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『空色勾玉』/本・日本ファンタジー

内容(「BOOK」データベースより)
輝の大御神の双子の御子と闇の氏族とが烈しく争う戦乱の世に、闇の巫女姫と生まれながら、光を愛する少女狭也。輝の宮の神殿に縛められ、地底の女神の夢を見ていた、“大蛇の剣”の主、稚羽矢との出会いが、狭也を不思議な運命へと導く…。神々が地上を歩いていた古代の日本“豊葦原”を舞台に絢爛豪華に織り上げられた、日本のファンタジー最大の話題作。

 ファンタジーが好きなんだけど、よく考えたら日本のファンタジーを全然読んでない! おれは……本当にファンタジーが好きなのだろうか……?

 あちこちドライブするようになってから、日本の神話や歴史を知ってればもっと面白いのになと思うようになって。そもそも日本史もちゃんと読みたいよなあ……とか大人になってから思っております。
 というきっかけで読んだよ! 記紀神話については……まあ……出てくる神様の名前は聞いたことあるかなー、くらいのゆるっゆるの知識です!

・全体通しての雑感として、キャラクターがいいね。輝と闇の両陣営、それぞれ魅力的に描かれていて楽しく読める。

・いきなり後半だけど、恋に落ちたシーンよかったね。

 自分のまわりを覆っていた薄絹の帷が、突然切って落とされたように、狭也はついに自分が理解したのを知った。瞳と瞳を見かわすとき人々はみな、何を感じていたのか。何をさとっていたのか──

P.435-436

 うーん、すてきねえ。ここの書き方とっても好き。

・基本的に狭也を中心にした視点(つねに登場している状況)でストーリーが進むけど(いないのはP.286からの軍議のシーンくらい)、P.445から稚羽矢がメインになって、なにかしら仕掛けがあるのかな……? と勘繰ったけど、ちょっとそのへんはよくわからなかった……!

・稚羽矢、リアルタイムのファンにかなりモテてそうな気配がある。千と千尋の神隠しのハクのビジュアルで、ボンヤリとした性格にした感じで脳内再生してました。すごくモテそう(勝手に)。

・父母の神々の会話もエピックでよかったな。いつか神になって世界を創造するときには参考にしたい。

『子どもたちが、土を水でこね、火で焼いて器を作るでしょう。火と水ほどに相容れぬものでさえ、一体となることがあるように、わたくしたちはひとつに結びあうことができるのです』
 天つ神は低くつぶやいた。
『土の器か。豊葦原そのもののようだな。もろくこわれ、何度もこねなおし、焼きなおす。だが、そなたは彼らからその営みを奪うなと言うのだな』
『そうです、あなた。怒りにまかせて砕いては、それまでにそそいだ二人の心血が水の泡となります。そうではなく、しるしとなさってください。わたくしとあなたとの形見に』

P.512-513

・話としては、狭也と稚羽矢の貴種流離譚で、大きなテーマは光と闇の統合みたいな感じだと思う。狭也と稚羽矢、天つ神と闇の女神、日照と月代……などなど。
 思い出したのがこの本の一節。

 戦争や内乱や権力闘争について、コメントするときに、一方的にものを見てはいけない。なぜならアフガンの戦争について「アメリカ人から見える景色」と「アフガン人から見える景色」はまったく別のものだからだ、ということは私たちにとって、いまや「常識」です。
 しかし、この常識は実はたいへん「若い常識」なのです。
 このような考え方をする人はもちろん一九世紀にもいましたし、一七世紀のヨーロッパにもいました。遡れば、遠く古代ギリシャにもいました。しかし、そういうふうに考える人は驚くほど少数でした。そのような考え方をする人、あるいはそのような考え方を受け容れられる人が国民の半数以上に達して、「常識」になったのは、ほんのこの二十年のことです。

『寝ながら学べる構造主義』P.22(2002年発行)

「相手には相手の正義がある」というのは、自分が後追いで触れたものだと、ロードスやガンダムで思ったけど、88年の空色勾玉もまたそういった空気を感じるかな。この辺がキャラクターがそれぞれに魅力的に感じる大きな要因かしら。

・剣と勾玉がキーアイテムだけど……鏡は? 一応出るには出てたけど、大きなファクターじゃなかったような。……でも、国つ神の封印って考えたら普通に大きいか?
 あとは、狭也と稚羽矢の間そのものの比喩が強いのかな。

 がんがんと耳をうつ声の中で狭也はようやく奈津女から顔を上げ、稚羽矢を見た。今度は稚羽矢も気づいていた。狭也のまなざしを捉えたとき、その表情が変化するのが見てとれた。はじめはただ驚き、そして、見つめるにつれて徐々に深い失望に変わり──狭也は、鏡を見るように、稚羽矢の顔の上に自分の表情が映っていると思った。そしたそのことに打ちのめされながらも、どうすることもできなかった。

P.397

・話としては、一作できれいにまとまったけど、三部作なのよね。続きも読もうかな。
 鳥彦が好きで、なんともつかみどころがないけどとってもいいやつという、面白いキャラクターだよね。登場シーンは、なんていうか少女マンガ的な流れなら恋のライバルというか当て馬的な雰囲気すらあったのに(その役回りは科戸王のほうでしたね!)、儀式で焼かれて(!)、その直後にアッサリとカラスに転生というか入れ替わりというかして再登場するという……考えたら結構すげえ展開だ! 続編にも出てきてくれないかなー、とぼんやり思ってます。

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