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オヤジだからといって誰もが『もつ煮込み』を好むわけではない。【きまぐれエッセイ】

東京の下町、あたしが訪れたのはまさに「男はつらいよ」の映画に出てくるような、こじんまりとした中小企業。タコ社長が出てきても驚かないくらいの雰囲気で、社長と従業員たちはまるで家族のように仲良し。社長のご両親も仕事を手伝っていて、10時と3時にはお茶とお菓子をふるまいながら、みんなでおしゃべりを楽しんでいた。

ある日の午後、3時のおやつの時間に、隣のおばちゃんが社長の好物『もつ煮込み』を持ってきてくれた。タッパにたっぷり入ったもつ煮込みと、あたしの分も弁当箱サイズでぎっしり詰めてくれていた。

「たっくさん作っちゃったからサア、ホラみんなで食べて食べて~。つばさちゃんの分もあるからサ、ホラこれお家帰ってから食べて~、ネ♥」

あたしは、「(ぅあ)ありがとうございます」と心の中でため息をつきながらも、おばちゃんの好意に感謝しようとしたが、どうにも作り笑顔が苦手で、心のこもっていない言葉でお礼を言ってしまった。結局、帰り際に社長にそのままあげてしまった。

家に帰ってから、あたしはあの時のことを反省した。「もつや内蔵系食べられないんですぅ~」と正直に伝えればよかったのかな、と思ったけれど、それはそれでおばちゃんを傷つけてしまうかもしれないし。難しいよね。

だって、好意を踏みにじるなんて非国民みたいじゃないか、という声があたしの頭の中で響く。その一方で、静かな良心さまは「他人によく見せようとするのはやめなさい、自分らしく生きていいんですよ」とささやく。

あの頃を思い出して、あたしは自然体で生きようと思うようになった。おばちゃんに「もつ煮込み苦手なんですよ、でもツレは大好きだから持ち帰ります」と正直に言えたら、もっと明るい展開になっただろうな。

やっぱり、自分の気持ちに正直に生きるのが一番だよね。


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