゴなども含む)を、現代的な物語として再解釈したもの。シドニーオペラハウス「PLAY IT SAFE」やドラマミン「LAST BARF BAG」など、グランプリに周年記念ものが、結構目につく(国境なき記者団「THE FIRST SPEECH. RUSSIA」も実は周年もの)。

★AIはいずこに?

ところで「生成AI」はどこに行った? セミナーでは変わらず中心的なトピックになっていたようだが、受賞ワークスでは影を潜めた印象も。グランプリの40%くらいの施策がなんらかの形で「AI」を標榜していた昨年と打って変わり、今年はほとんどなかった。

私の気のせいかもしれないが、審査員長たちが登壇するプレスカンファレンスでも、真っ向からそのテーマを議論することを避けているのでは? と思わせる空気もあった。フォルム部門の審査員長に「AIに対する見解」を問うプレスがいたが、「これはAI部門ではない。フィルム部門だ」との塩対応であった(もちろん、フィルム部門のジュリーに、その文脈での質問は少し無理筋とも言えるが、質問者はOpen AI「sora」的なものをどう捉えるか?を引き出したかったのかもしれない)。

一方、AIに限らず、凄まじいレベルの先端技術(データ)が裏側で働いている施策は相変わらず多い。にもかかわらず、その多くは「シンプルな一枚絵」で表現される“トラディショナル”な広告の顔つきをしているところが興味深い(ペディグリー「ADOPTABLE」やマグナムアイスの「FIND YOUR SUMMER」など)。

ここにもうひとつの“二極化”と“分断”を見る。その裂け目は一見トラディショナルに偽装したクリエイティブの裏側に隠されている。そこを掘り下げることは、現代のクリエイティビティの深い理解につながるかもしれない。まだ未検証だが、ここが今年の深掘りポイントだと感じた。

“分断”はセミナーにも現れていた。テクノロジーの未来を“ポジティブ”に捉えたイーロン・マスクのセミナーが、カンヌセミナー史上空前の注目を集める一方で、2021年のノーベル平和賞受賞者、マリア・レッサのセミナーはそこまで人を集めたわけではない。しかし、この両者はセットで読み解くことに意義がある。未見の方はアーカイブやオンライン上の関連記事などをご覧いただきたい。

マリア・レッサ氏(右)


★15回目のカンヌでしたー新たなチャレンジー

私にとって15回目の参加となる今年は、個人的にスペシャルな意味合いを持つカンヌとなった。初めて取材者ではなく、エントリーする側としても参加させていただいた(ヤマハ「The Joyful Piano(だれでも第九)」にCreative Supervisorとして)。

残念ながらショートリスト2個の結果に終わってしまい、責任を感じるとともに強烈に悔しい思いをした。他の国際アワードや国内アワードと、根本的に異なるベースがあるカンヌのハードルの高さを改めて思い知ることになった。

もちろん、それで「だれでも第九」というプロジェクトの真価が損なわれるわけではない。公式サイトやSNS等にも執筆したように、本当に素晴らしい演奏会だった。その素晴らしさを、世界にプレゼンテーションする際の“エモーション”が足りなかった、と受け止めている。


ーーーーーーというわけで、私の夏は終わりました! しかし、また来るでしょう。夏は終わらせない。この場を借りて関係者のみなさまに改めて感謝申し上げるとともに、世界のウィナーのみなさまに祝意と敬意を表します。

そして、だれでも第九。むしろこの機会に、日本の皆さんが知ってくださるとうれしいです(プロジェクトムービーや演奏会フルバージョンもYouTubeで視聴可)。心が震えます。

では、今年はこんなところで。



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