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『窓から逃げた100歳老人』/本・爆弾コメディ小説

お祝いなんてまっぴらごめん!100歳の誕生日パーティの当日、アラン・カールソンは老人ホームの窓から逃走した。ひょんなことからギャング団の大金を奪ってしまい、アランの追っ手は増えていく。けれども、当の本人はなるようになるさとどこ吹く風。それもそのはず、アランは爆弾つくりの専門家として、フランコ将軍やトルーマン、スターリン、毛沢東ら各国要人と渡り合い、数々の修羅場をくぐり抜けてきた過去の持ち主だったのだ。20世紀の歴史的事件の陰にアランあり!過去と現在が交錯するなか、次々展開するハチャメチャ老人の笑撃・爆弾コメディ、日本初上陸!

 久しぶりに『文学効能事典』から「チャンスをつかむのがへたなとき」で紹介されていた本。たぶん事典から読む小説はいったんこれで最後かな。

 で、タイトルとかあらすじから、年老いた(なんせ100歳)老人が思い出とともになんか感動する感じのエピソードを振り返りつつ面白話をして、結局感動ストーリーなのかなあ、とか思ってたんです。
 ちがったわ。「ハチャメチャ老人の笑撃・爆弾コメディ」だった。爆弾コメディ……!
 笑いはなかなかブラックな感じもあり、実在の人物(主に政治家)がドンドコ出てくるので、歴史がわからない自分はわりと確認しながら読んだりもして、この本、賢い人が楽しむやつなのでは、とか思ったりもしましたが、それはそれとしてふつうに面白かったです。
 ただ、面白いからこそ、エピソードが現在と過去と往復するのが、とくに中盤あたりまで「このままこっち側の話の続きを読ませて!」ってなりがちなのがもどかしかったかなー。

 というわけで、あとはちょっとだけ引用して感想書いて。


「何様のつもりだ、このどぶネズミが! 貴様、ファシズムの、おぞましいアメリカ資本主義の、スターリンが蔑むこの世のすべてのものの、そのお先棒が、よくも、よくも、貴様が、クレムリンに、クレムリンに来て、スターリンと、スターリンと交渉できると思うのか!」
「どうしてなんでも2度言うのですか?」

p.238

 たいがいアランはぶっ飛んでるんですが、この箇所は特別面白かった。この場面でこれを言うのはすごいよ!


「おそらく聖書のことで癇癪を起こしたのでしょうな」と、アランが言った。「宗教というのは、人の気持ちを高ぶらせますからな。いつかテヘランで⋯⋯」
「テヘラン?」検察官が思わず聞き返す。
「ええ、もう数年前になりますか、あのころは今のように最悪の状態ではありませんでした。平和な国でしたよ、離陸するときにチャーチルもそうわたしに言ってました……
「チャーチル?」検察官はまた聞き返した。
「ええ、首相の。もっとも、そのときは、首相ではなく、前首相。それからまた首相に返り咲く」
「チャーチルが誰かは知ってる、ちくしょう! こっちが知りたいのは、なんでチャーチルと一緒にテヘランをずらかったかだ」

p.350-351

 検事がアランの話の誘惑に耐えきれずに、ついつい聞き返しちゃうところ、面白かったね。わかるよ、その気持ち。


 ある晩、仲むつまじさがとりわけ昂じたとき、ルンドボリ教授が1925年8月のあの日、ちょいと執刀の手ぬかりをやらかしたにちがいないということが判明した。なぜならアランは、自分でも驚いたことに、あれ以後は映画でしか見たことのない行為を成就できたのである。

p.405

 やっぱり感動ストーリーだったわ!!! 感動したよ!!!

 という感じで終わります。ではー。

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