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地域起こしは「祭り」の力で

地域起こしの動き

地方創生がわが国の大きな課題となっています。
政府は東京一極集中の是正に動き始め、地方分権一括法を施行(2000年)して、中央・地方の関係が上下や主従の関係を脱してフラットな協力関係になることを目指していますが、実現に向けた動きはあまり進んでいません。地方分権改革として、近年提案募集方式が採られ、自治体が受け身でなく、自らが主体となって地方分権を変える仕組みが作られました。今後は、地方自治体の権限強化と共に、さらに実践の裏付けとなる財源強化策を期待したいものです。

環境省でも、環境基本計画で自立分散型社会、つまり地域循環共生圏の創造を目標にしています。第5次環境基本計画(2018年)は、国連の提唱するSDGs (持続可能な開発目標)を活用して、環境・経済・社会の総合的な向上を目指したものとなりました。

一方、民間では、地域起こし運動がボトムアップ的な運動として盛りあがってきました。国全体の活力を高めるには、地域社会の元氣が必須です。いわゆる「地域おこし」には、住民が積極的に、そして主体的に取り組む「開かれた場」が必要であり、街づくりなどの具体的な課題について、住民による合意形成が求められています。生れ育った街と地域の歴史文化や伝統に誇りを持ち、そこで暮らしたいと思う若者を育てねばなりません。(note 2021年3月29日 『地域おこしは人づくりから』)

地域起こしは祭りの力で

地域起こしに「祭り」の力を活用してはどうでしょうか。
地域にはどこにも鎮守の森や神社があり、祭りがあります。祭りは、地域住民の絆を強めます。職場を越えたさまざまな人の出会いの場となり、だれもが地域の祭事に関われます。昔から続く祭りは地域社会のシンボルであり、大人から子供まで世代を超えて、楽しむことで共感するのです。地域には、このような大小の祭りで溢れています。これを地域起こしの起爆剤にするのです。地域の交流の場を拡げ、観光を含めた経済の活性化に一役買います。

たとえば、秋田県能代市は「木都」として知られています。良材として名高い秋田スギと伝統の加工技術をもつ木材産業を基盤に発展した町だからです。能代住民は、江戸期より伝わる町内自治の仕組み(五町組)を保持して「役七夕」を実施してきました。役七夕は、18世紀以来毎年8月6日から7日にかけ、巨大な鯱飾りを載せた城郭型灯籠の山車が市内を練り歩き、7日夜には灯籠から取り外された鯱飾りを米代川に火をつけて送り流す、ねぶながし(鯱流し)の伝統行事です。

他方、能代では、役七夕とは別に8月3日、4日に「天空の不夜城」が催されています。江戸後期から明治期にかけて七夕の祭りに五丈八尺(17.6メートル)もある大型城郭灯籠を引き回していたとの言い伝えをもとに、平成25年(2013年)に当時の大きさのまま、大工であり、木工彫刻師でもあった宮越屋嘉六に由来する「天空の不夜城」が一世紀ぶりに復元されました。この祭りは、能代商工会議所、能代観光協会、能代青年会議所、能代市役所の組織する「天空の不夜城」協議会が主催し、より幅広い住民の交流の場として、地域を活性化することを目的にした観光行事に位置づけられています。さらに、8月2日には市内の子供達により「こども七夕」が伝統的に実施されてきました。

これら一連の七夕にちなんだ能代の祭りを総合して、大きな地域七夕にできないでしょうか。「能代七夕」として民と公の古い伝統にちなんだ祭りを現代に結び、豪快な引き回しを多くの市民で楽しむことができれば、嘉六もきっと喜ぶに違いありません。

ユネスコ未来遺産運動

日本ユネスコ協会連盟は、このような地域文化の継承に、「未来遺産運動」を提唱しています。百年後の子供たちに長い歴史と伝統のもとで豊かに培われてきた地域の文化・自然遺産を伝えるための運動です。全国の市民活動を対象にした公募制、未来遺産委員会の審査を受けて登録されます。10年余りを経た時点(2019年)で73プロジェクトが登録されています。

未来遺産運動には、1)市民が主体となって有形/無形の地域の文化を守り、継承するプロジェクト、2)市民が主体となって自然を守り、継承するプロジェクトなどが対象とされ、審査の基準は、①地域の文化や自然を未来へ継承するという明確なメッセージをもつもの、②他地域への波及が見込まれるもの、③次世代を担う子どもや若者を巻き込んでいるもの、④個人・企業などが参加できる仕組みがあり、地域活性化につながるもの、⑤先進性や創造性など、独自性が認められるものとあります。

ちなみに、東北地域では、岩手県久保川イーハトーブ自然再生協議会(第1回)ほか、青森県十和田市の「太素の水」保全と活用連合協議会(第3回)、宮城県東松島市えんずのわり保存会(第4回)が、運動の初期に登録されました。また、第11回(2019年)には、秋田県潟上市のNPO法人草木谷を守る会のプロジェクトが採択されています。

能代七夕を未来遺産運動に

秋田の森林資源と木材加工技術の伝統を継承し、「嘉六・役七夕」の祭り文化と伝統産業を守り、地域振興を目指すプロジェクトとして、たとえば、日本ユネスコ協会連盟の「未来遺産運動」の登録を目指すのも一案です。

プロジェクト実現に向けて、以下の3つの要素をつなげて、地域住民、NPO、有識者、商工会議所、自治体など、様々な地域関係者により組織された市民運動を展開するのです。
1. 伝統産業の復活
秋田スギと木材加工技術→「資源の持続なくして技術は成立せず」
2. 祭りの継承
地域の祭り文化、嘉六「天空の不夜城」と役七夕→「住民の参画なくして祭りは守れず」
3. 地域起こし
経済効果と観光→「経済効果なくして伝統継承と住民参加は望めず」

地域起こしは、地元の経済振興ばかりでなく、「ものとこと」が凝縮した祭りの活性化につなげることより、コミュニティのきずなを深めます。草の根運動として、地域の名所旧跡や名産物のほか、伝統行事や歴史・文化について理解を深めることによって、住民が地域に誇りをもち、暮らしを豊かで楽しいものにしてくれるのではないでしょうか。

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