見出し画像

1950年代における日本の鉄道史が熱い理由

こんにちは。交通技術ライターの川辺謙一です。

今回は「1950年代における日本の鉄道史が熱い理由」と題し、その背景を書きます。

日本の鉄道が急成長を遂げた時代の話として、お楽しみいただけたら幸いです。

■ 日本の鉄道の「成長期」

さて、この記事をクリックしてくれたみなさんのなかには、鉄道の歴史に興味がある方が多いでしょう。

そのような方にとってもっともワクワクする時期は、1950年代前半から1970年代前半までの約20年間ではないでしょうか。なぜならば、この時期では、日本の鉄道でわかりやすい変化が起きていたからです。カラフルでユニークなデザインの鉄道車両が数多く誕生し、世界最速(当時)の列車として新幹線が誕生したのは、まさにこの時期です。

この時期は、ちょうど日本の高度経済成長期と重なります。

やはり、趣味的に面白いのは、現在のような「成熟期」ではなく、変化が実感できる「成長期」ですよね。

ちなみに私は、1970年生まれなので、この時期をリアルタイムで見ていません。物心がついたころには、オイルショックを機に高度経済成長期が終わっていました。

しかし、私は、現在のようなフリーランスのライターになってから、この時期の詳細を知りました。当時を知る当事者を直接取材する、もしくはその人が書いた資料を読むことで、日本の鉄道が熱を帯びていた時代があったことをおおまかに把握できたのです。

■ 1950年代の資料を読んでわかったこと

国会図書館から届いた資料のコピー

また、さらに調べていくうちに、日本の鉄道にとって1950年代がとくに「熱い」時期だったことがわかりました。

私は出版社から、1950年代に営業運転を開始したある電車について執筆してほしいと依頼されました。

そこで私は、国会図書館にその電車に関する資料の遠隔複写を依頼し、送られてきた資料のコピーに目を通しました。

そのほとんどは、鉄道の視点で書かれたものでしたが、自動車や航空機の視点で書かれたものもありました。

1950年代には、自動車や航空機において次のような大きな変化がありました。

  • 【1951年10月】戦後初の国内民間航空定期便が運航開始。「もく星号」が東京(羽田)・大阪(伊丹)・福岡(板付)を結んだ。

  • 【1956年4月】日本道路公団(現在のNEXCOグループ)が発足し、高速道路の整備に向けた準備が進められた。

  • 【1956年8月】アメリカの調査団が報告書(通称「ワトキンス・レポート」)を建設省に提出し、日本の道路状況の悪さを指摘したのを機に、全国で道路整備が本格化した

つまり、自動車や航空機の発達が本格的に始まり、鉄道はそれらに旅客を奪われそうになっていたのです。

■ 鉄道斜陽化への備え

当時のヨーロッパや北米では、それがすでに現実で起きていました。自動車や航空機の発達によって鉄道の斜陽化が進み、「鉄道はいずれ消えゆくもの」といった悲観論も語られるようになりました。

いっぽう、当時の日本では、鉄道の斜陽化は進んでいませんでした。ヨーロッパや北米とくらべると、自動車や航空機の発達が大幅に遅れていたからです。

そこで日本の鉄道関係者は、1950年代になって海外の鉄道技術を積極的にとり入れ、旅客列車の高速化を実現しようとしました。とくに国鉄は、新しい特急電車や寝台車を開発し、東海道・山陽本線における優等列車の所要時間短縮とサービス向上を図りました。

つまり、将来起きるであろう鉄道の斜陽化を見越して、攻めの一手を打っていたのです。だから鉄道関係者が「熱く」なっていたのでしょう。

なお、1950年代に行われた電車の高速化に関する研究は、1964年10月に開業した東海道新幹線という形で結実しました。これによって、鉄道は航空機と互角に競争できるようになりました。

■ 他交通の視点で見える歴史

以上のことは、鉄道史を語るうえで重要なことなのですが、一般向けの鉄道趣味誌にはあまり書かれていません。ただ、『交通技術』や『電気車の科学』、『車両技術』といった鉄道業界誌の記事には、当時の鉄道関係者の他交通の発達による「あせり」がところどころに記されています。

JR東日本の顧問を務めた山之内秀一郎氏は、自著『新幹線がなかったら』のあとがきで、次のように語っています。

もしあの時、新幹線をつくっていなかったら、そして十年前に国鉄改革を実施していなかったら、どうなっていたかと思うと、背中が寒くなる思いがする。おそらく日本の鉄道は全く衰亡していたにちがいない。

山之内秀一郎著『新幹線がなかったら』朝日新聞社,2004年,p379-p380

このように、他交通の視点で鉄道を俯瞰すると、鉄道趣味誌に記されたものよりもリアルな鉄道史が見えてくると思うのですが、いかがでしょうか?

よろしければ、サポートをお願いします。みなさんに楽しんでもらえるような記事づくりに活かさせていただきます。