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『パラークシの記憶』/本・SF青春ミステリー

冬の再訪も近い不穏な時代、村長の甥ハーディは、伝説の女性ブラウンアイズと同じ瞳の色の少女チャームと出会う。記憶遺伝子を持つこの星の人間は、罪の記憶が遺伝することを恐れ、犯罪はまず起きない。だが少年と少女は、背中を刺された男の死体を発見する…名作『ハローサマー、グッドバイ』の待望の続編。真相が今語られる。

 前作を忘れないうちに、と読みましたが、ええと、明らかに今作のほうが好きです!
 面白い本を読んだときはお嫁に勧めるのですが(逆もある)、続きものだからなあ……という悔しさ。
 訳者あとがきにも書かれているように、「『独立した作品として読めるように書かれている』という続篇紹介の常套句は本書にも当てはまる」(p.517)んだけど、やっぱまあ常套句だし……それにしたってやはり前作読んでたほうが明らかに面白いと思うんだよなあ。
 というわけで、前作読んだ人は読んだほうがいいよ! 面白いよ! という感じです。ちょっと話のテイストは変わっています。

 では以下、感想と引用と。


・今回は父親との関係はいいのね。替わりに(?)叔父が出てきてイライラさせてくれる。
 ついでに、主人公のキャラクター性は少し年上になってるけど前作と似たような若者で、「ナイフ・エッジ・カレスな主人公」みたいな表現を前作のレビューで見たんだけど……あれはフリッパーズギター由来なのかしら? フリッパーズのことだから元ネタの言葉があるのかと思ったんだけど、うまく探せませんでした。

 懐かしいね! 両作の主人公の雰囲気によく合う。

・地球人がいる! 前作は作者の言葉で地球(人)と似たものが出てくるけど、違う存在ですよと示されていたが、今作で別個の存在として地球人登場。主人公たちはスティルクと呼ばれる種族なのか。

・引き続き、常に物語の現在時より未来から振り返る形で語られていて、前作もそうだったけど、これはスティルクの記憶の形式から来てたのかな。
 語りの手法として、未来から振り返る形ってのはよくあるけど、スティルクが確実な形での記憶再生ができるという設定と絡めてあっていいね。
 ついでにこの設定はミステリーとマッチしまくるのでこの点も良かったね。前作の感想で──

 大オチには「おおー!」って思ったけど、できたらもっとその部分をもっと味わわせて!! って気持ちが強くもあり……

って書いたんだけど、その点今作は大オチに当たる部分以外でも、わりと常に謎を追う感じで好みでした。



「あなたたち地球人は、それほどの知識があるのに、なぜいまだに宗教を持っているのですか?」そのとき、ミスター・マクニールは長いこと考えこんで、これはとても深遠な答えが聞けるぞとぼくが期待しはじめたときに、こういった。「面白半分、ではないかな」

p.54

 ちょっと、ふふっとさせるシーン。
 ついでに伝説について言及するところも。

 伝説というのは、いまでは血すじが途絶えている大昔の人たちが体験した事柄だと思われる──それゆえに、現存する人たちの星夢の中では呼びおこされることがない。そして口承によって伝えられ、おそらくその語り継がれる過程で、しまいには、嘘も
同然のものにまでなってしまった。宗教とはそうした嘘に基づいたものだ。大ロックスの姿になった太陽神フューが、かつて極悪非道の氷魔ラックスの手中からこの星を引き離した、とか。あるいは、雲の上の親山羊さまがあらゆる人々を生んでいる、とか。

p.260

 これらは、現実(このnoteを読んでいるあなたの現実世界)の宗教観や伝説観についてというより、SF・ファンタジーな作品世界の中の宗教や伝説についての記述として面白く感じる。
 なんでだろうと少し考えたけど、作品世界の中にも物語があることそれ自体、またそのことによって作品世界の現実らしさが高まるから面白いのかしら……。
 ようはまあ、リアリティのひとことで済んじゃう話なのかもしれない。けど、「作品世界の中に物語があることにリアリティを感じるということ」が肝なのかもしれない。


「ヤムの人たちは大ロックスに祈りを捧げるだろう、そして祈る者の数からして、おれたちが悪しきラックスから解放されるのは確実だ。だがおれたちは、おまえたちのためには祈らない。おまえたちはもうラックスに落ちたからだ、おまえたち全員が。ラックスに!」
 それは去り際の演説としてはなかなかだったが、たちまちなんとも締まらない結末を迎えた。スタンスは電灯照明を勘違いして、時間経過がわからなくなっていた。スタンスがさっとドアをあけ放つと、そこは激しく霙の降る、冷たく暗い世界だった。
「なんだこれは!」スタンスはもごもごいうと、叩きつけるようにドアを閉めた。そしてくるりとふり返ってミスター・マクニールとむきあうと、唾をごくりと飲んで、「今晩おれたちを泊めてくれるだろう」と唐突にいった。

p.428

 だいぶ終盤になってスタンスが滑稽に描かれるようになったけど、とはいえシリアスな展開の中、ここはちょっと笑ってしまった。少しかわいそうなくらいですらある。

 さて、次は……どうしようかな。『文学効能事典』絡みで見つけた本、『窓から逃げた100歳老人』を試してみよかな。はてさて、面白く読めるかしら。

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