見出し画像

ウッドショック

コロナ禍の木材事情

昨年(令和3年)はコロナ禍に明け、そして暮れた。米国では在宅勤務の拡大を背景に住宅建設ブームとなり、加えてサプライチェーンの世界的な混迷によって木材製品が高騰した。輸入材に需要の6割余りを頼るわが国木材業界もこのあおりを受けて、木材供給が逼迫、1980年代以来の材価の急騰により、いわゆる「ウッドショック」と呼ばれる大きな混乱が起こった。

京都府の森林面積は 34.3万ha (森林率74%) 、うち人工林面積は 12.6万ha(38%)。全国平均(森林率66%、人工林面積率44%)に比べると、森林率がやや高く、人工林面積率は若干低い数字となっているが、大略大きな違いがない。一方、46-50年生(10齢級)以上の利用期にある人工林は55-60年生(12齢級)をピークに75%を占め、全国平均(51%)を大きく上回っている。ちなみに、人工林のうち50%は未整備林と推定されている。

さて、コロナ禍のウッドショックで輸入材が逼迫、材価の急騰した令和2年における京都府の木材需給をみると、需要は前年比140%と急増したものの、素材生産量は12万m3 (令和元年15万m3) で前年比80%に減少しているので、供給が追いつかず、木材不足が深刻であった。このような木材需給の動向は全国でも同様で、残念ながら、ウッドショックによる国産材シェア回復の好機を必ずしも活かせなかったように見える(京都府林業統計 令和2年版)。

これは、材価の上昇に見合う収益増が立木価格に十分反映されなかったためもある。そのため、山主の伐出意欲が高まらず、むしろコロナ禍の影響で出材が少なくなったのである。現場の作業者を急には増やせないことも一因であると思われる。それとも、山主がさらなる材価の上昇を期待して、伐り惜しみをしたのであろうか。

これからの林業

令和2年の京都府下の森林伐採面積は2,000haであったが、そのうち間伐施業が92%を占め、皆伐は8%に過ぎない。政府がかけ声をかける皆伐/再造林は、皆伐地の20-30%に過ぎず、再造林率は人工林全体の0.03%であるから、ほとんど進んでいないのが現状であろう。

造林と30-50年にわたる育林経費は、概ね200-250万円/haと試算されている。そのうえ、近年ではシカによる獣害被害が深刻で、その対策にさらに50万円/haの経費がかかる。山元の収入である立木販売に造林/保育の補助金を上乗せしても、この経費に足らない。森林所有者にとって、将来の利益確保が期待できないうえ、50年余りかけた投資を回収できず、50年生の山林が苗木の山に変わるだけの皆伐/再造林施業を回避するのは、ある意味で当然といえる。こうして経費節減のため皆伐後の再造林が滞ると、将来に大きな環境問題を残すことになる。

この悪循環を解決するのに機械導入と路網整備による原木の搬出効率化だけでは限界があり、造林経費の7-8割を占める初期の地拵え、苗木代、植付け、下草刈り等の経費削減策、川上・川下の連携による弾力的なサプライチェーンと出材システムの構築、需要促進策等が叫ばれているが、全国の人工林を対象にした画一的な政策だけでは十分ではないと考える。そもそも持山をどのような森林に仕立て、どのような用途の丸太を生産するのか、経営管理のコンセプトが明確でないのではなかろうか?

たとえば、条件が良く手入れの行き届いたスギ・ヒノキ林については、標準伐期齢の弾力的な運用によって(樹齢百年の)長伐期施業へ誘導し、中大径材の生産を目指す。ちなみに、標準伐期齢というのは、主伐期の目安として定められているもので、概ねスギ35-50年、ヒノキ45-60年で、収穫量最多の伐期齢が採用されている。

一方、50%を占めるとされる手入れ不足の人工林は、森林経営管理制度で整備を行うとしているが、その多くは里山の拡大造林によるものと推定される。作業道から遠く離れた出材困難地や急傾斜地など、もとから林業に適さない林地も多い。天然更新による広葉樹との混交林転換を目指すなど、地域の実情と特徴に応じた抜本的な森林・林業のありかた、新たな仕組み作りや政策が必要ではないか。

未整備林が「林業経営に適しているか、否か」の評価を任された市町村には、山林経営の実務経験をもち、森林の価値を評価できる人材が圧倒的に不足しているのが現状である。大学、公的機関等の専門家を加え、地権者や森林所有者の合意を得るための組織や協議体が必要と考える。ちなみに、京都府では、昨年夏に(一財)京都森林経営管理サポートセンターが発足し、森林管理に関わる企画/提案を支援することになった。荒廃した人工林の整備が進展するのを期待したい。

写真:J.K. 作業道端にある人工林の小規模皆伐施業地

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?