対話篇2

(承前)

Pは虚空に次のような文章を出現させた。


[[源の実在]Sに、無限個の[属性]が伴っている。各[属性]はそれぞれがオンリーワンの[独自性]を具えている。

また、各[属性]は[表現]を持っている。その[表現]がそれぞれの『自分』の、それぞれの『今』である。

すべての[表現]は[永遠の実在]であり、どの『自分』、どの『今』も常に存在し、消えることはない。

各[表現]の特質がそれぞれの『自分・今』として[現れて]いる。

そして各[属性]の持つオンリーワンの[独自性]により、まさに(他人ではなく)『この自分・この今』として特別な形で[感じられて]いる。]


E: な、何だこれは。わけがわからないぞ。

P: たとえばSがインド哲学で言うブラフマンのようなものであるとしよう。

Sにはいろいろな属性が考えられる。存在すること、時間的な持続性、意識としての覚醒、神性などなど。

これらの属性はそれぞれが他と隔絶した「特別性」を持っていると考えられる。

まず、存在することはすべての基盤であり、その意味では他の属性よりも根本的だと考えられる。

他方で、時間に言わせれば、時間は存在を成り立たせる基盤であり、時間こそが根本的だとも考えられる。

だが、いやいやまだ甘い、と意識は言うだろう。存在だの時間だの、そんなものがあっても影のような物にすぎない。物に意識がなければ無に等しいのだ。意識こそ存在や時間をも超越する根源性であると。

なんのなんの、と神性は言う。神性はそれらすべてを超越するのだ。何しろ神なのだから、と。

存在が言い返す。神であろうが存在しなければただの無だ。時間も意識も神性も、すべては存在を基盤にしてはじめて存在できるのだから。当たり前だがな、ははは。

全く甘い。時間のない存在など0秒しか存在しないのだから結局は無なのだ。時間あってのものだねさ。

いや、意識こそ、いやいや、神性こそ……。

という風に、各属性はそれぞれがオンリーワンの特別性・独自性を具えている。

E: ますますわけがわからなくなってきたな。ともかく、それでどうなるんだ?

P: そのような[属性]がSの作用で[擬人化]され、さらに[錯覚]しているとする。この[錯覚]の[状態]が[表現]だ。

E: ふむふむ。

P: その[表現]がそれぞれの『この自分・今』だとするとどうなるか。

各[属性]は消えることのない、[永遠の実在]であり、それぞれが[錯覚]し続けている。この[錯覚]もまた消えることのない[永遠の実在]だ。

ある[属性]の[錯覚]はいつもそこに[ある]のだが、その様相は一つ一つがいずれかの、『この自分・今』として[感じられる]というわけさ。

E: もはやSFだな。

P: いずれの『この自分・今』もそこに[ある]のだから、その『この自分・今』が確かに[実現]している。

その結果、誰もが流れていく時間(『今』の流れ)を[感じている]ことになる。

それぞれの『この自分・今』が特別であるのは、各[属性]がいずれもそれぞれにオンリーワンの独自性を具えていることに由来するのだ。

つまり、それぞれの『この自分・今』は[表現]としてほとんど等質であるように見えて、実は各[属性]の独自性に由来する微妙な違いがある。

しかし、その違いは明示的には自覚できない。

にもかかわらず、各[属性]の独自性からくる特別性がそれぞれの『自分・今』に具わり、[感じられる]。

という風な仮説さ。

E: 全くもって不可思議な話だな。仮にそうであるとして、なぜそんなことになっているんだ?

P: それについてはまた別のところで考えよう。ともあれ、このやりかたを応用すればどんな不可思議や矛盾にしか見えない状況も一応の説明ができるのだ。

E: どういう風に?

P: これを見てくれ。

Pはまた、虚空に文章を出現させた。


[[源の実在]Sに具わった[属性]の一つTが[錯覚]し、その[表現]が状況Uとして[現れて]いる]


Pはつづけた。

P: この状況Uに任意の状況や状態などを当てはめればいい。どんなに不可思議な状況や矛盾に見えることがらでも[属性]Tの[錯覚]による[表現]の[現れ]であるとして説明されるのさ。

たとえばキリスト教の弁神論の問題、つまり神が全知全能にして完全な最高善であり、その神が世界を創造したのなら、なぜこの世界に悪があるのかという問題にしてもそうだ。

その場合はUとして「全知全能にして完全な最高善である神が創造した世界に悪がある」という状況を代入すればいい。

E: うーむ、説明になっているのかどうかよくわからないが。

P: この前の無理やり疑う方法よりは説明らしくなっているだろう。

E: だがこれで人が納得するとは思えないのだが。

P: 納得などはできなくていい。とにもかくにも説明があるのとないのとでは気分が違う。この気分が大切なのさ。

E: そういうものかねえ。

P: で、さっきの問題に戻ろう。仮にそうなっているとして、なぜそんなことになっているのかという問題だ。これはものごとの第一原因を考えることにもつながってゆく。

(つづく)


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