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通勤時の倫理学

「青いポロシャツ逃げてんじゃねぇよ」

朝の通勤電車に怒号が響く。

これまで口論した様子がないから、恐らく靴を踏んだとか、肩がぶつかったとか、そう言う一触即発系のイライラなのだろうか。

感情を爆発させているが、逃げてんじゃねぇよと叫ぶだけで、決して自分から電車を降りようとはしない。

きっとこの後、彼は仕事に行かねばならないのだろうな。

扉が閉まると、何事もなかったかのように、いつもの通勤時の静けさになる。

職場でもそうなのかと思うと、職場は面倒臭いだろうなと、他人事。

世知辛ね。生きていくってのは。

【暗転】

都内某駅、サラリーマン風の男性が、もう一方の男性の胸ぐらを掴んでいた。

壁際に追いやり、無料配布の雑誌を置くラックにぶつかる。ガタンと大きい音が鳴る。

あんなところで言い争えば人目につくのは当たり前だろうに。

そんなにムカつくことがあるならば、正々堂々喧嘩すればいいのにと。ちゃんと駅員さんの前で、喧嘩すればいいのに。

実際のところはわからないが、憂さ晴らしなのかもしれない。何が気にくわないのか、弱いものいじめなのだろうか。

昔同じような覚えはある。そこまで酷くないが、一方的に叩かれるとか、悪口を言われるとか…。

まぁ小学校時代にはよくあることだ。その嫌な経験は、忘れちゃいないけど。

とは言え、二人の間に何があったのかはわからない。胸ぐらを掴まれていた男の方が、何か重大な過失をした可能性もある。

余計なことに首を突っ込まない。おそらく突っ込んだところで、私に何ができるわけでもないのだから、と。


朝から気分が悪いと、見てみぬ振りをしてしまったのが、今更ながら罪悪感。

別に止めに入ることはなくとも、駅員さんを呼ぶことくらいはできたはずだ。

怖がって、逃げちゃうんだよな。

いざというとき、ヒーローみたいに颯爽と登場なんて、私にはできそうにない。

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