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『アディ・ラルーの誰も知らない人生』感想
ここ最近で、何も情報なしに読むといいよと言われている本 その3
— 早川書房 翻訳SFファンタジイ編集部 (@hykw_SF) March 29, 2022
V・E・シュワブ『アディ・ラルーの誰も知らない人生』上下 単行本 pic.twitter.com/7BBBrzF3GJ
この一連のツイート(ありがたい!)で知った作品。『ブルックリンの死』を読むと、挙げられた4作全部読めるのでこちらも楽しみにしている。
読み始めて、この話はいったいどこへ行き着くんだろう……? と、ずっとドキドキしながら読んだよ。全体として面白かったけど、ちょっと引っかかった部分もあったかな。
ちょっとこう言っていいのか微妙な感想かもしれないけど、すごく甘美な話だと思ったのよね。
300年という時の長さと、誰の記憶にも残らない人生。その痛みも悲しみも苦悩も絶望も、体験できないどころではなくて。だから軽々しく考えるべきではないと思うのだけど……。特にそもそもアディが自由を願ったくだりなんかは、明らかに現代の男性の自分(おそらく、自分の属性は感想に大きく影響してると思う)からしたら境遇が違いすぎるだろうし……。
肩に温かな手が置かれ、それがとても優しかったので、必死に、無理矢理、もしかしたら──もしかしたらこれを救う方法があるのではないかと思った。アディはふり向き、目を合わせようとしたが、レミーは下を向き、目をそらし、彼女の手に硬貨三枚を握らせた。
すべてが寒々とする。
支払い。
これは相当きっついシーン。かなりえぐられる。
なんだけども……最後まで読んで、やっぱり羨ましいとすら思ってしまったのもまた正直な気持ちであって……。
一瞬のよろこびに長年の悲しみの価値はあるのか?
美しい瞬間に何年間もの苦悩の価値はあるのか?
アディは彼のほうに顔を向けて、その目を見つめて、いう。「もちろん」
何かの芸術を突き詰めるように愛するわけではない自分ですら、これまでに生まれ、これからも増え続ける、あまりに多くの作品のほとんどを知ることすらないのだと思うとめまいがする。圧倒される。打ちのめされる。
ぜんっぜん足りないんだよ……。
時はいつも、準備のできる寸前で終わる。
人生は人が求めるものから一を引いた時間だ。
これは本当に陳腐にすぎるのはわかったうえで、どうしても思っちゃう。時間が欲しい。追われるのも嫌だけど、大事にしなきゃなあ……と。
ふり返ってみると、そこはやはり緑色と茶色の、夏の野の色だ。目の前に広がっていたのは、そのときのアドリーヌは知らなかったが、アブラナ畑だった。そのときはただ美しかった。圧倒された。アディは目を奪われ、つかの間空腹も、痛む足も、突然の喪失も忘れ、驚くべき明るさ、強烈な色に驚嘆した。
畑を歩いていくと、つぼみが手のひらをかすめる。草を踏みつぶしてしまうおそれはない。アドリーヌの歩くそばから草はまっすぐに戻り、足跡は消える。
ところで、映像化の話もあるらしいけど、このシーンはぜひ見てみたい。キービジュアルになりそうな美しさだ。アディが絶望してから初めて、美しさに触れたシーン。
(※ずっと気になって調べたけどわからなかったこと。アブラナのつぼみって夏じゃないよね……? 品種によるのかなあ……調べたけどぜんぜんわからなかった。誰かわかる人が読んでくれたら教えてほしい……!)
自分の信念めいたものとして、人生には、未だ見ぬ素晴らしい瞬間があるんだって気持ちがある。きっと、いつか、どこか、ってついてしまうけど。
もっと、美しいものに触れたいんだ。
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