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暮春の一コマ

スカイブルーの空に雲がたなびいている。網戸越しに清涼感のある風が部屋にすうっと入ってくる。冷やし中華をすする音と道路を通る車の音だけ聞こえる。

季節が巡ってくるのは普段と何も変わらないのに。世界中がステイホームしているなんて、まるでSF映画でも観せられているみたいだ。

間延びした空気が漂う部屋にいると、現実を忘れそうになる。いまが未曾有の事態にあるなんて。

オリンピックもどこか遠い国の夢物語のよう。ついこの間まで友達と何の気兼ねなく会っていたことがにわかに信じ難い。その時食べたパスタの味ももう思い出せない。

私が育休から復帰できる日も、なんだか想像できなくなってしまった。

そう、私は本来ならこの4月末に育児休暇を終えて仕事に復帰する、はずだった。

緊急事態宣言に伴い保育園が閉まってしまったため、宙ぶらりん状態になってしまった。

5月末も無理、おそらく7月末以降の復帰になるだろう。

世間には、様々な状況の人がいて、日夜働くフロントワーカーの方、身をすり減らす思いの個人事業主の方。その方々に比べたら自分の置かれてる状況がなんて甘々なんだと思わざるを得ない。戻る場所がとりあえずあって、育休者という立場で労働から切り離されている。ありがたいと思う。

一方で、いつ復帰できるのかわからない不安と、久々の職場復帰(しかも時短)で果たしてちゃんと組織に貢献できるのかという焦りがないまぜになっている。育休で脳細胞が死滅してしまったのかと思うほど回らなくなった頭も不安だし。

今はただひたすら行政の要請に従う。感染しない、させない。基本的なことをするしかない。

なによりそれが大事なのだ。『大丈夫、ゆったり構えて』と自分に言い聞かせる。

カーテンが揺れて、窓から新緑の芳香がたなびいてくる。

寝息を立てて眠る息子の湿った髪を撫でながら、私は小さく祈る。この非日常な日常に、いつか終わりがやってくることを。





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