【世界の駅めぐり番外編】駅の大時計をくらべてみよう
鉄道の駅には、たいてい大きめの時計(以下、大時計)があり、遠くから見ても時刻を確認できるようになっています。
とくに歴史がある駅のなかには、大きめの時計を構内または駅舎に設置して、ホームやコンコース、駅前広場から見えるようにした例があります。
そこで今回は、私が訪れた世界5ヶ国の駅にある大時計を、写真とともに紹介します。駅の時計から歴史やお国柄を探る話として、お楽しみいただけたら幸いです。
🇬🇧イギリス
ロンドン・パディントン駅
パディントン駅は、ロンドン市街の北西部にあるターミナル駅です。「くまのパディントン」の舞台として知られる駅でもあります。
この駅では、ホーム全体が大きなドームで覆われており、その内側のホームの近くに大時計があります。ローマ数字を使った文字盤のデザインや、時計全体を支える曲線の支柱の形から、歴史を感じますね。
ロンドン・ウォータールー駅
ウォータールー駅は、ロンドン市街の南部(テムズ川の南岸)にあるターミナル駅です。1994年から2007年までは、専用の改札口がある国際列車専用ホームがあり、ロンドンやブリュッセルに向かう高速列車「ユーロスター」が発着していました。
この駅の構内には、シンボルとも言えるアナログの大時計があり、その真下が待ち合わせ場所にもなっています。この大時計は、大きなドームから宙吊りになっており、ローマ数字が並んだ文字盤が四方を向いています。
なお、「ユーロスター」専用の改札口にあった大時計は、「ユーロスター」のロゴの右側にありました。これはアナログ時計で、文字盤で数字を省略したところが現代的ですね。
ヨーク駅
ヨーク駅は、ロンドンから300kmほど北にあるヨークの中心街にある駅です。イギリス国立鉄道博物館の最寄駅でもあります。
この駅の構内には、線路をまたぐ跨線橋があり、そこに大時計があります。写真をよく見ると、大時計そのものがS字を描く支柱で支えられているのがわかります。
ちなみに、この大時計の真横には小さな時計があり、跨線橋を歩く人に時刻を示しています。
🇫🇷フランス
パリ・リヨン駅
リヨン駅は、パリの市街地の南東にあるターミナル駅で、その名の通りリヨン方面に行く列車が発着しています。1981年にフランスの高速列車(TGV)がパリ・リヨン間で営業運転を開始したときには、ここが始発駅になりました。
この駅の駅舎には、大きな時計台があります。ここまで立派な時計台を設けた駅は、めずらしいのではないでしょうか?
オルセー駅(現・オルセー美術館)
オルセー駅は、かつてパリに存在したターミナル駅です。その駅舎は、現在オルセー美術館として使われています。セーヌ川の南岸にあり、北岸にあるルーヴル美術館とともに観光名所となっています。
建物の内部には、豪華な大時計があります。文字はローマ数字。文字盤の周囲のデザインがたいへん凝っており、現在の美術館の雰囲気ともマッチしています。
この建物には、外から見える大時計もあります。建物の内側を歩くと、その裏側を見ることができます。その中心は私の背丈よりも高い場所にあるので、文字盤の直径は5mぐらいでしょうか。間近で見ると、その大きさに圧倒されます。
🇩🇪ドイツ
フランクフルト中央駅
フランクフルト中央駅は、ドイツの南西にあるフランクフルト(正確にはフランクフルト・アム・マイン)の中心地にある駅です。ドイツの高速列車(ICE)だけでなく、フランスの高速列車(TGV)も乗り入れる駅でもあります。
また、2015年に日本の東京駅と姉妹提携した駅でもあります。
この駅では、1888年に開業した初代駅舎が使われています。正面には、大時計があります。文字盤の周囲の装飾が凝っていますね。
なお、写真にある文字「HAUPTBAHNHOF」は、ドイツ語で「中央駅」を意味します。「DB」は、ドイツ鉄道(Deutsche Bahn)の略称です。
ケルン中央駅
ケルン中央駅は、ドイツの北西部にあるケルンの中心街にある駅です。その駅舎はケルン大聖堂のすぐ近くにあります。
ケルン中央駅の初代駅舎は、第二次世界大戦の空爆で破壊されました。現在の二代目駅舎は1957年に建設されたものです。そのためか、ケルン大聖堂とは対象的に現代的で、派手な装飾がほとんどありません。
この駅にも大時計はあります。ただ、ガラス窓に設置されているゆえか、あまり存在感がありません。文字盤は数字が省略されています。
ベルリン中央駅
ベルリン中央駅は、ベルリン市街の北側にあるターミナル駅で、東西ドイツ統合後の2006年に開業しました。
ここでは、「大時計」と呼べるほどの時計に出会うことはできませんでした。メインゲートの外側にある時計ですら、この大きさです。ここでも数字が省略されています。
🇺🇸アメリカ
ニューヨーク・グランドセントラル駅
グランドセントラル駅は、ニューヨーク市街の中心地(タイムズスクエア)のやや北東にあるターミナル駅です。多くの映画の舞台にもなった駅なので、見覚えがある方もいるでしょう。
この駅も、フランクフルト中央駅と同様に、日本の東京駅と姉妹提携しています。
この駅のメインロビーの中央には、モニター画面を並べた案内所らしきもの(内部には人がいなかった)があり、その真上に四方を向いたアナログ時計があります。文字はローマ数字ではなく、アラビア数字です。
この時計もたびたび映画に登場します。ただ、間近で見ると、ヨーロッパの主要駅にある大時計よりも小さいことがわかります。人の大きさから判断すると、文字盤の直径は「50cmを超えていないかな…」という感じです。
ニューヨーク・ペンシルベニア駅
ペンシルベニア駅は、グランドセントラル駅と並ぶニューヨークのターミナル駅です。この駅の初代駅舎は、グランドセントラル駅のような荘厳な建造物でしたが、1963年に解体されました。現在の二代目駅舎は、効率を重視した現代建築で、「大時計」と呼べるものは存在しませんでした(もしあったらご指摘ください)。
この駅で見つけた「大きめの時計」は、発車標(列車の発車時刻を示す掲示板)に組み込まれたデジタル時計でした。
私はこれを見て、「かつてはヨーロッパの真似をして大きなアナログ時計を置いたけど、今はもうしない」というアメリカの覚悟のようなものを感じました。
ボストン・サウス駅
サウス駅は、ボストン市街の南側にあるターミナル駅です。ここは、アメリカで唯一の高速列車「アセラ・エクスプレス」の発着駅でもあります。
この駅には、駅舎の内部にアナログの大時計がありました。文字はアラビア数字です。
この駅は、1899年に開業して以来、駅舎の改築をしていないので、この大時計も長らく使われているのでしょう。
🇯🇵日本
東京駅
東京駅は、言うまでもなく日本の鉄道網の中心的存在です。その歴史を語るうえで欠かせない丸の内駅舎は、第二次世界大戦の空爆で破壊され、しばらくドームがない状態が続いていましたが、2012年にその原型が復原されました。
丸の内駅舎は、北口と南口の正面に大時計があります。ロンドンで西洋建築を学んだ人が設計したため、ヨーロッパの主要駅の駅舎をモデルにして組み込んだのでしょう。
この大時計は、復原されたドームとくらべると地味な存在です。ただ、ヨーロッパの影響を強く受けた時代を物語る貴重な存在と言えるでしょう。
上野駅
上野駅は、東京における「北の玄関口」だったターミナル駅です。ここを発着していた定期運転の夜行列車が消え、上野東京ラインが開業してからは、「多くの列車が通り抜ける駅」となりました。
この駅には、シンボルと言えるアナログ時計がありません。その代わり、中央改札口に大きなデジタル時計があります。現在は、液晶ディスプレイのような平面画面で数字をきれいに表示するデジタル時計が増えたので、7つの棒(7セグメント)で数字を表現するアナログ時計は「ちょっとなつかしい存在」ではないでしょうか。
また、「ヨーロッパの駅の真似をしない」という点では、ペンシルベニア駅と似たものを感じますね。
大阪駅
最後に紹介する大阪駅は、大阪市街の梅田にあるターミナル駅です。現在の大阪駅は、「大阪ステーションシティ」として2011年にグランドオープンしました。
この駅の5階には、「時空(とき)の広場」と呼ばれる広場があり、アナログの大時計として金時計と銀時計が設置されています。文字はローマ数字です。
「大阪ステーションシティ」の公式サイトは、「時空の広場」を次のように説明しています。
大阪駅には、もともとシンボルとなる大時計はありませんでした。このため、この文章からは、リニューアルしたときにわざわざ大時計を配置したことがうかがい知ることができます。
■ 現代における駅の時計の意味
さあ、ここまでは、世界5カ国(イギリス・フランス・ドイツ・アメリカ・日本)の駅の時計を見くらべてきました。
いかがだったでしょうか?
先ほどの説明にもあったように、時計は、鉄道の象徴である「時」を刻む存在です。腕時計や懐中時計が普及していなかった時代には、駅に欠かせない設備でした。
しかし,現在は多くの人がスマートフォンを持っており、現在の時刻や列車の時刻表を小さな画面でかんたんに確認できる時代です。そのことを考えると、「人々に時刻を伝える」という駅の時計の役割は終わったのかもしれません。
それでも時計を置く駅が存在するのは、それが駅や鉄道を象徴するものであり、人々の待ち合わせ場所としても機能しているからではないでしょうか。そうでなければ、わざわざ大阪駅にアナログの大時計を新設する必要がないからです。
今後大きな駅を利用するときは、そこにある時計に注目してみてはいかがでしょうか。そこに凝縮された意外な歴史などがわかって面白いかもしれませんよ。