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土の中のもぐら Ep.1

0.プロローグ

井の中の蛙
…考えや知識が狭くて、もっと広い世界があることを知らない。
(広辞苑より)

「水中と地中ってどっちが世界として狭いんだろうね。」

当時この質問に僕は迷いなく答えていたけれど、今の僕には簡単に答えられないと思う。

1.はじまり

朝の通勤ラッシュで今日も学校の最寄りまでの30分間立ちっぱなしになることが確定した僕は、Twitterを何の気なしにスクロールしていた手をふと止めてしまった。

"センター試験まで残り100日"

人はどうして見たくもない現実ばかり視界を取られてしまうのだろう。

受験演習ばかりでもはや行く必要も無い学校に出席数を取るためだけに毎日勤勉に通って、

学校からようやく解放された下校時間から1時間程経った17時からはここの所家計の出費として幅を利かせているであろう予備校に行き、22時まで授業を受ける。

これだけ受験勉強に費やしている勤勉な自分にとって束の間の休息時間であるこの朝の通学時間までも受験という悪魔は付き纏ってくるらしい。

「僕はなんのためにこんだけ必死になってんだろう。」

ゲームと漫画以外に取り立てて時間を費やすものを持っていなかった僕にとって受験勉強は長年の悩みを考えないで済む暇つぶしとして居座りが良かった。

だからこそ、これまで文句も言わずにやり続けることができたんだと思う。

それなのにこんな思いがこみ上げてしまうのは思春期高校男子だから仕方がないのかもしれない。

ーーー

「おはよう。今週のジャンプ読んだ?

なんかあの漫画年末までに終わりそうじゃない?」

自分の席に着くと教室の後方でクラスメイト達が今日発売した週刊誌について談笑しているのが聞こえる。

「あー、もう半年くらいジャンプなんて読んでないな。」

自分で言ってて嫌になる。これまで散々時間と金を使ってきた自分の趣味とも言える漫画も受験勉強を理由にこんなにも手軽に断ち切ってしまう僕はこだわりのない人間なんだろう。

こんな僕はこれからもきっと仕事や趣味にこだわりを持たずに生きて、死んだら現世に引き留められずにすぐに成仏していくんだろう。

ーーー

「今週は〇〇予備校の模試があるからちゃんと勉強して対策しろよー。

分かったらさっさと家に帰って勉強しろなー。

推薦入試組は受験組を邪魔しない程度に遊ぶように。

さようなら。」

クラス担任の挨拶が済んだのを聞いて僕は早々にクラスから立ち去る。

ーーー

下校から予備校の授業開始時間までの1時間は朝の通学時間と双璧をなす僕の憩いの時間だ。

今日は朝からの憂鬱な雰囲気を払拭するために少し奮発して予備校から近いカフェに向かった。




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