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第67回 建築家による入居者ガイド

一般に日本の賃貸住宅では、カーテンや照明、家具などインテリアと分類される備品は借り手(住む人)が購入して設置する。つい最近まで、エアコンも借り手が設置するのが普通だったが、温暖化でエアコンなしの生活が考えづらくなったためか、オーナーが最初から設置するようになった。

インテリアは個人の趣味嗜好の差が大きいから、それも理に適っていると思う。一方で、複数の住宅が並ぶ場合、表から見えるカーテンのセンスがあまりにバラバラだと統一感が保てず、せっかくきれいな建物であっても、住宅展示場のような雰囲気となってしまいかねない。照明も同じだ。白熱電灯と蛍光灯では外から見える印象は大きく異なる。

自分の嗜好を強く主張したいのでなければ、できるだけ隣接する家同士は同じようなインテリアで統一感を保ったほうが、皆にとってメリットがあると思う。強いこだわりがないにも関わらず、店に足を運びカーテンや照明、家具などを選ぶのは時間の無駄と感じるかもしれない。最初から設置されていた方がいいと考える人も多いだろう。

そこで、その建物の雰囲気に合うインテリアを、入居時に提案してあげればいいと僕は考えた。最も合うインテリアを理解しているのは、設計した建築家だろう。建築家は設計する段階では、そうしたインテリア類も備わった建物に暮らす家族をイメージしているに違いないからだ。もちろん、その提案に従う義務はない。こだわりのある人は自分で選び、また既に使えるインテリアを持っている人はそれを持ちこめばいい。

建物のメンテナンスについても、設計した建築家が最も詳しいはずだ。数十年後の建物の状態も想像しているはずだから。

そこで、僕は設計したくれた栗原さんに、建築家の立場からカーテンや照明、家具を推奨してもらい、またメンテナンスに関するアドバイスする資料を作成してもらうことにした。

インテリアで推奨商品を提案するのは、カーテン、ベッド、ソファ、ダイニングテーブル、食器棚、収納ケース、照明だ。推奨商品とQRコードを示し、そこから販売会社サイトに飛ばしてそのまま購入もできるようにした。手頃な値段の商品にしてもらったので、無印やIKEAなどが多い。

家具を選ぶ時は、気にいった商品であっても、サイズと置く位置(それも迷う)からそれを購入してもいいか迷うことが多い。建築家だから、動線を想定し置く位置を定め、推奨商品のサイズを部屋の図面に落とし込むことは簡単だ。カーテンも購入時に幅や高さの調整で手こずるが、最初から窓の大きさに合う商品と枚数を指定しておけば迷う必要もない。

照明は、モーゲルソケットと引継シーリングの2タイプがあるので、それぞれにお奨め照明器具と注意事項を書いてもらった。また天井高さやフックの位置も案内しておけば、コードの長さも決めやすいだろう。

メンテナンスについては、床フローリングの手入れと24時間換気に関する注意事項を書いてもらった。特にフローリングは杉無垢材なので、その特性をよく理解してもらい、水分をこぼしてしまった時の対応や大掃除時のメンテナンス方法は、丁寧に解説する必要がある。

24時間換気は、第62回にも書いたようにデメリットよりもメリットが大きいことをしっかり理解してもらい、スイッチを切ったり換気口を閉じたりしないように注意を促す必要がある。僕もそうだったが、24時間換気の重要性を理解している人は、専門家以外ほとんどいないと思う。逆に言えば、きちんとそれを理解しさえすれば、24時間換気を正しくするようになるに違いない。


そうして、何度かのやり取りを経て、3月16日に「建築家からのインテリア&メンテナンスガイド」が完成した。住人には必ず渡して、しっかり理解してもらうようにしたい。


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