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アルベルト・コンタドールについて知っている、数少ないことについて語りたい

 先日ふと、ロードレース選手のアルベルト・コンタドールのことを思い出して気持ちが昂ったので、この場にて書き殴ろうと思います。

 なんせすぐ燃え上がって、アレコレと手を出してしまう性分で、今ではたまにロードバイクに乗る程度なのですが、一時期はJ Sportsでサイクルロードレースも見ていました。
 ロードレースの説明から始めると大変なので、詳しくは検索とかしてもらうとして、日本で馴染みのある競輪のようなトラック(競技場)を何周もするものではなくて、公道を長いものでは300km弱ぐらい平地だったり山だったりを、1日(ワンデイレースといわれる)だったり、長いもので20日ぐらい(ステージレースといわれる。毎日だいたい200km以上走るんですよ)続けたりして旅するレース競技です。
 そんなもん何時間も見てるのかよ、って思うかもしれませんが、僕なんかもっぱら録画したやつを何かやりながら再生しておいて、たまにちゃんと見るくらいの……ラジオ番組的な付き合い方をしていた気がします(当然消化できないのでリアルタイムで追えなかった)。
 だもんで、実況・解説もある程度だれることは織り込み済みだし、雑談が得意な人がスター解説者だしね。……あなただ、栗村修さん! スペインでも屈指の厳しさを誇る山アングリルに対して「お口アングリル」とか、ダジャレがバカバカしくて最高だよ。

 そんなロードレース、初めてちゃんと見たのが2015年のジロ・デ・イタリア。
 このジロというレースについてもちょっとだけ説明しておくと、先にちょろっと触れたステージレースのひとつで、中でもイタリアのジロ・デ・イタリア、フランスのツール・ド・フランス(これは知らない人でも聞いたことないですか?)、スペインのブエルタ・ア・エスパーニャの3つがステージレースの中で最高峰とされ、グランツールと呼ばれます。

 前から街乗り用のクロスバイクは乗ってたのですが、急にラレーのラドフォード・クラシック(これは当時のモデルじゃないけど、見た目はほとんど一緒だと思う。すごーくかっこいいでしょ???)が欲しくなって欲しくなって、思い切って買ってしまった。そのままよくある「クロス買ったらロード欲しくなった」ルートに入っちゃいまして(この有名なパターン、もしかすると街乗りに特化したクロスだと当てはまらないのかも、と思った)。パーツ的にはロードがベースなのでハンドルだけ換えまして、そしたらお嫁も別のクロスバイク買ったんだけど、ラレーのロードバイクを買っちまうという我が家の財政緊急事態待ったなし状態になりました(ここの自分語りの段落は早口です)。
 当時プレミアリーグでリバプールFCというサッカーチームを応援しはじめて1年、その関係でJ Sportsに加入していたので、せっかくだし見てみるか、ということでちょうどやっていたのが、ジロ・デ・イタリアというレースなのでした。

 どういうわけだか、ときどきお嫁は特定のスポーツ選手に予感のような何かを感じることがあり、今回のそれがタイトルの選手、スペイン人レーサーのアルベルト・コンタドール。
 ロードレースのまたややこしいところに、選手のタイプがいろいろありまして、ゴール地点などのポイントで点を競うスプリンターやら、山岳のポイントではクライマー、普段は集団で(200人弱とかだったかな)走るんだけどその日は個人やチーム単位で走るタイムトライアルレースに特化したTTスペシャリストなんてのも。で、コンタドールはと言いますと、ステージレースで全ステージを走った総合タイムを争う選手です。
 まあすでに名選手も名選手で、大注目のド本命みたいな感じではあったんだけど、とにかくお嫁が注目したのでそれはしょうがない。

 それでなんとなくコンタドールに注目して見ていくと、第16ステージでドラマが待っていました。
 サイクルロードレースには、なにかと不文律というやつがありまして。別にルールとして決まってるわけじゃないんだけど、それはやめようね、みたいな選手間の空気というか。そのひとつに、総合トップの選手の不運に乗じてはいけないってのがあります。
 コンタドールはそのとき総合トップ。でしたが、16ステージで乗ってる自転車がパンクしてしまうわけです。不文律どおりなら、ここではだれも仕掛けずにコンタドールの復帰を待ちます。なんだこのスポーツ、と思うかもしれませんがそんなだったんです(いまはわかりません)。
 ところがここで総合2位の選手がオキテ破りのアタックを仕掛けます。一気に離されるコンタドール……ところが。

 難所の上りに入ると、まさに怒りの追走劇が開幕。一気に30人ほど抜き去り、見る見るうちに遅れを取り戻し、先ほどの2位の選手をブチ抜いて……もう、お嫁と二人で「マンガかよ!!!」って大興奮。こんなことってある???
 それ以来我が家はすっかりコンタドールファンになったのでした。

 興味が出たので、過去のついても調べると、2004年のレース中に、レース中にですよ、いきなり意識を失い落車していて、一時は重体になり生死の境をさまよったそうです。2006年にもレース終了後に突然の失神。こんなことがあるのに、ヘルメットとうっすいサイクルウェアだけで、平均時速40~50km/h、平均でこれなんでゴール前のスプリントや下り坂なんかだと70~80km/hとか出てるレースに参加するって、どういう不屈の精神なのよ、って思いません???
 あとコンタドールさん、決めポーズがありまして、ステージレースだとその人のレースに勝つ=区間勝利したときや、総合タイムでトップに出たときなんかに指でピストルを撃つんですよ。バキューンポーズとか言われたり。ついた愛称が「エル・ピストレロ」。

 そんなコンタドールさんですが、この年のジロを最後にグランツールの表彰台から遠ざかります。
 2015年、ジロからツール・ド・フランスの連覇をかけて挑むも総合5位。2016年の同じくツールで、序盤から2度の落車もあり、第9ステージでリタイア。同年のブエルタ・ア・エスパーニャでは4位で総合敢闘賞となるも、翌2017年のツールで総合9位に終わる。

 この頃、クリス・フルームという選手がもうめちゃくちゃにガチガチに強くて、ロードレース中継を3年見てきただけで言うのもなんだけど、残念ながらコンタドールのピークの最後は2015年で、世代交代してしまったんだな……と思っていました。

 そして2017年のブエルタ・ア・エスパーニャ。このレースを最後に、コンタドールは引退を発表します。
 最後のグランツール、祖国スペインのレース、当然ですが、周りの目はドラマを期待しました。が……序盤の第3ステージから総合争いに大きく出遅れてしまうことになります。しかし不屈の男、諦めませんでした。
 連日アタックを繰り返し、それは何度も失敗に終わりましたが、それでも繰り返していくうちに総合順位もついに5位まで上昇。

 そして迎えた第20ステージ。ここが最後のチャンスでした(翌日に本当の最後の第21ステージがあるんですが、これは基本的にパレード・ランなので。変なスポーツでしょう、サイクルロードレース)。
 このブエルタで何度目かわからないアタックを仕掛け、それをチームメイトが全力でサポートし、なんとチーム外のスペインの若手選手までもがコンタドールのために前を走り、道を作るというまさに最終回のような展開。そうしてレースが進んでいく中で、仲間たちが次々と力尽きていきラスト5.5km、最大勾配20%を越えるいわゆる激坂を1人上っていくコンタドール。それに待ったをかけるべく、アシスト選手を伴って猛追を見せるのが先に触れたクリス・フルーム。
 もうこの時点で実況も解説も現地の観客も我が家もテンションがやばい。そりゃそうだろ、こんなレース! こんな展開!! できすぎなんだよ!!!

 そして、猛烈な追い上げを振り切り、2017年ブエルタ・ア・エスパーニャ第20ステージ、勝利を手にしたのはアルベルト・コンタドールでした。 
 彼が人生で初めてブエルタで区間勝利し、初めて総合トップに立った、アングリルでのことでした。
 もうずっと、長いこと見られなかったバキューンポーズが、現役最後の大舞台でついに……で、で、できすぎなんだよぉ……!!!

 J Sportsのサイトにある、この日のレースレポートが素晴らしいのです。どういうわけだか、この話を読んで興味を持ったなら全文読んでみてほしい。我慢ならないのでちょっと引用するけども。

今世紀最強の自転車チャンピオンが、自らの伝説を、幸せな形で完結させた。アングリルのとてつもなく恐ろしい激坂を、美しき花道に変えて、残り1発の弾丸で、アルベルト・コンタドールは人生最後のステージ勝利を射抜いた。

 うわあああああああああああああああああああああああかっこいい!!!
 僕は、こんなこと言うのもちょっと気恥ずかしいけども、「人生には、まだ見ぬ素晴らしいことがあるはずだ」っていう信念めいたものを持ってます。その支えになってるものがいくつかあって、そのひとつがコンタドールのこのレースなんだよな。

 あと、我が家には録画してあるんだけど、最終日放送の最後に流れた、ブエルタ2017総集的な映像がほんとにいいから、数分だからちょっと見てみて。

 3:01〜3:38のあたり、コンタドール劇場。栄光から失意の時を経て、猛然とアタックをかけ、残っていた最後の弾丸を放ち、フルームと抱擁をかわす……言葉に詰まるな。
 明日もがんばろう。

・上の映像に使われていた曲。これを見てCD買っちゃったよね。




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