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旅にでかける朝。

 昔から旅に出かける日の朝は、しぜんと早起きしてしまう。

 子どもの頃は遠足にでかける前の日は、うれしくってなかなか寝付けなかった。それでも朝は自然に目がさめて、いつもは持たないハンカチをリュックに詰めたり、おやつを入れ直したり、準備万端のつもりになって意気揚々と出かける。でも集合場所に着く前に、あれいれたかな、これいれたかな、って不安になって、道路にしゃがんでリュックの中身を確認したり。

 それは今も変わらない。

 1泊2日の出張があれば、前日からそわそわし始める。衣装ポーチにTシャツや下着をつめながら、クローゼットから服をひっぱりだして、鏡の前で何を着ていくか品定め。そしてランニングシューズ、洗面用具、旅で読む本などを、スーツケースに詰めていく。

 翌朝。ふだんより早く目が覚める。そして心はすでに旅に出かけている。

 ひさしぶりのあの人には東京駅でお土産かわなきゃ。お弁当はちょっと贅沢してミルフィーユ海鮮丼にしよう。新幹線に乗り込む前にどこでコーヒー買おうかな。宿にチェックインしたら、ちょっと散歩しようかな。
 そんなことを考えながら、いつもの朝の支度をする。

 でも実際、旅にでたら、その通りになんて全然ならない。

 あんなに準備したのに、充電ケーブルを忘れてたり。時間ギリギリになってお弁当かえなかったり。だいたい旅先で読書なんてしたためしがないのに、なぜいつも本をもってくるんだろう。

 でもそんなうまくいかないことだって、旅ならば楽しいのだ。

 革命的な製品を世に送り出したApple社のCEOだったスティーブ・ジョブズはこんな言葉を残している。

 「旅の過程にこそ価値がある」

 終着点が重要なのではなく、その過程をいかに楽しめるかが大切だということなのだろう。旅で覚えているのは、景勝地だけではない。思い出のほとんどは、そこに至る道すがら道に迷ったこととか、友達と恋バナをして盛り上がったことととか、宿に忘れ物をしたこととか、そんなことばかり。

 そう考えれば、旅をすると決めた時から、旅はもう始まっている。

 旅にでる前の気持ちの高ぶりは、すでに旅なのだ。ガイドブックを買ってきて、行きたいお店をチェックしたり、ホテルを選んだり、レンタカーの予約をしたりしながら、どんどん楽しくなっていく。

 そしていよいよ旅にでる朝を迎える。
 いつもより早く目が覚めちゃうぐらいワクワクしてる。
 
 ひょっとすると旅にでかける日の朝こそが、最も楽しい瞬間なのかもね。


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