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愛おしくて切ない、その刹那を残したい。

河瀬大作

 いつも人を撮りたいと思っている。

 きっかけは家が火事になって家族の記録を残しておきたいとおもったこと。悲しさとうれしさが毎日、洪水のように押し寄せてきた。そんな日々の感情を忘れないように記録したいと思った。

 それから毎日、カメラを持ち歩くようになった。最初に持ったのは、ワタナベアニさんが大作戦してくれたSONYのRX100Ⅴ。夢中になって、日々のできごとを記録した。すっかり日常にもどった今も、毎日なにかしらを撮っている。特に出会った人はできるかぎり写真に残している。ピースしている写真も悪くないけれど、なるべく自然な姿を記録したい。

 ぼくは長らくテレビドキュメンタリーのディレクターをしていた。いつも狙っていたのは被写体の自然な姿。しかし「自然にしてくださいね」と声をかければ、かけるほど、相手は身構える。当たり前だ。バーズーカーのようなカメラを構えたカメラマン、薙刀のような長い棒を振りかざす音声マンの前で、自然にしろ、と言われてできるはずがない。

 その人の言葉を撮りたいときに、テレビドキュメンタリーでは、アクションインタビューという手法を使う。動きのなかで、ここぞ、という時に、声をかけ、相手の「意味のある一言」を狙う。「単なるインタビューではなくシーンをとってこい」とよく編集マンに言われた。座りのインタビューはしっかり話を聞く時にはいいけれど、単調になりがちだ。だからシーンのなかで、声かけの瞬間をうかがう。相手の動きを止めるような声の掛け方ではだめなのだ。あくまで自然に、相手の動きを邪魔しない声かけだ。

 これはスチールカメラで、どの瞬間を狙うのかに似ているのかもしれない。動きのなかで、ここぞ、という瞬間を見極め、シャッターをきる。相手が構えずに、自然な表情を見せるタイミングを狙うのは、難しい。

 最近は、ある瞬間を狙うようにしている。いわゆる「いい写真」になるのかはわからない。でも自分にとって、心に残る刹那が記録できる。

 その瞬間とはいつか。

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河瀬大作

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