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漫画が今、活況であるワケ

 今、漫画が本当に面白いですよね。

 チェンソーマン、呪術廻戦、SPY×FAMILY、鬼滅の刃、そして推しの子など、次々とヒットタイトルが生まれている。スラムダンクもアニメとして今年、日本中のおっさんを沸かせた。UFOキャッチャーでもキャラクターフィギュアが大人気。海外でもMANGAファンは増え続けていて、去年アゼルバイジャンに行った時にも、現地の若者との共通の話題はもっぱら、アニメだった。

 なぜ漫画は強いのか。もちろん絵がメインなので世界へ打って出やすいということもある。しかし昨日、シンラジオで漫画編集者の林士平さんのお話をたっぷりとお聞きして、漫画の本当の強さの秘密を垣間見た。

 ひとことでいうならば、才能へのリスペクト、だ。

シンラジオの生放送中の副調

 林士平さんは現在、ジャンプ+の編集者として、複数の漫画家の担当をしている。チェンソーマン、SPY×FAMILY、ダンダダンなどを世に送り出した敏腕編集者だ。

 「新人からの売り込み電話を最初にとった人がその担当になるというのは本当なのか?」
 
 シンラジオの生放送の冒頭。鈴木おさむさんの最初の質問がこれだった。

鈴木おさむさん

 なんとこれは本当だという。今はメールで来ることも増えたけれど、林さんが集英社に入った頃には、電話が鳴ったらみんなで奪い合うようにとったらしい。中学生や高校生、中には小学生の子もいるらしい。月に数十人とかの売り込みが今もあるという。そのひとつひとつを「原石」と捉え、きちっと返事を返していく。メールでネームを送ってもらい、その後もやりとりを続け、才能として育てていく。そこに将来の尾田栄一郎がいるのかもしれないのだ、という共通の思いが編集者たちにはある。

 そしてそこから長い長い年月をかけて漫画家に伴走するのだという。

林士平さん

 若い才能を大切に大切に育てていく。そんなシステム、今や他にあまりない。ひょっとすると文芸の世界ではそうかもしれないけれど、映像の世界では、才能を育てる、という観点で、時間とお金を惜しまずに投入する、という発想はあまりない。

 チェンソーマンの作者・藤本タツキさんと編集者・林さんが出会ったのは17歳の時。そこから最初はメールでやり取りし、会うようになり、賞を取るようにサポートをし、ジャンプ+で連載をし、出会いからおよそ10年で、チェンソーマンが生み出された。
 なかなか売れない漫画家もいるだろうし、途中で書けなくなってしまう漫画家も少なくない。若い才能の卵たちと付き合うなかで、中学や高校への進学の相談にも乗ったりすることもあるという。

 まさにその人生に伴走していくのだ。

 良い漫画が売れるとは限らないし、売れている漫画が必ずしも良い漫画でもない。運が左右することもたくさんある。それでも編集者たちは全身全霊で才能と向き合っている。

 漫画を連載を決めるやり方もとても合理的だ。

 ネームが入った封筒を編集部員たちで回して、コメントを書いていく。それをもとに皆で意見をいう。編集長が難色を示したとしても、担当がその面白さを信じ、またそれに賛同する部員がいれば、連載が決まることもある。ある人のエゴで、才能が世に出る機会を奪ってはいけない、そんな思いをひしひしと感じる。

 そこはとても純粋な世界だ。

 紙媒体は難しいと言われる時代、漫画編集者たちは新しい才能を発掘する努力を全力で続けてきた。だからこそ次々とヒットが生まれてくる。ひとつの作品ができれば、それは時代をこえて、命が吹き込まれることもある。聖闘士星矢がハリウッドで映画化されるなんて、小学生のぼくには想像もつかなかった。

 そんな漫画の世界に、デジタルの波が押し寄せたことで、漫画家の裾野はさらに広がっているという。作画は無料でYouTubeで学べるし、背景などに使うトーンもデジタルならタダで手に入る。さらに今の若い世代たちは、漫画アプリやNetflix、YouTubeなどで、これまでにないスピードで物語を咀嚼している。とんでもない才能が続々生まれてくる可能性に満ちあふている。

 世界市場で漫画はまだまだ躍進する。林さんのお話を聞いて確信した。

 映像の世界でも、YouTubeやTikToKなどで映像を呼吸するように編集できる若者たちが育っている。今、かれらの才能を育てていく仕組みをテレビが担うことができれば、とも夢想したりもする。

 そんなお話を3時間も林さんにお聞きした、シンラジオはこちらから。

 それにしても、月に一度のシンラジオの生出演が今のぼくにとってはなによりの楽しみだ。bayfmのスタジオがある幕張は遠いけれど、そこまでのドライブもいい息抜きになるし、なにより鈴木おさむさんという稀代の聞き手が引き出す、トップクリエーターの話をたっぷりと間近に聞けるなんて贅沢、なかなかない。
 
 今から来月が待ち遠しい。

 それまで林さんの話を反芻しながら、漫画を読みまくろう。

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