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なかまに借りを返すことによる幸福感について

ぼくは1万円を彼に返さなければならなかった。

週末は新幹線にのって少し仕事をして、夜は一年以上ぶりにオフ会に参加した。まさかの美容男子の会だ。

ぼくは冬は寒くてひきこもるし、春は入院して体つくりができなかったので、じぶん磨き(といっても筋トレ中心)から遠のいていたのよね。そんな状態で意識の高い仲間たちに会ったら精神的にやられそうで怖いー。

そのため、オフ会にいこうというモチベーションはとっくに失っていたんだけど、あるメンバーとの約束を思い出したのが参加のきっかけだ。

彼はカメラマンで、ポートレート撮影が専門なのでお仕事をお願いしていたんだけど、撮影の直前にぼくの腎臓ガンが発覚しちゃって。

ぼくらはオフ会で会って話をするくらいの関係で、お互いに最低限の情報しか知らないので利害関係もない。そんな相手だったので撮影の合間にさらっとじぶんの体調のことも話していた。

すると彼はとても驚いていろいろ心配をしてくれた。最終的にはお金を受け取らないという話にまで発展した。

「ここでお金をもらって関係が終わるってのはやめましょう。借りができたと思って生き延びてください」

さんきゅ。

彼はフリーランスなのでお金についてもよく考えている。お金は時に責任に線を引いて関係をわりきろうという意味をもつ。お金をもらわないやりとりは関係の中でGIVEし合おうぜという認識があって成立するものだ。

オフ会もコミュニティ。出会う仲間は関係を長期的な目で見ている。

会場にいくと他の仲間たちにもなんとなく事情が伝わっているらしく、みんなが声をかけてくれた。顔を出していなくても話題になるのってうれしいよね。そして健康第一だよなって言いながら仲間たちは豪快にビールを飲み始めた。おいおい。

ぼくは会計時に財布を出す流れで彼に一万円札を渡す。

「あ、はい。それではもらいます」

彼は大事そうにそれを受け取った。

借りを返す。ぼくはたったそれだけのことがとても大きな幸福感を生んでくれることに気がついたのだった。

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